上 下
6 / 34

第6話

しおりを挟む
 今日の授業を終えて、私とラドアお兄様は馬車に乗って屋敷に戻っていた。

 昼休みにアイン様から聖女について話を聞き、馬車の中で対面していたお兄様が呟く。

「これから聖女になるローナの魔力だと、国のモンスターを弱らせることができず、更に人々の強化も弱まるとアイン様は仰っていた」

「はい……アイン様の推測通りなら、私が想像していた以上にこの国は大変な目に合いそうです」

 来週の聖女を継承する式典を経て、平民ローナは聖女となる。
 聖女の力は国土に干渉するようで、それによってローナの魔力は向上するはずだ。

 問題は元のローナの魔力がそこまで強くないから、先代の聖女より魔力が弱まることにある。

 アイン様が言うには、本来私が聖女に選ばれるはずで、ローナは万一の備えとして選ばれていたらしい。

「私に何か起きた場合の備えでしかない聖女候補……普通に魔法の成績が優秀だった私より、ローナを優先するのはこの世界にとっても予想外のはず」

 聖女の力はこの世界の加護のようなもので、聖女の力は継承するか聖女が消失しなければ得ることができない。

 範囲が決まっているから他国の聖女を持ってくることはできず、アイン様はこれから何が起こるのかを話してくれた。

 この国は最悪滅びるかもしれず、私は不安になっていると……ラドアお兄様が話す。

「セリスは陛下やジェイクに言われて従っただけだ……間違いなく、ヴィーオ家は糾弾されるだろう」

 今後どうなるのか私や家族は予想できていて、アイン様も同意見のようだった。

 アイン様と話せてよかったと考えていると、お兄様が頭を下げる。

「今日の昼休み、駆けつけられなくて悪かった……アイン様がいてくれて助かったな」

「そうですね」

「アイン様は立場より実力主義なのだろう。あの場でセリスを助けてくれたほどだ」

 そして相手が公爵家でも、アイン様は普通に意見していた。
 魔力が高く優秀な魔法使いだからこそ、あそこまで堂々とできているに違いない。

 そんなアイン様が味方になってくれることに、私は嬉しくなっていた。

「はい……お兄様とも意気投合していましたし、これからも力になってくれるようです」

「そうだな。アイン様なら信用できそうだ」

 ヴィーオ公爵家を敵に回す可能性が高いけど、侯爵令息のアイン様が力になってくれた。
 
 これならローナが聖女になる時まで安全そうだと考えて、一週間が経過する。

 アイン様のお陰で問題は発生せず――平民のローナが、聖女になろうとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

処理中です...