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第21話
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ジェノス視点
前聖女フィーレ様がいなくなり約3年が経過して、ローノック国は崩壊寸前だった。
モンスターの襲撃、それによる被害が多すぎて――今の聖女が無能だからだと、国民の一部が暴徒と化す。
城の会議を行う大部屋に呼び出され、宰相とローノック王、マリウス王子と聖女アビリコがいる。
国王は苦しそうに、現状を話し始めていた。
「今まで冒険者達の拠点になっていたというのに……冒険者ギルドすら、マトモに機能していないと聞く」
冒険者は生活が豊かならその場所を拠点にするというだけで、国の危機で依頼が割に合わなくなれば出て行く。
依頼を出そうにも被害が多すぎて……破産を恐れた王家は、そこまで冒険者を支援していない。
依頼が割に合わないと考える冒険者は多く、ローノック国が滅ぶ時は着実に迫っている。
大部屋で現状を聞きながら……俺は呆れるしかなかった。
ローノック国が滅んでいないのは、俺がまだいるからだと断言できる。
俺は2つほど気になっていることがあり、この国をまだ出ていなかった。
それでも……未だにわめくだけの国王と王子達を眺めていると、もう限界だった。
そう考えていると、今日の国王はいつもと違うことを言い出す。
「こうなれば仕方がない……フィーレを捜索する!」
今日の会議内容は、前聖女フィーレ様の捜索らしい。
ようやくかと、俺は決断の遅さに呆れるしかなかった。
この国を出るまでに知りたい2つの気になること――1つは、リカルドの成長だ。
冒険者ギルドに時々顔を出しているから、俺はフィーレ様とリカルドがどこにいるのかを知っている。
それでも教えれば面倒なことになるのは間違いなく、国王に黙って捜索していたマリウス王子に場所を教える気はなかった。
捜索すると国王は言ったが、具体的にどうするかは決めていないのだろう。
それを確かめるため、俺はローノック王に尋ねる。
「フィーレを捜索? 場所の目星はついているのですか?」
「知るわけがないだろう! それでも探すしかないのだ!」
「……わかりました。私が捜索隊を作り、指揮をとります」
「ならん! 貴様はこの国で一番強いのだから私達の傍にいろ!!」
国王が叫び、俺は頷く。
今までは給金が高くて居座っていたが、そろそろ引き際だ。
それでも出られない、気になっている2つ目の理由――約1年前に起きた、謎の膨大な魔力の発生。
魔法協会が関与しないせいで理由が未だにわからず、把握するまでは動きたくなかった。
得体の知れない膨大な魔力を察知できたのは、恐らくローノック国内限定のはず。
魔法協会も未だに知らないことで……最悪ローノック国だけではなく、他国を巻き込む可能性があるほどの力だった。
この国が滅ぶのは当然の末路だとしても、他国は関係ない。
理由を調べないと国から出たくないと考えているが……やはり魔法協会の協力は必要になる。
魔法協会はローノック国のことに一切関与しないと決めているから、余程のことでなければ話を聞かない。
それを考慮すると……高位冒険者として有名だった俺がローノック国を出て、直接魔法協会に報告へ向かうべきだろう。
フィーレ様が自らを封印されて3年が経ったから、封印が解けているかもしれない。
そうなればリカルドは国を出そうだから、それまでに会っておきたかった。
「――そろそろ、見限る時だな」
小さく呟き……焦っている部屋の連中は、俺の声が聞こえていなかった。
前聖女フィーレ様がいなくなり約3年が経過して、ローノック国は崩壊寸前だった。
モンスターの襲撃、それによる被害が多すぎて――今の聖女が無能だからだと、国民の一部が暴徒と化す。
城の会議を行う大部屋に呼び出され、宰相とローノック王、マリウス王子と聖女アビリコがいる。
国王は苦しそうに、現状を話し始めていた。
「今まで冒険者達の拠点になっていたというのに……冒険者ギルドすら、マトモに機能していないと聞く」
冒険者は生活が豊かならその場所を拠点にするというだけで、国の危機で依頼が割に合わなくなれば出て行く。
依頼を出そうにも被害が多すぎて……破産を恐れた王家は、そこまで冒険者を支援していない。
依頼が割に合わないと考える冒険者は多く、ローノック国が滅ぶ時は着実に迫っている。
大部屋で現状を聞きながら……俺は呆れるしかなかった。
ローノック国が滅んでいないのは、俺がまだいるからだと断言できる。
俺は2つほど気になっていることがあり、この国をまだ出ていなかった。
それでも……未だにわめくだけの国王と王子達を眺めていると、もう限界だった。
そう考えていると、今日の国王はいつもと違うことを言い出す。
「こうなれば仕方がない……フィーレを捜索する!」
今日の会議内容は、前聖女フィーレ様の捜索らしい。
ようやくかと、俺は決断の遅さに呆れるしかなかった。
この国を出るまでに知りたい2つの気になること――1つは、リカルドの成長だ。
冒険者ギルドに時々顔を出しているから、俺はフィーレ様とリカルドがどこにいるのかを知っている。
それでも教えれば面倒なことになるのは間違いなく、国王に黙って捜索していたマリウス王子に場所を教える気はなかった。
捜索すると国王は言ったが、具体的にどうするかは決めていないのだろう。
それを確かめるため、俺はローノック王に尋ねる。
「フィーレを捜索? 場所の目星はついているのですか?」
「知るわけがないだろう! それでも探すしかないのだ!」
「……わかりました。私が捜索隊を作り、指揮をとります」
「ならん! 貴様はこの国で一番強いのだから私達の傍にいろ!!」
国王が叫び、俺は頷く。
今までは給金が高くて居座っていたが、そろそろ引き際だ。
それでも出られない、気になっている2つ目の理由――約1年前に起きた、謎の膨大な魔力の発生。
魔法協会が関与しないせいで理由が未だにわからず、把握するまでは動きたくなかった。
得体の知れない膨大な魔力を察知できたのは、恐らくローノック国内限定のはず。
魔法協会も未だに知らないことで……最悪ローノック国だけではなく、他国を巻き込む可能性があるほどの力だった。
この国が滅ぶのは当然の末路だとしても、他国は関係ない。
理由を調べないと国から出たくないと考えているが……やはり魔法協会の協力は必要になる。
魔法協会はローノック国のことに一切関与しないと決めているから、余程のことでなければ話を聞かない。
それを考慮すると……高位冒険者として有名だった俺がローノック国を出て、直接魔法協会に報告へ向かうべきだろう。
フィーレ様が自らを封印されて3年が経ったから、封印が解けているかもしれない。
そうなればリカルドは国を出そうだから、それまでに会っておきたかった。
「――そろそろ、見限る時だな」
小さく呟き……焦っている部屋の連中は、俺の声が聞こえていなかった。
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