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第9話

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マリウス視点

 元聖女フィーレと護衛リカルドを城から追い出し、数カ月が経過していた。
 今日は新たな聖女を祝う式典が行われ、俺の隣には聖女アビリコの姿がある。

「マリウス殿下……私を聖女に選んでくださったと陛下から聞きました。ありがとうございます」

 常に感謝の言葉を口にする公爵令嬢アビリコは、緊張している様子だ。
 聖女の立場は荷が重いと考えているに違いないと、俺はアビリコの肩に触れる。

「アビリコ。何も心配することはない……聖女など、誰がやっても同じだ」

「そうなのですか?」

「ああ。平民のフィーレですら聖女になれたのだぞ、夢で魔法の使い方を学んだ者なら誰にでも聖女になる才能がある」

「才能……マリウス殿下、本当にありがとうございます」

 今まで魔法の成績が悪かったアビリコは、聖女の魔法に原因があると考えていたらしい。
 そしてその聖女の魔法を覚えていたからこそ、こうして聖女になることができて安堵していそうだった。

■◇■◇■◇■◇■ 

 式典が終わりを迎えた後、城に1人の青年がやって来る。
 あえて式典を行った後に、この青年が来るよう仕組んでいた。

「……ローノック陛下。フィーレ様が聖女でなくなったというのは本当ですか?」

 父上、俺、アビリコは応接室で、驚いている様子の青年を眺める。
 こいつは聖女を選んだ魔法協会に所属する賢者で、平民を選んだのは余計なことだと思うしかない。

「本当です……聖女フィーレは何を血迷ったのか自らを封印しました。そうなれば新たな聖女を用意するのは当然でしょう」

 魔法協会に認められた者は賢者と呼ばれ、その気になれば国を一つ落とせるほどの力があるらしい。
 父上も慎重に言葉を選んで話していると、賢者はアビリコを眺める。

「そうですか。フィーレ様の聖女としての才能は素晴らしかったと断言しますが、何も話を聞きませんでした」

 どうやらフィーレが聖女なら、偉業を成し遂げていてもおかしくないと考えていたようだ。
 平民上がりの聖女には何もさせる気はなく、俺は内心見下しながら賢者に話す。

「賢者様の目が節穴だったのではないか? 現にフィーレは護衛と共に姿を暗ました。聖女の責任に耐えられなかったのでしょう」

 疑ってくる賢者に対して、俺は苛立ちを籠めながら告げる。
 どうやら済んだことは仕方ないと考えているのか、賢者はアビリコを眺め呆れていた。 

「それにしても彼女を選ぶとは……私としては、聖女を変えるべきだと言わずにはいられません」

 賢者は俺、父上、アビリコを蔑んだように眺めて告げる。
 明らかに見下してくる反応に苛立ち、俺は思わず叫ぶ。 

「父上の、陛下の判断が間違っていると言うのか!?」

「マリウス!? 相手は賢者様だぞ!!」

「っっ……声を荒げてしまい、申しわけありません」

 父上が珍しく俺に怒鳴り、思わず頭を下げる。
 屈辱だと考えていると、頭上から賢者の呆れ果てた声が聞こえた。

「……先ほどの会話は記憶致しました。もし何か問題を起こしたとしても、魔法協会はこの国に関与致しません」

「っっ……いいだろう。それなら支援も打ち切りだな!」

 これに対しては父上も焦ったようで、支援を打ち切ると脅す。
 それでも賢者は涼しそうな表情を浮かべて、頷きながら呟く。

「平和になって以降、協会の支援を渋っていたのはローノック国です……それでは、失礼いたします」

 そう言って賢者が去って行き……俺は断言する。

「失礼な奴だ……ふん。魔法協会の関与など、平和となったこの国に必要ない!」

 陛下も頷き、俺は次期国王に相応しい振る舞いを見せている。
 忠告を無視して、魔法協会が関与しないことが決まり――この行動が、最悪の事態を引き起こすこととなっていた。
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