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牢獄

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~カイジュ監獄~

・リーシュ
「どうしてこうなったの?」

牢獄の牢に入れられ数日。
周りを魔物に囲まれながら、リーシュは考える。

・リーシュ
「何故、私はここに居るの?」

牢獄の中で蠢く魔物の群れ。
その中でリーシュは思い深ける。

・リーシュ
「私は、、、このまま死ぬの?
まだ、死にたくなよ。
ライオットさん、、、」

既に流せる涙はない、、、
異形の生物たちを前にただ思い深ける。
思考が薄れていく中、彼の事だけは忘れない。
ひと時も忘れることは無い。
ライオットの事だけは、、、 

・「もう、、、限界。
お願い、、、、誰か。
私を殺して、、、」

言葉にならない声を発する。

そして、ついにその日を迎えた。
今、牢の前に大勢の人間が居る。
モーダル国の人間だろう。
牢にはリーシュを囲う様に拘束された魔物。
リーシュは牢の前に居る者に視線を移す。

・???
「ほう、、、まだ思考が残っているのか?
おい、あいつを連れてこい。」

・モーダル兵士
「はっ!!」

3人の兵士が牢に入ってくる。
しかし魔物たちは襲い掛かれない。
頭を抱えながら苦しんでいる魔物もいる。

・???
「苦しいか?だが安心しろ。
既に実験は終わった。
すぐにでも殺してやるさ。」

魔物に向かって笑いながら話しかける人間。

・リーシュ
「命を、、、何だと思っているの!」

リーシュは怒りのままに叫ぶ。
しかし、声にならない。

・???
「ふん、何を言ってるか解らんが、、、
何かを訴えたい事だけは理解した。」

『火球』

不意に魔法が飛んで来る。
そしてリーシュに直撃する。

・リーシュ
「ああああああ」

リーシュの身体を焼く炎。
肉が焼けるにおいがする、、、
それに合わせて周りの魔物が叫ぶ。

・???
「ははははは、どうした化け物ども!
私がそんなに憎いのか?
それともこいつが食いたいのか?
愉快だ!実に愉快だ!」

醜く笑う人間。
腹を抱えて笑う、笑う、笑う。
狂ったように笑う。
そして急に笑顔が消える。

・???
「だが、お前らの死に場所は決まっていてな」

謎の人物が腕を掲げる。
するとリーシュに纏わりついていた炎が消えた。

・リーシュ
「うう、、、、」

何とか生きているリーシュを兵士が牢から出す。

・???
「連れて行け。」

号令と共に兵士がリーシュを連行する。

・???
「残った化け物も順番に運べ。
抵抗するなら痛めつければ良い。
だが殺すなよ?
見せ場はちゃんと取ってあるからな。」

そう言い残して牢を去る人物。
兵士たちは命令されるがまま動く。
魔物たちの絶叫がこだまする、、、
その声を聴き、笑う謎の人物。

・???
「実に良い素材だったよ、、、。
美しい人間が醜くなる瞬間。
いつ見ても最高のショーだ。」

右手に炎の球を造り出して遊んでいる。
実に楽しそうに、、、、

~ライオット~

・「ん~、動いてるな。」

現在、カイジュ監獄の上空で待機中のライオット。

・セリス
「動いている?リーシュがか?
単独で脱出でもしたのか?」

・「いや、赤点数名と一緒にだから、、、
移送中かな?」

・セリス
「ふむ、、、ここはモーダルの領地だからな。
恐らく捕虜にでもなったのだろう。
回復魔法が使えるリーシュだ。
戦時なら回復を条件に優遇されるんだがな、、、
今の状況では何とも言えん。」

・マルチ
「リーシュ、、、」

・「捕虜ね、、、なら牢に入ってた時に居た周りの青点はオルドラの兵士さんかな?
そう考えると捕虜の件は納得出来るか、、、
囚われた兵士達を助ける為に何かしらの条件を飲んだと考えるべきか?」

・セリス
「まぁ、そう考えるのが自然なところか。
だが、今の情勢下でそれほど回復が必要になるか?
そこが引っかかるんだよな、、、
隣国の情勢だから正確には知らんが、反乱や暴動を画策していた反政府組織は、起きる前に鎮圧したとの情報が入ってたぞ?」

反政府組織って、なんだか恐ろしい国だな。
どの世界にもあるんだなぁ~。

・「とりあえず、監獄内の搬送中は手が出せない。
それにさ、マップで見る限り結構な人数が居るんだよね。」

・セリス
「監獄なのにそんなに人が居るのか?」

・「今日になってやたらと増えた感じ。
今もドンドン増えてるね。ここから見えると思うが、あの馬車の列も監獄行きかな。」

セリスが目を凝らす。

・セリス
「高すぎて見えん。
馬車っぽい列があるなぁ~とは思っていたが。」

確かに、肉眼では豆粒にしか見えないか。
でもあまり低空だとバレそうだしな、、、
ちなみに俺はマップ拡大機能で解釈しただけ。
箱に数人が乗って移動している物体とは何か?
恐らく馬車、って具合に。

・「そうだ、あれ作ってみるか。」

俺は鞄から銅鉱を取り出して銅を作成。
続いて形状を変化させる。
細くて長い円錐。
中は空洞にして両端を切断。
水魔法でレンズを作って両端に装着。
レンズの厚みを覗きながら調節、、、

・「テレテレッテレ~、、、
ぼう~えん~きょう!」

某アニメの猫型ロボットの様な声を出してみた。
なんか、言いたくなる。

・マルチ
「ぼう~えん~きょう?」

あ、、、変な覚え方させてしまった。
初めて聞けばそれが正しい呼び方だと思うよね。

・「えっと、伸ばさなくて大丈夫。
これは望遠鏡と言ってね、遠くを見る道具だよ。
見てごらん?」

マルチに望遠鏡を渡す。
おっと、それは反対方向です。
大きなレンズの方から覗くマルチさん。
その姿がちょっと可愛い。

・「逆だよ、小さい方から覗き込むんだ。
あと、絶対に太陽は見ちゃダメだからね?」

・マルチ
「ふわぁぁ~、何これ。
すぐ目の前に馬車があるみたい。」

無邪気な感想を述べるマルチが可愛い。

・セリス
「遠視道具か?初めて見たな。
たしか軍部の貴重品として保管されている品だ。
昔ダンジョンでいくつか発見されて、軍部が全て買い取ったと聞いていたが、ササっと作ってしまうお前が恐ろしいよ。」

そうだったのか、、、
安易に作るのも考え物だな。

・セリス
「マルチ、、、そろそろアタシにも貸してくれ。」

すごく楽しそうなマルチにセリスが嘆願する。
快く渡すマルチ。
、、、、マルチは少し寂しそうだ。
よし、ならもう一個作るか。

・「マルチは水魔法が使えるからやり方を教えるよ。この筒状の道具の両端に水魔法でレンズを作るんだ。覗きながら厚さを調整すればいい。
レンズの形状は火の魔法を覚える時に理解してるだろう?」

言われた通りにレンズを作成するマルチ。
相変わらず魔力操作はめちゃめちゃ上手いな。
流石は錬金術の凄腕職人さん。

・マルチ
「出来た!レンズを調整すればいろんな大きさに見えるんだね。」

教えなくても応用が出来る。
なんて優秀な子なんでしょう。

・セリス
「おい、まずいぞ。
あの馬車は貴族の物だ。
監獄にあれ程の貴族が集結するとなると、、、
考えられる事は一つだ。」

・マルチ
「監獄、、、貴族、、、、
まさか、公開処刑?」

おいおい、穏やかじゃないな。
ちょっとまてよ?
移送ってまさか、、、
俺は急いでマップを再確認する。
牢に居たはずの青い点が全て移動している。
公開処刑だと?

・「セリス、公開処刑と考えるとどのような段取りになるか解るか?」

・セリス
「モーダル国なら、柱に括り付けて炎で焼く。
切り刻む時もあるが基本的には柱に括り付ける。
数が多い時は檻に入れて下から焼く。
これが一般的だな。」

怒気を纏いつつも教えてくれる。
その間にも処刑の準備は進む。

・マルチ
「あった、大きな檻と柱。
多分あそこだよ。」

マルチが指をさす。
俺はもう一つの望遠鏡を作り出して確認する。
多くの貴族が広場に集まっている。
舞台のような場所に大きな柱。
周りに小さな2本の柱。
舞台の下にかさ上げした檻もある。
檻は下から焼く気だな、、、

・セリス
「どいつもこいつも楽しそうだな。
胸糞悪い、、、」

セリスが目に見えて怒っている。
マルチは怒りで震えている。
俺は、何故か冷静だ。

・「刺激を求める金持ちの道楽か、、、」

俺のつぶやきを聞いたセリス。

・セリス
「ライオット?」

・「安全な場所から死を観察する。
自分は人よりも優れている、、、
だから安全な場所から眺めていられる。
自分は選ばれた人間だ、、、
だから他人の死は関係ない。
自分は特別な人間だ、、、
だから絶望を目の前で楽観視できる。
他人の絶叫、絶望をスパイスとして、優越感と言う快楽を求めて集まる人間たち。
人は優越感を得る事で、生きていると実感する。」

徐々に湧き上がる怒り。
同じ種族だと言う悲しみ。
同時にどこか納得している自分。

・「何処の世界でも、人間は同じと言う事か。」

・マルチ
「ライオット?」

俺の中にもある確かな暴力性。
タガが外れれば誰しも同じ、、、
責めるつもりはない。
ただ一つだけ、、、
俺の仲間に手を出した事

コウカイサセテヤル!

・セリス
「お、おいライオット。
大丈夫か?」

・「心配ない。」

とは言ったが、心配だろうなぁ~。
俺の中が怒りでぐちゃぐちゃになってるもん。
さて、どうやって思い知らせてやるかな。

考えていると、遂に処刑対象が出てきた。
マップで確認した限りではリーシュと兵士たち。
の筈だったんだが、、、

・セリス
「魔物?魔物の公開処刑?
わざわざ捕まえて公開処刑とは、どこまでも腐ってやがるな。それともあの魔物たちにリーシュを襲わせる気なのか?」

おかしい、、、
マップではあの魔物がリーシュとそれを守っていた青い点だ。今確認しても同じ、どういう事だ?

・マルチ
「こんなのって、、、」

普段、魔物は討伐している対象だ。
処刑で死んでも戦いで死んでも結果は一緒。
でも過程が違う。
生きる為の生存競争か只の嬲り殺しか、、、
どちらかが死ぬのは変わらないが、見世物として殺す事に何の意味がある?
何が正しいのかは解らない。
ただ、俺はやりたいようにやる。
それだけの事だ。

・「考えても答えなんてないな、、、
自分の信念に従おう。」

あいつらも俺も同じ、同じ人間なんだな。
今はどうでも良い事か、、、

どちらにしても助ける事にしよう。
では少し整理する。
マップで見ると、リーシュは柱の所に居る。
しかし、目視では魔物が拘束されている。
檻の中もそうだ。
リーシュ視点のマップでは青点、つまり味方だ。
しかし目視では魔物だ。

・「、、、セリス、マルチ、教えてくれ。
人間を魔物に変化させることは可能か?」

・セリス
「無理、、、だと思う。
魔物の皮を剥いで着させれば見えなくもないか?」

・マルチ
「まさか、リーシュがあの中に混じってるの?」

・「そうだ、マップで見る限りでは中心の大きな柱に拘束されてるのがリーシュだ。
檻の中は兵士達だろう。」

会場のボルテージがドンドン上がっている。
しきりに物が投げ込まれ魔物に当たる。

・セリス
「まずいぞ、早く助けなきゃ。」

急ぐセリスを止める。

・「まだ檻全員が檻に入って居ない、失敗するわけにはいかないんだ。
もう少し待つ。」

・マルチ
「でも、、、あんなに物を投げられて。
死んじゃうよ!」

泣きそうなマルチを慰めつつ考える。
チャンスは一度、救出対象は20人。
一際大きな柱にリーシュ、左右の柱に2人。
檻には残りの17人。

消息を絶った小隊は6人。
確か追撃部隊は18人だったな。
計24名の筈だが、マップを確認しても青点は無い。
4名は捕獲時に殺されたと考えるしかないか?

・「二人に作戦を伝える。
俺に力を貸してくれ。」

セリスとマルチは頷く。
勝負は一瞬だ。
この場に間に合って本当によかったよ。
グラン、次に会ったら礼を言おう。
必ずリーシュを助けてみせる。

俺は3人を包む風魔法の防護幕を一旦解いた。
飛行時に風から守る防護幕だ。
俺達のいる上空は少し冷たい風が吹く。
風速は余りない、緩やかな風。
まるで怒りを鎮めるかのように。
冷たい風が3人を優しく包んでいた。
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