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第一章 海神ポセイドン

28話 愛と憎しみ その4

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イデアのスキルにより精神を過去へと飛ばされたアルテミス 


「アルテミス!いつまで寝ている。早く起きて
日課の神樹の手入れに行くぞ。」


「ん~~ムニャムニャ。
お姉さますぐに起きるから怒鳴るのをやめてほしいのだ。」

「アルテミスが何度起こしても起きぬから怒鳴っている。まったく仕方のないやつだ。」

アルテミスはやっと起き上がり着替をすませる。
そして2人で神樹へ話しながら向かう

「しかしイデアお姉さまはズルいのだ!私は全然ダメなのに、お姉さまは魔法もとっても上手だし精霊のお友達も多いのだ!」

「アルテミスも頑張ればいつか上手になる。だから頑張れ。」


しばしの時が流れる


「今日はついにイデアの狩りのデビューの日なんだよねー。イデアは魔法も弓もどんどん上達していくから僕なんかすぐに追い越されそうなんだよねー。」

「そうですわねジン。私達もうかうかしていられませんね。イデア、初めての狩りだけどあなたならきっとできるわ!」

ジンとシルフは微笑みをうかべ嬉しそうにイデアを眺める、その様子を見ていたアルテミスは不満気に問う

「父上に母上なぜワタシは行かせてくれないのだ?ワタシだって狩りくらいできるのだ!」

「アルテミスはまだ魔法も弓も上手に使えなくて危ないからダメだよねー。それに2人とも狩りに行ったら神樹のお世話をする人がいなくなるよねー。」

「アルテミスあなたはもっと上手になったら行かせてあげるから今日は1人で神樹のお世話をしてきてちょうだいね。」

「ではお父様、お母様狩りに行ってきます!」

「イデアには頑張ってほしいよねー。」
「気をつけていってらっしゃいね。」
「ワタシだってできるのだ…」

アルテミスが不貞腐れていると狩りの出発の時間になりイデアが出かけていく

「さぁ、アルテミスも不貞腐れてないで神樹のお世話にいってらっしゃい。」

「仕方がない行くとするのだ…」

狩りに行かせてくれない事に落ちこみながらもアルテミスは神樹へと向かいお世話をする
そして神樹へと話しかける

「神樹よ今日はワタシ1人なのだ。
父上と母上はイデアお姉さまばかり贔屓するのだ!里のみんなもお姉さまばかり褒めてワタシの事なんか誰も見てくれないのだ!友達も陰では魔法もろくに使えないとバカにしているのだ。
どうすればワタシもイデアお姉さまの様になれるのだ!!」


現実世界では

「くっそ!この豚野郎め早く倒れやがれっ!」

「シロウ!アルテミスの様子がおかしいですわ。」

グィネヴィアにそう言われたシロウは振り返りアルテミスの様子をうかがう

「んだありゃ!?アルテミスの身体が足元から少しずつ褐色になっていってやがる!」


アルテミスの傍らでイデアがシロウ達に答える

「もうすぐだ!アルテミスは闇に支配されつつある!アルテミスの全身が褐色になった時にアルテミスの心は壊れ完全に闇に支配される。
しかし貴様らよそ見をしている暇などあるのか?
目の前のオークロードをどうにかせんとこちらにも来れぬぞ。」

「早くこの豚野郎倒して、アルテミスを助けねーと!」

「シロウちゃん大丈夫よ!アルテミスちゃんは私が必ず護ってあげるから!だからこっちは任せて!」

「シルフィード!!疲れたから休むって言ってたけどもういいのか?」

「少し休んだし、アルテミスちゃんをこのままにしておけないもの。私は大丈夫だからシロウちゃん達はそっちをお願いするわね。」

「イデアちゃん久しぶりね!あなたったら見た目も変わってすっかり悪い子になっちゃって。
でもアルテミスちゃんをイジメるんなら許さないわよ。貴方もアルテミスちゃんみたいに過去を少しのぞいてきなさい!」

シルフィードはそういうとイデアへ時間魔法を放つ
とイデアも精神を過去へと飛ばされる

再び精神を過去へ飛ばされたアルテミスの世界

「なぜワタシはイデアお姉さまと違いこんなにも才能がないのだ!?」

アルテミスは涙ながらにそう語る
そしてその涙が地面に落ちるや辺りは光に包まれる
そして光の中からシルフィードが現れる

「アルテミスちゃんどうしたの??なぜ泣いているの?」

「誰なのだ!?」

「私はシルフィードよ。アルテミスちゃんに会いたかったわ。貴方の涙にとても強い魔力がこもっていたからでてくることができたわ。」

「シルフィード!?里の守護者で大精霊のシルフィードなのか?」

「里のみんなからはそう呼ばれているみたいね。
それでアルテミスちゃんどうしたの?」

アルテミスはなぜ今日は1人なのかや今までの経緯をシルフィードに話す。

「アルテミスちゃん心配いらないわ。貴方は魔力が膨大すぎて今はまだそのコントロールができていないだけよ。今日からは私がアルテミスちゃんの先生になってあげるから。」

「本当か!?いつでも会えるのか?」

「私を呼び出すくらいの魔力のコントロールを今日中に覚えてもらうからいつでも会えるようになるわ。」

「わーい!やったのだ!嬉しいのだ!本当のお友達ができたのだ!」

「そうね。先生じゃなくてお友達ね。
これからよろしくねアルテミス!」


一方その頃イデアは

「初めての狩りだったけど、上手くいったな!こんなに大きな獲物をとれたぞ!
そうだっ!お父様とお母様より先にアルテミスに見せて驚かせよう。きっとビックリするぞ!」

イデアはアルテミスの驚いた様子を思い浮かべ満面の笑みをうかべる
そしてアルテミスのいる神樹へと駆けていく

「おーいアルテミっ!!!?」

イデアはアルテミスを驚かせようとし声をかけようとするが衝撃の光景に逆に自らの口をとざす

「そうねこれからはお友達ね。よろしくねアルテミス。」

あれは!?シルフィード様?お父様達から話を聞いたことしかないが間違いない、あれはシルフィード様だ!!
狩りの事よりも早くお父様達に知らせねば
イデアはすぐに家に帰りジンとシルフを連れてくる 

「お父様、お母様早くっ!!」

「そんなに急かしてどうしたんだよねー。」

「いいから早く!見たらわかるから」

イデアに急かされ神樹に着いたジンとシルフもその光景を目の当たりにし固まってしまう

「シ、シ、シルフィードさまぁ~~~!?」

「あら、久しぶりねジンとシルフ。
二人とも立派に成長したみたいで嬉しいわ。
いつぶりかしらね?」

「まだひいお祖父様がいた時だからかなり久しぶりになりますよねー。」

「ジンったら相変わらず変な話し方をするわね。
そこは成長しても変わらないわね。」

「それよりシルフィード様突然どうしたのですか!?私達の魔力ではシルフィード様を呼ぶなんてとてもできませんし、いったいなぜ?」

「アルテミスちゃんが淋しそうにしてたから会いにきたのよ。この子の魔力ったらもの凄いのよ。
里の誰もこの子には全然かなわない程に魔力を秘めているわ。」

「それは僕もうすうす気付いてたんですよねー。だから二人共成長してほしくてシルフィード様に縁のある神樹のお世話を任せてたんですよねー。ただ現時点ではアルテミスはまだ魔法をうまく使えなくて、姉のイデアの方がとても上手なんだよねー。」

「あらそうだったのね。
そっちがイデアちゃんね!はじめましてシルフィードよ。イデアちゃんもよろしくね。」

「シルフィード様はじめまして!
ところでアルテミスがシルフィード様を呼び出したのですか!?」

「そうよ。アルテミスちゃんったら感情が乱れて魔力が暴発しちゃったんだけど、それがたまたま私を呼び出すトリガーになったみたいね。」

「では私もシルフィード様をお呼びになる事はできますか!?」

「ごめんなさい。それは無理ね!
今の貴方の魔力では私を呼び出せる程の力は感じません。」

「ではいつかはお呼びになる事ができますでしょうか?」

「うーん、どうかしらね?魔力の量は先天的な場合が多いからよっぽど努力しないと難しいかもしれないわね。ジンとシルフも頑張っていたみたいだけど、それでもまだ2人でも私を呼ぶことが出来ないみたいだし。」

「そ、そんな……」

「それより今日はアルテミスちゃんの魔力コントロールの練習をするから邪魔になるといけないし、貴方達は帰ってちょうだい。これからはアルテミスちゃんが頑張れば私も里の皆に会えるようになるわ。」

「わかりましたんですよねー。
皆シルフィード様がそう仰られているから早く帰るんだよねー。」

「そうですね、ジン。
ほらイデアも帰りますよ。」

イデアは帰途で悔しさを滲ませた

なんでアルテミスだけが!?
なぜ私にはできないの!?
あの子は魔法も他の精霊を呼ぶことも出来ないのに!


そしてその日を堺に姉妹に対する里の評価も手の平を返したように逆転した…

里中もアルテミスとシルフィードの噂でもちきりとなった

「シルフィード様を呼ぶなんてやっぱりアルテミスの方が凄いな!」

「アタシはあの子はいつか何か大きな事をやってくれると思っていたんだがシルフィード様をお呼びになるなんてねー。」

「イデアは魔法が上手なだけで大精霊を呼べないんだってよ、同じ姉妹なのに。」

そうして月日が流れたある日

イデアがいくら努力をしてもシルフィードを召喚する事は出来なかった
その間里でもアルテミスが持ち上げられっぱなしとなっていた

パリーンッ…

ついにイデアの中で何かが弾けて壊れた

「フ、フフフ、
私がどんなに頑張っても皆認めてくれない!
私がどれだけ努力してもシルフィードも応えてくれない!それどころか里中みんなアルテミスと比べて私を蔑むように見てくる!
何が大精霊だ!こんな里出ていってやる!
私はたとえどんな事をしても何に頼ろうとも絶対に力をつけてこいつらに復讐してやる!必ずだ!」


しかしなんだ
どこか遠くから声がきこえる気がするな
「さま、…デア…さま。」

現実世界では

「ウグっ!グググッ!」

「姉さま!イデアお姉さま!お願い目を覚まして。」

イデアの頭をアルテミスが膝枕して涙ながらにうったえかける
アルテミスの涙が頬をつたいイデアの顔へと落ちる
するとイデアが目覚める

「ここはっ!?現実なのか!?」

「そうよイデアちゃん。イデアちゃんが倒れた後にアルテミスちゃんが目を覚ましてそれからずっとイデアちゃんに呼びかけていたのよ。」

「アルテミスが!?ひどく悪い夢の様なものをみていたがお前が起こしてくれたのか?」

「そうなのだ!こんなに苦しんでいるイデアお姉さまを見ていられなかったのだ!」

「しかし私は里に復讐をしようとして、
あまつさえアルテミスの精神を壊そうとしていたのだぞ!」

「それでもイデアお姉さまは、妾のたった一人のお姉さまにかわりないのだ!」

「アルテミスよお前というやつは。」

「アルテミス偉いよねー!
イデアもやっと起きたんだねー。」

姉妹が話しているとジンとシルフをはじめ里のエルフ達も集まってきていた

「ジンにシルフ!!」

「コラッ!イデア!お父様とお母様でしょ!
本当にイデアったら悪い子になっちゃって!
お仕置きが必要ねジン。」

「そうだよねー。イデアには罰として里に戻ってきて神樹のお世話をさせたいんだよねー。」

「里に戻る!?私が!?それも神樹の世話を?
私は里にこれだけの事をしたのにいいのか?」

「そうよイデア。あなたは小さい頃からずっと真面目に頑張ってきていたもの。
少し遅い反抗期がきただけよね?
それにイデアがそんなに悩んでいたのに気付けなかった私達にも問題はあるもの。」

「それだよねー。反抗期だよねー。そういうことだよねー。」

「皆もそれでいいわね?」

「「「「「「「ハイッ!!!」」」」」」」

「皆!!
お父様とお母様とアルテミスそれに里の皆本当にごめんなさいっ!」

「気にしないで下さい元はと言えば私達が大精霊のシルフィード様を見て舞い上がってたのがいけないんです。」

「里に戻るんだったらその見た目じゃ似合わないわね。元のイデアちゃんに戻してあげるわ。
それっ!」

シルフィードからイデアへと光が放たれる
光を浴びたイデアの身体は見る見る間に褐色から白へとかわっていく。

「これでイデアちゃんに残ってた邪神の力は取れたはずよ」

………みんな良いムードのところわりーんだけどよ、
まだ豚野郎が残ってんだよな
どうにかしてコイツを片付けねーと終わらねーぞ

シロウはそう思い皆を一瞥した後オークロードへと視線を戻し見上げる

「あれっ!?あの豚野郎どこ行きやがった!?
急にいなくなっちまったぞ!」

「プギィィィーー!!!」

声のする方へとシロウは目線を落とす

そこには通常のオークがいた

「それがそいつの元の姿だ!シルフィード様の力で私の闇の力がなくなった事でそいつの闇の力も抜けて元に戻ったようだな。むしろ元はハイオークだったからさらに弱っている。今まで身の丈に合わない力を手に入れていたせいかもな。」

「こんなのがあのサイズになってたのか!?
てかよー豚野郎テメー大きい時はさんざん遊んでくれたよな?テメーなんかのおかげで俺は死にかけたんだぞ!この後どうなるかわかってるよな?」

「プギっ!?
プギギィ!!」

「プーギィー☆」
オークは仲間になりたそうにこちらを見ている

オークは力いっぱい左右に首をふったあと可愛らしいポーズをとってアピールしている

「ほーん、そんなんで許してもらえるとでも?
まさかそんな訳ねーよなー?
まぁ俺は疲れたしグィネヴィアに任せるわ!
タダな1つだけ教えといてやるぜ豚野郎、グィネヴィアは俺なんかと比べ物にならねーくれー怖いから覚悟しとけな!」

「シロウ私がやってもよろしくて!?」

「好きにしろよグィネヴィア。」

シロウのその言葉を聞くと同時にグィネヴィアは目を輝かせてオークのもとへ向かう

「オホホホホっ」

「ブキキ?」

「楽しいですわ」

「ブヒーー!!」

「まだまだですわよ。」

「ブキキキキー…」

あーあーグィネヴィアのスイッチ入っちゃったよ…
馬乗りになって電撃纏った拳で殴り続けてんじゃん
グィネヴィアマジで怖ーよ…

「色々あったけどなんとかなったんだよねー。それにしても疲れたよねー。」

「そうねジン!もう夜が明けそうになっているものね。」

「よしそれじゃ皆で帰ってゆっくり休むんだよねー。イデアも帰ってきたことだし宴も途中で終わったから今夜改めてやるんだよねー。
それじゃーイデア帰るんだよねー。」

ジンはイデアに手を差し出す
イデアはその手を握る

「ジンだけズルいわよ!それじゃ私は反対の手ね。本当にお帰りなさいイデア。」

「父上と母上ズルいのだ!妾の分がないのだ!」

「アルテミスはずっと一緒にいたからたまには我慢するんだよねー。」

ジンは微笑みながらそう告げる
シルフに出された手を取り両親にはさまれたイデアは少し恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうな表情で皆と里へと戻っていく
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