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きっかけをくれたのは

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「ただいまー…」
「あ、おかえり!お疲れ様、今日も残業?」

  美憂は自分の食べた食器を洗う手を止めて、玄関に向かった。

「ご飯食べてきた?一応作ってあるけど、食べる?」
「ありがとう、食べるよ」

  修二は上着を脱ぎ、ネクタイを緩めながら答えた。

  こんなやりとりも新婚さんみたいで楽しい、と思っていたのも過去のこと。

  一緒に暮らして1年。

 最近はデートらしいデートもしていないし、会話といえば朝と夜のわずかな時間しかない。美憂自身だって普通に会社で働いていて、残業だって毎日していて、疲れている。仕事も大分慣れてきたけど、4年目にもなると求められることも多くなり、毎日料理を作るのだって楽ではない。

 修二との関係は、悪くはない。いつも優しいし、喧嘩だってほとんどしない。

 ただ、別の会社で美憂と同じ年数働いている修二も、仕事の状況はほとんど同じで、疲れているのはわかっている。

 今日もいつも通り、ご飯を食べてお風呂に入って、寝るだけだ。

 (明日は二人とも仕事休みだけど、今日もたぶんなし、かなぁ・・・)

 もう長いことしていない。
  一度誘って断られてから、自分から声をかける勇気はなくなってしまった。

「おやすみー」
「うん、おやすみ」

 美憂はいつものもやもやを抱えたまま、眠りについた。




 翌朝、物音で目を覚ました。
 寝室を出るとスーツを着た修二が、パタパタと支度をしている。

「おはよう!ごめん、会社でトラブル起きたみたいでさ、今から行ってくる!帰るのも遅くなるだろうから、夕飯も食べちゃってて!ほんとごめん!」

 修二は早口で言うと、急いで家を出ていった。

 美憂は寝ぼけ眼を擦りながら「行ってらっしゃい」と呟いた後、寝室へ戻り、もう一度眠りに堕ちた。





「きれいだ…美憂、気持ちいい?」

「うん、でも恥ずかしいよ、修二」
はにかみながら美憂は快感に身を任せる。

「もっと、そういう顔見せて・・・ほら、どう?」
修二は指を奥へ進め、中を撫でまわす。

「・・・あっ・・んっ・・・」
指の動きはとどまることなく、美憂の敏感なヒダを刺激し続ける。

「あっだめぇっ!」

 美憂の白い身体がビクッと跳ねた。


 暖かな日差しが瞼を照らし、そよそよとした風が頬を撫でた。心地よい幸せな疲労を感じながら、重い瞼を上げる。

(・・・・・え、まさか・・・)

 美憂は一人ベッドの中で赤面した。

(今のは、夢・・・?うわぁ恥ずかしい・・・)

 まさか自分がこんな夢を見るなんて。

 でも・・・夢の中では、身も心も修二の愛に包まれ、本当に幸せだった。もう何か月、こんなこをとしていないのだろう。


「・・・はぁ・・・寂しい、なぁ・・・」


 思わず口をついて出た言葉は、紛れもない本音だった。

(やっぱりこのままじゃいけないよね、どうにかしたい・・・)

 美憂は気怠さを憶えたまま、スマホを手に取った。適当に検索しページスクロールを繰り返す中、ふと気になるワードがあった。


「ラブ、コスメ・・?マンネリ、セックスレスを解消?」


 気になって、そのページを隅々まで夢中で読みふけった。
 ラブコスメとは、どうやら性的な魅力を上げる効果のある化粧品らしい。ボディクリームやリップ、香水などが紹介されている。

「これなら見た目も綺麗だし、持ってても変じゃないよね」

 ふと気づくと、ベッド専用香水「リビドーロゼ」と、ミルキーボディウォッシュ「セミヌード」の注文ボタンを押していた。

 効果があればラッキーだし、仮になくたって普通のコスメだと思えば、悪くない。半信半疑で、でもやはり期待を捨てきれず、商品の到着を待つことにした。



―――――――数日後、注文したものは幸いにして修二のいない時に受け取ることができた。

(わぁ、可愛い…これなら普通の化粧品と一緒に置いておける)

 
 美憂は思わず顔を綻ばせた。
 今日は金曜日。修二の帰りは相変わらず遅いけど、使って待ってみよう、そう思った。


 まずお風呂に入り、ボディウォッシュを使ってみる。

(うん、いい香り・・・気持ちいいなあ)

 耳の後ろや、二の腕の裏、腰や足の指の間まで、
 丁寧に丁寧に洗っていく。こんなに気持ちを込めて身体を洗うのはいつぶりだろう。自分がそうした点でも手を抜いてしまっていたことに気付いた。

 隅々までスベスベになって、自分の気分も清々しいものになった。肌艶も良くなっているような気がして、美憂はまじまじと鏡を見つめた。

(どうかな・・・何か、変わったかな?)

 そして入浴後、香水もかすかに身に纏い、修二の帰りを待った。




「ただいま~…」

 修二が疲れた声で帰ってきた。

 おかえり、と玄関に駆け寄ると、修二が少し戸惑ったように見えた。が、すぐにいつも通りになった。

「あれ、美憂・・・い、いや、なんでもない、ご飯ある?」


 それから普段通りご飯、お風呂と済ませ、寝る段になった。
 一緒に寝室に入る。

(修二・・・気付いてくれるかな・・・)

 不安げな瞳で見上げると、修二と目が合い、そして一瞬時間が止まった。

 修二が先に口を開く。

「美憂・・・今日、なんか、いい匂いがする」
「えっ、そう?」

 ゆっくりと、手首を掴まれ、腰を寄せられ、唇が重なった。

  修二が目を細め、囁く。

「久しぶりに・・・その、しない?」


 言われた瞬間、美憂は涙が出そうになった。

(こんなにすぐに効果があるなんて・・・)

 Yesの返事の代わりに、美憂は自ら唇を深く重ねた。それを合図にそのまま荒々しくベッドに押し倒され、あっという間に服を剥ぎ取られてしまった。


 耳に、首筋に、鎖骨に、愛撫のシャワーが降り注ぐ。修二は身体の至るところに唇を寄せながら、胸の突起を親指で強く弾いた。

「ひゃあんっ」

 思わず大きな声を出してしまった美憂は、赤面した。

「ご、ごめん・・・恥ずかしい・・・」

 修二はクスッと笑って、美憂の髪を撫でた。そしてすぐに、愛撫を再開する。腰に、おへそに、足の付け根に。

(あぁ、どうしよう・・・気持ち、よすぎる)

「美憂・・・いいよ、可愛い声、もっと声聞かせて」

 修二はそう囁くと、舌を滑らせ、いつのまにかたっぷりと蜜を滴らせた美憂の秘部を吸い上げた。

「ひあっ・・・あっ・・・んっ・・」

 舌の動きに合わせて、喉の奥から声が漏れる。そこから更に甘い蜜が溢れ、チュルチュルと修二が舐めとる音が部屋に響く。

「・・・美憂、すごいよ。濡れすぎ」
「だ、だって・・・気持ち良すぎて・・・修二ぃ」

 変わらず修二はそこで舌を踊らせながら、中へ指を潜らせ、艶めかしく抜き差しした。

(もう、だめ・・・)

「し、修二・・・欲しいよ、来て・・・」

 その言葉を聞くや否や、修二は体を起こし、美憂の片足を持ち上げる。

「美憂、いくよ」

  美憂が何も言う前に、ズン、と一気に貫かれた。

「・・・っ」

 頭が真っ白になって、声が出ない。
 それでも修二は、勢いを増して突いてくる。

「・・はっ・・あっ・・」

 奥へ突かれる度に、閃光が脳裏を駆け巡る。

 それから何度か体位を変えて、ますます美憂の蜜は溢れ、水音と二人の激しい息遣いだけが大きく部屋へ響き渡る。


「美憂、ごめん、、いっていい?」
「い、いいよ、来て、修二」


 今までで一番の深さ、そして速さで、修二が美憂の中へ押し込んできた。美憂の脳裏の閃光が、その時一番の強さで真っ白に煌めいた。

「「はぁっ・・・はぁっ・・・」」

 美憂も修二も、何らかの声を出すこともできなかった。
 ただ湿った身体だけが、じわじわと汗ばみを強め、張り付いて離れられなかった。





 美憂が目を覚ますと、目の前に修二の胸があった。あの後、すぐに二人とも眠ってしまったらしい。


 修二の微かな寝息に耳を傾ける。

 修二の穏やかな寝顔を眺める。


 美憂の中に、暖かな気持ちが込み上げてくる。
 ああ、私はこんなにも、修二に抱いて欲しかったのだと、改めて思った。

「修二・・大好き」

 そう呟き、修二の胸に唇を寄せ目を閉じた時、大きな優しい手が、美憂の髪を撫でた。

「美憂、すごく可愛かった。俺、余裕なくてごめんな。」

 美憂は頭をぶんぶん振った。

「余裕がなかったのは、私も・・・。でも、嬉しかった。
 ずっと、修二に触れたかったし、触れてもらいたかった。」

「やっぱり、抱き合うっていいな、生き返る」

 修二と美憂は目を細めて見つめ合い、くすくす笑った。





 それにしても、ラブコスメがこんなにすぐ効果があるなんて・・・
 コスメが凄いのはもちろんだけど、コスメを通じて自分の心と身体に向き合うことができたのは、美憂にとって大きな変化だった。

 今まで、私は修二にああして欲しいこうして欲しいばかり考えていた。自分をどうするか、ということには考えが及んでいなかった。

 コスメは、そのきっかけを与えてくれたのだ。


 毎日忙しいのは相変わらずだけれど、その中でも少しでも自分を綺麗にしてあげること、気持ち良くしてあげることを心がげていこう。


 美憂は修二の腕に包まれながら、そう思った。


【END】
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