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第四世代人類
11-2「ルウ。聞いているな。私の声を全艦に流せ」
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ルピナスに問われて一同はしんと静まり返る。それはクロウが先ほどルピナスに聞かれ答えられなかった答えだった。
「意思だ。意識と言い換えてもいい。我々はそれを『idea』と呼んでいる」
それに応えたのはタイラーだった。
ルピナスは答えを取り上げられてしまい地団駄を踏んだ。
「パパ! 答え合わせが早すぎるのじゃ!」
「すまないな、まどろっこしいのは得意ではない。特にこのように悲壮的な空気ではな」
タイラーはルピナスに並んで立つと、クロウにまっすぐとその仮面を向けた。タイラーはこの瞬間までこの『真実』を語る事を躊躇していた。だが、仮面越しにクロウの瞳を見た瞬間決意を固めた。今、ここで、言わなければいけないと。
「クロウ。お前はまだ我々ロスト・カルチャーがどうやってこの世に第二の生を受けるのか知らないだろう。今それを教えてやる。これは『賢人機関』のみが保有する技術。そして一部の者しか知りえない『人間』という種そのものの『可能性』の一つだ」
タイラーは一同を見る。今その場の全員がタイラーに向いていた。だが、この事実は『つくば型』全艦に知らせる必要がある。
「ルウ。聞いているな。私の声を全艦に流せ」
『はい』
瞬時に、ルウの声が艦内のスピーカー越しに響く。同時、タイラーの声がスピーカー越しに響いた。
「諸君、よく聞いてくれ。我々『ロスト・カルチャー』と呼ばれる者たちは、基本的に全員が同じ経緯を経て生まれる。それは私やクロウ少尉のように『第四世代人類』としての体を与えられなかった者も同じだ」
この場合『ロスト・カルチャー』と、『第四世代人類』は分けて考える必要があるのだとタイラーは語る。
「我々『ロスト・カルチャー』の被験者は、当初ただ冷凍されたただの死体だった。それは宇宙歴の始まる直前までは『確実』にそうだった。その事情が変わったのは、我々『ロスト・カルチャー』の脳が生体コンピュータとして利用されだしてからの事だ」
クロウは自身もその生体コンピュータの一部であったことを初めて知った。思わずクロウは身じろぐが、タイラーの話はまだ続いている。こぼれそうになる声をぐっと飲みこんだ。
「当初その生体コンピュータは単に我々の脳に電極を接続し、脳同士を並列化させることで動作していた。無論その脳を維持するための栄養素や血液を循環させながらだ。だが、そのように運用し続けていたシステムがあるとき不具合を出した。脳の生物的寿命だ」
クロウが知る20世紀代、脳だけで存在したという話はそれこそSFの中でしか語られていない。とある偉人の脳みそが世界のどこかに保存されているというのはよく都市伝説で語られるが、その程度のものである。つまり、その事態に直面したその脳の運用者達にとっても不測の事態だったのだろう。
「それはシステムの一部の脳が寿命を迎え、徐々に機能を停止していくという形で起こった。だが、当時その生体コンピュータを使用していた科学者たちは思ったのだ。何とかしてこのシステムをこのまま『使い続ける』事はできないか、と。結果的に、それはロスト・カルチャーである並列化された我々のアイディアの一つで解決された。脳の『機械化』だ」
脳の機械化はそれこそクロウが知る様々なSF作品に登場する。一番のネックはそれを『搭載』した人間が果たして人間たりえるのかという部分である。
「諸君。諸君らも知っての通り、我々『人間』は炭素系生物だ。炭素系生物はその宿命として酸素を取り入れ、それによる『酸化』によって老いる。では、老いないようにすればどうすればいいのか、同時の科学者たちの考えはシンプルだった。脳をそのまま『ケイ素』に置き換えたのだ」
人間の老いのメカニズムはクロウの時代においても諸説ある。だが、酸素が老いの元であるというのはごく一般的な考え方だ。
「そして、それによって生まれた『電脳』は思わぬ効果をもたらした。処理速度の上昇と比較にならない程の耐久度だ」
その『電脳』という単語は、クロウの知るSFというジャンルにおいてもはや一般名詞化していた。電子頭脳の略語である。
「その段階で稼働していた全てのロスト・カルチャーの脳はこうして『電脳』に置き換えられた。そして諸君らが今『量子コンピュータ』と呼ぶ演算装置のほとんどがその主演算装置にこの『電脳』を使用している」
ここまで言われればクロウにも理解できた。クロウの頭蓋の中にある脳はとっくの昔に
『電脳』に置き換えられていたのだ。
「さて、クロウ少尉。この『電脳』が使用された我々『ロスト・カルチャー』はコピーが可能と思うかね?」
唐突にタイラーがクロウへと問いかけて来た。クロウは咄嗟に応える。脳が機械化されており、知識も経験も付与できるのである。で、あれば答えは恐らくそうであろうと思いながら。
「コピーできるんですよね? だって人間の全てが人工的に作り出せるって事ですから」
その声は全艦に響き渡っていた。だが、タイラーは明確に首を横に振った。
「答えは、コピーできない、だ。なにをどうやっても当時の科学者たちでも、いや現在の最新鋭の科学者さえ、同じ存在を作り出すことが出来なかった」
そして、それこそがタイラーの言う『idea』という存在に繋がっていくのだという。
「諸君、われわれには明確な『意識』が存在する。これは言い換えれば電気信号だ。だが、記録を伴わないこれは絶対にコピーできない単一のものだ。これを当時の賢人機関たちは『idea』と呼んだ。この『idea』の特性は、コピーが出来ないという点ともう一つある。入れ物さえ用意出来れば『移し替える』ことは出来たのだ。そしてそれこそが、『人間』を人間足らしめると賢人機関は定義した。こうして、ロスト・カルチャー達は次々に再生されていった。その一度きりの『移し替えに』によって電脳に自身の意識を移し、冷凍され使い物にならなくなった体の代わりに代替えの肉体を伴って。だ」
ここで、タイラーは一旦息を整えた。それは艦内のクルーから自分とクロウがどう見られるかという恐怖からであった。
「ここまで聞いた諸君らは、あるいは私達ロスト・カルチャーを『化け物』だと思うかもしれない。私自身、それに関しては懐疑的になることもある。だが、確実に生きている。それも『人間』としてだ」
ここまで言って、ルピナスがタイラーの袖を引いた「パパ、私もみんなとお話していいかの?」と。タイラーは静かに頷く。
「ここから先はワシら自身『第四世代人類』の話なのじゃ。自分たちの事じゃ、よく聞いて欲しい。まず『第三世代人類』と『第四世代人類』の違いなのじゃが、実は遺伝的にナノマシーンを生成するための臓器を持つというのは『表向き』の違いじゃ。その最大の違いはその体内のナノマシーンのバージョンがまったく異なるという点にある」
それは、この艦に所属するクルーであれば、誰もが知っている情報である。
「ここで、質問なのじゃ。その『第四世代人類』が『フォースチャイルド』によって偶発的に発生した事はみんな知っておると思う。そうじゃ、『フォースチャイルド』に使用されるナノマシーンを使用してみんなは『第四世代人類』になったのじゃ。では『フォースチャイルド』が、この『つくば型』が一体何を目的として作られたかを知っている者はいるだろうかの?」
ここで、クロウはルピナスに見つめられるが、クロウはその目的を知らなかった。
「知っている者も一部にはいるかも知れないが、その目的は『外宇宙探査』及び『人類が居住可能な惑星の調査』、そして『移民』なのじゃ。それを目的として『フォースチャイルド』とこの『つくば型』は建造されたのじゃ。じゃあ、その乗組員である『フォースチャイルド』は目的地までどうやって過ごせばいいと思う? はい、クロウにぃへの質問なのじゃ!」
ルピナスは悪戯っぽくクロウに問う。どうやら先ほどのタイラーとのやり取りの真似のようだ。時々こうやって子供っぽくなるルピナスをクロウは素直に可愛いとすら思っている。だから素直に答える。
「ええっと、コールドスリープ? とか?」
「ぶっぶー! 大外れなのじゃ! 艦の航海中に予想外の障害物や、生物と遭遇したらどうするのじゃ? 交代制でコールドスリープに入るとしても、いずれ乗組員は全員老いてよぼよぼじゃ。『移民』どころの話ではなくなるの」
けらけらと笑いながら、ルピナスは大きく胸の前で手をバツの形にクロスした。
「正解は、全員『普段通りに生活』する。じゃ。つまり、ワシら『第四世代人類』は老いぬ、朽ちぬ、栄養さえ摂取していれば死なぬ。殺されない限りはの」
そう言いながらルピナスはその『潰れてしまっている』ヴィンツを見た。
「だが、ヴィンツにぃは確かに死んでしまった。それは明らかな事実なのじゃ。しかし、『第四世代人類』であるので、体は専用のポッドにさえ入れればこれだけ壊れてしまっても1週間もあればきれいに治る。それこそ何事もなかったかのようにじゃ。じゃが、そのままでは生ける屍じゃ。記憶も経験もその脳には残っているが『idea』が消えてしまったヴィンツにぃはもはや蘇る事などあり得ぬ。だから、タイラーパパの言った『idea』の特性をもう一度思い出して欲しいのじゃ。『idea』は『コピー』出来ないが、『移し替える』事は出来るのじゃ!」
ここで、ルピナスは嬉しそうに万歳のポーズである。
「まさか!?」
クロウはここで持ったままだった『それ』を見た。バスケットボール大のデックスのブラックボックスである。
「おお、今度はクロウにぃが大正解なのじゃ。そうじゃ、そのデックスのブラックボックスの中身は電脳じゃ。正確にはデックスの火器管制と戦術サポートを行うデックスのメインコンピュータの役割を果たす電脳と、万が一パイロットが生体反応を停止した際にパイロットの『idea』を一時的に退避させる電脳なのじゃ! その二つが互い合わせの形で二つ入っておるのがそのブラックボックスじゃ」
クロウはしげしげとそれを見ると、ポカンとしりもちをついたままのマリアンにそれを渡す。
「ヴィンツ?」
「どうやらそうらしい。彼はまだこの中で生きている」
マリアンは愛おしそうにそれを抱きしめると再び泣き始めた。
「あ、言い忘れておったが、この『つくば』と同型艦の『こうべ』と『けいはんな』には全乗組員の電脳が予備も含め3500個ずつ設置済みじゃ! 艦内で死ねば基本的に『死なない』から注意が必要じゃ! 安心してバンバン死んで欲しいのじゃ!」
「いや、それはダメだろ」
硬直する一同に対して、クロウは一人突っ込みを入れた。
「意思だ。意識と言い換えてもいい。我々はそれを『idea』と呼んでいる」
それに応えたのはタイラーだった。
ルピナスは答えを取り上げられてしまい地団駄を踏んだ。
「パパ! 答え合わせが早すぎるのじゃ!」
「すまないな、まどろっこしいのは得意ではない。特にこのように悲壮的な空気ではな」
タイラーはルピナスに並んで立つと、クロウにまっすぐとその仮面を向けた。タイラーはこの瞬間までこの『真実』を語る事を躊躇していた。だが、仮面越しにクロウの瞳を見た瞬間決意を固めた。今、ここで、言わなければいけないと。
「クロウ。お前はまだ我々ロスト・カルチャーがどうやってこの世に第二の生を受けるのか知らないだろう。今それを教えてやる。これは『賢人機関』のみが保有する技術。そして一部の者しか知りえない『人間』という種そのものの『可能性』の一つだ」
タイラーは一同を見る。今その場の全員がタイラーに向いていた。だが、この事実は『つくば型』全艦に知らせる必要がある。
「ルウ。聞いているな。私の声を全艦に流せ」
『はい』
瞬時に、ルウの声が艦内のスピーカー越しに響く。同時、タイラーの声がスピーカー越しに響いた。
「諸君、よく聞いてくれ。我々『ロスト・カルチャー』と呼ばれる者たちは、基本的に全員が同じ経緯を経て生まれる。それは私やクロウ少尉のように『第四世代人類』としての体を与えられなかった者も同じだ」
この場合『ロスト・カルチャー』と、『第四世代人類』は分けて考える必要があるのだとタイラーは語る。
「我々『ロスト・カルチャー』の被験者は、当初ただ冷凍されたただの死体だった。それは宇宙歴の始まる直前までは『確実』にそうだった。その事情が変わったのは、我々『ロスト・カルチャー』の脳が生体コンピュータとして利用されだしてからの事だ」
クロウは自身もその生体コンピュータの一部であったことを初めて知った。思わずクロウは身じろぐが、タイラーの話はまだ続いている。こぼれそうになる声をぐっと飲みこんだ。
「当初その生体コンピュータは単に我々の脳に電極を接続し、脳同士を並列化させることで動作していた。無論その脳を維持するための栄養素や血液を循環させながらだ。だが、そのように運用し続けていたシステムがあるとき不具合を出した。脳の生物的寿命だ」
クロウが知る20世紀代、脳だけで存在したという話はそれこそSFの中でしか語られていない。とある偉人の脳みそが世界のどこかに保存されているというのはよく都市伝説で語られるが、その程度のものである。つまり、その事態に直面したその脳の運用者達にとっても不測の事態だったのだろう。
「それはシステムの一部の脳が寿命を迎え、徐々に機能を停止していくという形で起こった。だが、当時その生体コンピュータを使用していた科学者たちは思ったのだ。何とかしてこのシステムをこのまま『使い続ける』事はできないか、と。結果的に、それはロスト・カルチャーである並列化された我々のアイディアの一つで解決された。脳の『機械化』だ」
脳の機械化はそれこそクロウが知る様々なSF作品に登場する。一番のネックはそれを『搭載』した人間が果たして人間たりえるのかという部分である。
「諸君。諸君らも知っての通り、我々『人間』は炭素系生物だ。炭素系生物はその宿命として酸素を取り入れ、それによる『酸化』によって老いる。では、老いないようにすればどうすればいいのか、同時の科学者たちの考えはシンプルだった。脳をそのまま『ケイ素』に置き換えたのだ」
人間の老いのメカニズムはクロウの時代においても諸説ある。だが、酸素が老いの元であるというのはごく一般的な考え方だ。
「そして、それによって生まれた『電脳』は思わぬ効果をもたらした。処理速度の上昇と比較にならない程の耐久度だ」
その『電脳』という単語は、クロウの知るSFというジャンルにおいてもはや一般名詞化していた。電子頭脳の略語である。
「その段階で稼働していた全てのロスト・カルチャーの脳はこうして『電脳』に置き換えられた。そして諸君らが今『量子コンピュータ』と呼ぶ演算装置のほとんどがその主演算装置にこの『電脳』を使用している」
ここまで言われればクロウにも理解できた。クロウの頭蓋の中にある脳はとっくの昔に
『電脳』に置き換えられていたのだ。
「さて、クロウ少尉。この『電脳』が使用された我々『ロスト・カルチャー』はコピーが可能と思うかね?」
唐突にタイラーがクロウへと問いかけて来た。クロウは咄嗟に応える。脳が機械化されており、知識も経験も付与できるのである。で、あれば答えは恐らくそうであろうと思いながら。
「コピーできるんですよね? だって人間の全てが人工的に作り出せるって事ですから」
その声は全艦に響き渡っていた。だが、タイラーは明確に首を横に振った。
「答えは、コピーできない、だ。なにをどうやっても当時の科学者たちでも、いや現在の最新鋭の科学者さえ、同じ存在を作り出すことが出来なかった」
そして、それこそがタイラーの言う『idea』という存在に繋がっていくのだという。
「諸君、われわれには明確な『意識』が存在する。これは言い換えれば電気信号だ。だが、記録を伴わないこれは絶対にコピーできない単一のものだ。これを当時の賢人機関たちは『idea』と呼んだ。この『idea』の特性は、コピーが出来ないという点ともう一つある。入れ物さえ用意出来れば『移し替える』ことは出来たのだ。そしてそれこそが、『人間』を人間足らしめると賢人機関は定義した。こうして、ロスト・カルチャー達は次々に再生されていった。その一度きりの『移し替えに』によって電脳に自身の意識を移し、冷凍され使い物にならなくなった体の代わりに代替えの肉体を伴って。だ」
ここで、タイラーは一旦息を整えた。それは艦内のクルーから自分とクロウがどう見られるかという恐怖からであった。
「ここまで聞いた諸君らは、あるいは私達ロスト・カルチャーを『化け物』だと思うかもしれない。私自身、それに関しては懐疑的になることもある。だが、確実に生きている。それも『人間』としてだ」
ここまで言って、ルピナスがタイラーの袖を引いた「パパ、私もみんなとお話していいかの?」と。タイラーは静かに頷く。
「ここから先はワシら自身『第四世代人類』の話なのじゃ。自分たちの事じゃ、よく聞いて欲しい。まず『第三世代人類』と『第四世代人類』の違いなのじゃが、実は遺伝的にナノマシーンを生成するための臓器を持つというのは『表向き』の違いじゃ。その最大の違いはその体内のナノマシーンのバージョンがまったく異なるという点にある」
それは、この艦に所属するクルーであれば、誰もが知っている情報である。
「ここで、質問なのじゃ。その『第四世代人類』が『フォースチャイルド』によって偶発的に発生した事はみんな知っておると思う。そうじゃ、『フォースチャイルド』に使用されるナノマシーンを使用してみんなは『第四世代人類』になったのじゃ。では『フォースチャイルド』が、この『つくば型』が一体何を目的として作られたかを知っている者はいるだろうかの?」
ここで、クロウはルピナスに見つめられるが、クロウはその目的を知らなかった。
「知っている者も一部にはいるかも知れないが、その目的は『外宇宙探査』及び『人類が居住可能な惑星の調査』、そして『移民』なのじゃ。それを目的として『フォースチャイルド』とこの『つくば型』は建造されたのじゃ。じゃあ、その乗組員である『フォースチャイルド』は目的地までどうやって過ごせばいいと思う? はい、クロウにぃへの質問なのじゃ!」
ルピナスは悪戯っぽくクロウに問う。どうやら先ほどのタイラーとのやり取りの真似のようだ。時々こうやって子供っぽくなるルピナスをクロウは素直に可愛いとすら思っている。だから素直に答える。
「ええっと、コールドスリープ? とか?」
「ぶっぶー! 大外れなのじゃ! 艦の航海中に予想外の障害物や、生物と遭遇したらどうするのじゃ? 交代制でコールドスリープに入るとしても、いずれ乗組員は全員老いてよぼよぼじゃ。『移民』どころの話ではなくなるの」
けらけらと笑いながら、ルピナスは大きく胸の前で手をバツの形にクロスした。
「正解は、全員『普段通りに生活』する。じゃ。つまり、ワシら『第四世代人類』は老いぬ、朽ちぬ、栄養さえ摂取していれば死なぬ。殺されない限りはの」
そう言いながらルピナスはその『潰れてしまっている』ヴィンツを見た。
「だが、ヴィンツにぃは確かに死んでしまった。それは明らかな事実なのじゃ。しかし、『第四世代人類』であるので、体は専用のポッドにさえ入れればこれだけ壊れてしまっても1週間もあればきれいに治る。それこそ何事もなかったかのようにじゃ。じゃが、そのままでは生ける屍じゃ。記憶も経験もその脳には残っているが『idea』が消えてしまったヴィンツにぃはもはや蘇る事などあり得ぬ。だから、タイラーパパの言った『idea』の特性をもう一度思い出して欲しいのじゃ。『idea』は『コピー』出来ないが、『移し替える』事は出来るのじゃ!」
ここで、ルピナスは嬉しそうに万歳のポーズである。
「まさか!?」
クロウはここで持ったままだった『それ』を見た。バスケットボール大のデックスのブラックボックスである。
「おお、今度はクロウにぃが大正解なのじゃ。そうじゃ、そのデックスのブラックボックスの中身は電脳じゃ。正確にはデックスの火器管制と戦術サポートを行うデックスのメインコンピュータの役割を果たす電脳と、万が一パイロットが生体反応を停止した際にパイロットの『idea』を一時的に退避させる電脳なのじゃ! その二つが互い合わせの形で二つ入っておるのがそのブラックボックスじゃ」
クロウはしげしげとそれを見ると、ポカンとしりもちをついたままのマリアンにそれを渡す。
「ヴィンツ?」
「どうやらそうらしい。彼はまだこの中で生きている」
マリアンは愛おしそうにそれを抱きしめると再び泣き始めた。
「あ、言い忘れておったが、この『つくば』と同型艦の『こうべ』と『けいはんな』には全乗組員の電脳が予備も含め3500個ずつ設置済みじゃ! 艦内で死ねば基本的に『死なない』から注意が必要じゃ! 安心してバンバン死んで欲しいのじゃ!」
「いや、それはダメだろ」
硬直する一同に対して、クロウは一人突っ込みを入れた。
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