98 / 110
だから私はレベル上げをしない
ジークベルト 1
しおりを挟む
閃いた剣先は、雷光の速さに及ぶべくもない。
それどころはそれは、剣術の道理に従っていない出鱈目で、力任せな一撃であった。
そんな一撃であれば、誰もが容易に回避してしまうだろう。
それは魔人、ジークベルトも例外ではなかった。
「はははっ!!なんだなんだ、どうした?その程度か!?」
一撃では留まらない連続も、ジークベルトは余裕を持って回避して見せている。
彼のそれを振るう相手を見下して煽っている様子見れば、それを幾ら繰り返してもその身体を捉える事はないように思われた。
「もうっ!ちょこまか動かないでよ!!当たんないじゃない!!」
もはや回避するだけでは飽き足らず、おちょくるようにひらひらと身体を動かしているジークベルトに、彼へと剣を振るうセラフは苛立ち混じりに文句を叫んでいる。
彼女は尚も剣を振り続けているが、その剣先は既に鈍りつつあった。
それは彼女の肩で息をしている姿を見れば、一目で分かるだろう。
これまで、まともに冒険に取り組んでこなかった彼女の体力は冒険者のそれではなく、日常的に運動を行っている女性のそれでしかない。
それが剣を振るって戦い続けるなどという重労働を、長くは続けられる訳もなかった。
「やはり、やはりだ!!俺様の考えは正しかったな!!レベル一桁の攻撃など、俺様は食らわない!しかし、しかしだ!レベル一桁でなければ俺様を傷つけれらない!!それはつまり!!俺様を傷つけられる者は存在しないということじゃないか!!はーっはっはっは!!!」
肩で息をしているセラフは、やがてそれでも間に合わなくなると剣を床へと突き刺して、完全に手を休めてしまっていた。
そんな彼女の姿を目にしたジークベルトは、先ほどの狼狽が嘘のように勝ち誇っている。
それは自らが施した結界が、その目論見を違えることなく、自分を完全無敵の存在へと押し上げたと確信したからのものであった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・な、舐めないでよね。ま、まだまだ・・・こんなもんじゃないん、だから」
ジークベルトの言葉は、完全に目の前の相手であるセラフを舐めきったものだ。
それに苛立つセラフはしかし、身体を支える剣から手を離せずにいた。
それは彼女の覚悟の現われでもあったが、隠しきれない疲れを示してもいる。
それはどうしようもなく、大きな隙を晒してしまっていた。
「おいおい、どうしたどうしたぁ!?もう終わりかい、お嬢ちゃん?だったら・・・今度はこっちからいかせてもらうぜぇ!!」
いくら封印を解かれたばかりで力が戻ってはいないといっても、彼は伝説の魔人である。
それが目の前の女一人、相手に出来ない筈がない。
ましてやそれが、疲れ果て隙だらけであるというならば尚更。
「えっ、嘘でしょ!?そんなのありなの!?きゃあああっ!!?」
これまで、一方的にこちらが攻撃するばかりで、全く反撃してこなかったジークベルトに、まさかそちらから手を出してくるとは思わなかったセラフは、迫りくる彼の腕に思わず驚きの声を上げる。
その腕には明らかに人のそれとは異なった、鋭い爪が伸びている。
その鋭さは恐らく、一息で彼女の命を奪うだろう。
しかし疲れきっていたセラフは、その脅威に対して悲鳴を上げることしか出来なかった。
「・・・いちいち騒ぐな。耳が痛い」
なにものをも切り裂くような魔人の爪も、その鋭さを正面から受け止めなければ対処のしようもある。
平を流して腕へと弾いた刃は、今やその手を受け止めてセラフを守るように立ち塞がっている。
身の危険にすっかり縮こまり、蹲ってしまっているセラフを見下ろした褐色の男、マックスは溜め息を漏らしてはその大声へと苦言を呈していた。
「はぁ?そんなのこっちの勝手でしょ!!そんな事いうぐらいなら、もっとちゃんと守りなさいよね!!」
いつまでもやってこない痛みに、恐る恐る顔を上げたセラフも、安心した矢先にそんな皮肉を告げられれば、文句の一つも返したくなるというもの。
もっとも彼女の場合、それが一つではすまなくなるという問題はあったが。
「心配するな、絶対に守ってみせる。お前には、指一本触れさせはしない」
「っ!!?」
照れ隠しを混ざったような憎まれ口に、真っ直ぐ返されてしまえば言葉に詰まる。
口論が続く事を覚悟して、次の文句を用意していた口は、マックスのその言葉によってパクパクと空気を食べるだけとなって、何も言い返せなくなってしまっていた。
「な、なによ!ちょっと格好のいい事いっちゃってさ・・・」
慌てて背けた顔は、赤く染まってしまった頬を隠すためか。
真っ直ぐにこちらを見詰めてくるマックスの瞳に耐え切れなくなったセラフは、その瞳を逸らすとぶつぶつと一人言葉を呟いている。
「大体、私が切り札なんだから、それを守るのは当たり前なんだからね!!」
「ふっ、そうだな。なら、しっかり守られるんだな」
「ふふーん、任せない!そういうのは得意なの、私!!」
恥ずかしさに口について出た言葉は、憎まれる内容を語っている。
しかしそんな彼女の言葉に、いつもの姿を感じ取ったマックスは、薄く唇を歪めるとその前へと立つ。
彼が口にしたのは、セラフの言葉に対する皮肉であろう。
しかしそれを素直に受け取った彼女は、調子に乗ったように腰に手を当てては、まるでそれが自慢であるかのように情けない事を口走っていた。
それどころはそれは、剣術の道理に従っていない出鱈目で、力任せな一撃であった。
そんな一撃であれば、誰もが容易に回避してしまうだろう。
それは魔人、ジークベルトも例外ではなかった。
「はははっ!!なんだなんだ、どうした?その程度か!?」
一撃では留まらない連続も、ジークベルトは余裕を持って回避して見せている。
彼のそれを振るう相手を見下して煽っている様子見れば、それを幾ら繰り返してもその身体を捉える事はないように思われた。
「もうっ!ちょこまか動かないでよ!!当たんないじゃない!!」
もはや回避するだけでは飽き足らず、おちょくるようにひらひらと身体を動かしているジークベルトに、彼へと剣を振るうセラフは苛立ち混じりに文句を叫んでいる。
彼女は尚も剣を振り続けているが、その剣先は既に鈍りつつあった。
それは彼女の肩で息をしている姿を見れば、一目で分かるだろう。
これまで、まともに冒険に取り組んでこなかった彼女の体力は冒険者のそれではなく、日常的に運動を行っている女性のそれでしかない。
それが剣を振るって戦い続けるなどという重労働を、長くは続けられる訳もなかった。
「やはり、やはりだ!!俺様の考えは正しかったな!!レベル一桁の攻撃など、俺様は食らわない!しかし、しかしだ!レベル一桁でなければ俺様を傷つけれらない!!それはつまり!!俺様を傷つけられる者は存在しないということじゃないか!!はーっはっはっは!!!」
肩で息をしているセラフは、やがてそれでも間に合わなくなると剣を床へと突き刺して、完全に手を休めてしまっていた。
そんな彼女の姿を目にしたジークベルトは、先ほどの狼狽が嘘のように勝ち誇っている。
それは自らが施した結界が、その目論見を違えることなく、自分を完全無敵の存在へと押し上げたと確信したからのものであった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・な、舐めないでよね。ま、まだまだ・・・こんなもんじゃないん、だから」
ジークベルトの言葉は、完全に目の前の相手であるセラフを舐めきったものだ。
それに苛立つセラフはしかし、身体を支える剣から手を離せずにいた。
それは彼女の覚悟の現われでもあったが、隠しきれない疲れを示してもいる。
それはどうしようもなく、大きな隙を晒してしまっていた。
「おいおい、どうしたどうしたぁ!?もう終わりかい、お嬢ちゃん?だったら・・・今度はこっちからいかせてもらうぜぇ!!」
いくら封印を解かれたばかりで力が戻ってはいないといっても、彼は伝説の魔人である。
それが目の前の女一人、相手に出来ない筈がない。
ましてやそれが、疲れ果て隙だらけであるというならば尚更。
「えっ、嘘でしょ!?そんなのありなの!?きゃあああっ!!?」
これまで、一方的にこちらが攻撃するばかりで、全く反撃してこなかったジークベルトに、まさかそちらから手を出してくるとは思わなかったセラフは、迫りくる彼の腕に思わず驚きの声を上げる。
その腕には明らかに人のそれとは異なった、鋭い爪が伸びている。
その鋭さは恐らく、一息で彼女の命を奪うだろう。
しかし疲れきっていたセラフは、その脅威に対して悲鳴を上げることしか出来なかった。
「・・・いちいち騒ぐな。耳が痛い」
なにものをも切り裂くような魔人の爪も、その鋭さを正面から受け止めなければ対処のしようもある。
平を流して腕へと弾いた刃は、今やその手を受け止めてセラフを守るように立ち塞がっている。
身の危険にすっかり縮こまり、蹲ってしまっているセラフを見下ろした褐色の男、マックスは溜め息を漏らしてはその大声へと苦言を呈していた。
「はぁ?そんなのこっちの勝手でしょ!!そんな事いうぐらいなら、もっとちゃんと守りなさいよね!!」
いつまでもやってこない痛みに、恐る恐る顔を上げたセラフも、安心した矢先にそんな皮肉を告げられれば、文句の一つも返したくなるというもの。
もっとも彼女の場合、それが一つではすまなくなるという問題はあったが。
「心配するな、絶対に守ってみせる。お前には、指一本触れさせはしない」
「っ!!?」
照れ隠しを混ざったような憎まれ口に、真っ直ぐ返されてしまえば言葉に詰まる。
口論が続く事を覚悟して、次の文句を用意していた口は、マックスのその言葉によってパクパクと空気を食べるだけとなって、何も言い返せなくなってしまっていた。
「な、なによ!ちょっと格好のいい事いっちゃってさ・・・」
慌てて背けた顔は、赤く染まってしまった頬を隠すためか。
真っ直ぐにこちらを見詰めてくるマックスの瞳に耐え切れなくなったセラフは、その瞳を逸らすとぶつぶつと一人言葉を呟いている。
「大体、私が切り札なんだから、それを守るのは当たり前なんだからね!!」
「ふっ、そうだな。なら、しっかり守られるんだな」
「ふふーん、任せない!そういうのは得意なの、私!!」
恥ずかしさに口について出た言葉は、憎まれる内容を語っている。
しかしそんな彼女の言葉に、いつもの姿を感じ取ったマックスは、薄く唇を歪めるとその前へと立つ。
彼が口にしたのは、セラフの言葉に対する皮肉であろう。
しかしそれを素直に受け取った彼女は、調子に乗ったように腰に手を当てては、まるでそれが自慢であるかのように情けない事を口走っていた。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる