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だから私はレベル上げをしない
バルトルト 4
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「この程度!!ぐがぁぁぁぁっ!!!」
凍りついていく自らの下半身に、このままでは不味いとすぐさま決断を下したバルトルトは、それを無理やり引き摺り出している。
それは時間が経つごとに深刻さを増していく被害に、正しい判断であっただろう。
しかし彼に計算違いがあったとすれば、その皮膚や肉が既に火傷によってボロボロになってしまっていたことだ。
冷たさに張り付いた皮膚は、脆くなった肉に崩れて落ちる。
それは骨すら露出させる傷となって、彼の足元を崩してしまっていた。
「もう諦めろ、バルトルト。決着はついた」
もはやまともに立つことすら出来なくなったバルトルトの姿に、マックスは静かに終わりを告げる。
それは彼を武人として尊敬し、せめて最後は苦しまずに逝かせてやろうというマックスの配慮だろう。
事実、マックスはその剣を大きく振り上げ、一撃で彼の首を落とそうという姿勢を見せていた。
「まだだっ!!まだ、終わってはおらぬ!!」
しかしそんな状況になっても尚、バルトルトの戦意は衰えてはいなかった。
彼は腰に括りつけていた刀の鞘を引き抜くと、それを杖として何とか立ち上がろうとしている。
彼がその手にした刀を杖代わりに使わなかったのは、あくまでもそれで戦うという意思のためか。
事実、今どうにか立ち上がろうとしているバルトルトは、その刀の先端をマックス達に向けては牽制をしていた。
「退いて、マックス!退きなさい!!」
そんなバルトルトの姿に、マックス達は手を出すことを躊躇ってしまっていた。
しかし、それを許さない者もいる。
その声は退けと、マックスに命令している。
しかしそれよりも早く、致命の矢が彼へと届こうとしていた。
「アレクシア!?何をっ!?」
「私は・・・私はそいつを許せない。だからっ!!」
迫る矢に、マックスはそれを何とか躱すと、それを放った者へと視線を向ける。
その先に佇むアリーは、倒れ伏したウィリアムを守るように立ち塞がっている。
彼女は憎悪に燃えた瞳で弓を構えると、決してバルトルトを打ち漏らさぬと二の矢、三の矢を続けざまに放っていた。
「こんなもの!!」
しかし流石のバルトルトか、彼はそんな状態にありながらもアリーが放った矢を簡単に切り払う。
その数は一つ、二つ、三つ。
そして四つと狙いを定める。
続く戦いの中で使いきってしまったのか、アリーにはもう番える矢が残っていない。
ならば、それを切り落とせば最後だろう。
「この程度で拙者を仕留めようなどと、片腹痛い・・・わ?」
自らの技量であるならば易々と切り払える筈の矢はしかし、そのまま狙いを違えることなく彼へと命中していた。
それは彼の手から滑り落ちた、刀を見れば理由も分かるだろう。
自らの身体を支えるために片手で振るわなければならなくなった刀は、ただでさえ掴む力が弱くなってしまう。
それは死に瀕しているその身体に、致命的な失態となって現れ、振るった勢いを制御しきれずに彼はその刀を滑らせてしまっていた。
「拙者が、刀を・・・?あぁ、老いたのだな・・・拙者も」
アリーが放った矢は、狙いを違えることなくバルトルトの眉間を貫いている。
それでも尚、彼が何事かを呟いていたのは執念ではなく、極めた業の心残りのためだろう。
決して手放す事のなかった得物を失った手を見下ろした彼は、最後に諦めを口にすると、ゆっくりと後ろに倒れていった。
「やった、のか?」
「あぁ・・・間違いない」
倒れ伏すバルトルトに、彼の手からすっぽ抜けた刀が床へと突き刺さっている。
その屹立とした姿は、今だにそこに彼の闘志が宿っているかのよう。
強敵の最後に、その終わりを信じられないマックスは、半信半疑の表情でそこに佇んでいる。
しかしブラッドは倒れたバルトルトに近づくと、その姿を見下ろして間違いないと確信しているようだった。
「やったよ、ウィリアム。私、貴方の敵を・・・」
バルトルトに止めを刺したアリーは、その事実を倒れ伏すウィリアムに告げると、そっとその胸へと手を添える。
その瞳からは一筋の涙が零れ落ち、その様子を目にしたセラフはうんうんと頻りに頷いていた。
「い、いえ!死んでませんよ!ちゃんと治療を施しましたから!!しばらくは目覚めないかもしれませんが・・・」
完全にウィリアムが死んでしまったかのような空気を醸し出す二人に、ランディは慌てて首を振ると、まだ死んではいないと叫んでいる。
それどころか彼は治療は順調だと主張し、今は目が覚めていないだけだと語っていた。
「そうなの?」
「そうですよ!!」
「な~んだ、大丈夫なんだ。心配して損しちゃった」
ランディの言葉に虚を突かれたような表情をしているのは、セラフだけだ。
彼女はきょとんとした表情で首を傾げると、それが本当なのかとランディに尋ねている。
そうしてそれが間違いないと言い切った彼の言葉に、拍子抜けしたと両足を投げ出すと、急にだらけた姿勢へとなってしまっていた。
「―――いやぁ、まさかあいつらが倒されるとはね。凄い凄い」
激しい戦いの終わりに、どこか緩んだ空気が漂っていたこの場は、その響いた声によって凍りつく。
それはこの部屋の主、魔人ジークベルトのものであった。
彼はマックス達の戦いを賞賛するように、その手を打ち鳴らしながらこちらへと歩いてくる。
その身は、当然ながら無傷だ。
何故なら彼は、この戦いに全く参加していなかったのだから。
「さて、それじゃ早速俺様と・・・っと、いいたい所だが。どうだい?ここいらで一つ、交渉といかないか?」
たっぷりとその身に余裕を纏って、こちらへとゆっくり歩み寄ってくるジークベルトの姿に、マックス達は生唾を飲み込むと、その得物を構え直している。
それはこれからがこの戦いの本番だという、覚悟の表れだろう。
しかし件のジークベルトは、彼らの覚悟とは全く異なる言葉を放っていた。
「なん、だと?」
ジークベルトの意表をついたその言葉に、マックスはうまく反応することが出来ない。
そうしている間にも彼はゆっくりと歩みを進め、マックス達のすぐ目の前へと歩み寄っていた。
彼はその場に、椅子を取り出すとそこへと腰掛ける。
そうして人数分の椅子を出現させた彼は、早く座らないのかとニタニタとした顔でマックス達を促していた。
凍りついていく自らの下半身に、このままでは不味いとすぐさま決断を下したバルトルトは、それを無理やり引き摺り出している。
それは時間が経つごとに深刻さを増していく被害に、正しい判断であっただろう。
しかし彼に計算違いがあったとすれば、その皮膚や肉が既に火傷によってボロボロになってしまっていたことだ。
冷たさに張り付いた皮膚は、脆くなった肉に崩れて落ちる。
それは骨すら露出させる傷となって、彼の足元を崩してしまっていた。
「もう諦めろ、バルトルト。決着はついた」
もはやまともに立つことすら出来なくなったバルトルトの姿に、マックスは静かに終わりを告げる。
それは彼を武人として尊敬し、せめて最後は苦しまずに逝かせてやろうというマックスの配慮だろう。
事実、マックスはその剣を大きく振り上げ、一撃で彼の首を落とそうという姿勢を見せていた。
「まだだっ!!まだ、終わってはおらぬ!!」
しかしそんな状況になっても尚、バルトルトの戦意は衰えてはいなかった。
彼は腰に括りつけていた刀の鞘を引き抜くと、それを杖として何とか立ち上がろうとしている。
彼がその手にした刀を杖代わりに使わなかったのは、あくまでもそれで戦うという意思のためか。
事実、今どうにか立ち上がろうとしているバルトルトは、その刀の先端をマックス達に向けては牽制をしていた。
「退いて、マックス!退きなさい!!」
そんなバルトルトの姿に、マックス達は手を出すことを躊躇ってしまっていた。
しかし、それを許さない者もいる。
その声は退けと、マックスに命令している。
しかしそれよりも早く、致命の矢が彼へと届こうとしていた。
「アレクシア!?何をっ!?」
「私は・・・私はそいつを許せない。だからっ!!」
迫る矢に、マックスはそれを何とか躱すと、それを放った者へと視線を向ける。
その先に佇むアリーは、倒れ伏したウィリアムを守るように立ち塞がっている。
彼女は憎悪に燃えた瞳で弓を構えると、決してバルトルトを打ち漏らさぬと二の矢、三の矢を続けざまに放っていた。
「こんなもの!!」
しかし流石のバルトルトか、彼はそんな状態にありながらもアリーが放った矢を簡単に切り払う。
その数は一つ、二つ、三つ。
そして四つと狙いを定める。
続く戦いの中で使いきってしまったのか、アリーにはもう番える矢が残っていない。
ならば、それを切り落とせば最後だろう。
「この程度で拙者を仕留めようなどと、片腹痛い・・・わ?」
自らの技量であるならば易々と切り払える筈の矢はしかし、そのまま狙いを違えることなく彼へと命中していた。
それは彼の手から滑り落ちた、刀を見れば理由も分かるだろう。
自らの身体を支えるために片手で振るわなければならなくなった刀は、ただでさえ掴む力が弱くなってしまう。
それは死に瀕しているその身体に、致命的な失態となって現れ、振るった勢いを制御しきれずに彼はその刀を滑らせてしまっていた。
「拙者が、刀を・・・?あぁ、老いたのだな・・・拙者も」
アリーが放った矢は、狙いを違えることなくバルトルトの眉間を貫いている。
それでも尚、彼が何事かを呟いていたのは執念ではなく、極めた業の心残りのためだろう。
決して手放す事のなかった得物を失った手を見下ろした彼は、最後に諦めを口にすると、ゆっくりと後ろに倒れていった。
「やった、のか?」
「あぁ・・・間違いない」
倒れ伏すバルトルトに、彼の手からすっぽ抜けた刀が床へと突き刺さっている。
その屹立とした姿は、今だにそこに彼の闘志が宿っているかのよう。
強敵の最後に、その終わりを信じられないマックスは、半信半疑の表情でそこに佇んでいる。
しかしブラッドは倒れたバルトルトに近づくと、その姿を見下ろして間違いないと確信しているようだった。
「やったよ、ウィリアム。私、貴方の敵を・・・」
バルトルトに止めを刺したアリーは、その事実を倒れ伏すウィリアムに告げると、そっとその胸へと手を添える。
その瞳からは一筋の涙が零れ落ち、その様子を目にしたセラフはうんうんと頻りに頷いていた。
「い、いえ!死んでませんよ!ちゃんと治療を施しましたから!!しばらくは目覚めないかもしれませんが・・・」
完全にウィリアムが死んでしまったかのような空気を醸し出す二人に、ランディは慌てて首を振ると、まだ死んではいないと叫んでいる。
それどころか彼は治療は順調だと主張し、今は目が覚めていないだけだと語っていた。
「そうなの?」
「そうですよ!!」
「な~んだ、大丈夫なんだ。心配して損しちゃった」
ランディの言葉に虚を突かれたような表情をしているのは、セラフだけだ。
彼女はきょとんとした表情で首を傾げると、それが本当なのかとランディに尋ねている。
そうしてそれが間違いないと言い切った彼の言葉に、拍子抜けしたと両足を投げ出すと、急にだらけた姿勢へとなってしまっていた。
「―――いやぁ、まさかあいつらが倒されるとはね。凄い凄い」
激しい戦いの終わりに、どこか緩んだ空気が漂っていたこの場は、その響いた声によって凍りつく。
それはこの部屋の主、魔人ジークベルトのものであった。
彼はマックス達の戦いを賞賛するように、その手を打ち鳴らしながらこちらへと歩いてくる。
その身は、当然ながら無傷だ。
何故なら彼は、この戦いに全く参加していなかったのだから。
「さて、それじゃ早速俺様と・・・っと、いいたい所だが。どうだい?ここいらで一つ、交渉といかないか?」
たっぷりとその身に余裕を纏って、こちらへとゆっくり歩み寄ってくるジークベルトの姿に、マックス達は生唾を飲み込むと、その得物を構え直している。
それはこれからがこの戦いの本番だという、覚悟の表れだろう。
しかし件のジークベルトは、彼らの覚悟とは全く異なる言葉を放っていた。
「なん、だと?」
ジークベルトの意表をついたその言葉に、マックスはうまく反応することが出来ない。
そうしている間にも彼はゆっくりと歩みを進め、マックス達のすぐ目の前へと歩み寄っていた。
彼はその場に、椅子を取り出すとそこへと腰掛ける。
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