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だから私はレベル上げをしない
魔人 1
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刻まれた魔法陣と仰々しいまでに太い鎖の数々が、そこに封印された存在の強大さを物語っている。
しかし今や、煌々と輝きを放っていた筈の魔法陣もその輝きを失い、鎖達も空しく垂れ下がるばかり。
それはそこに封印された存在が、解き放たれたことを意味していた。
そしてそれは、それを見るまでもなく分かってしまう。
何故なら―――。
「おいおい、ここまで辿りついた人間がこのざまかぁ?人間の質も落ちたもんだなぁ!」
その封印から解き放たれた魔人を討伐にやってきた者達が、ことごとくその場に倒れているのだから。
「ぐっ・・・まだ、終わっては・・・」
その中の一人、黒髪の青年が何とかその手にした剣を床へと突き立てては、立ち上がろうともがいている。
しかしその姿は明らかにボロボロであり、たとえ立ち上がったとしても戦う力が残っているようには見えなかった。
「何だ、まだ息がある奴がいるじゃねぇか。おい、お前・・・えーっと、名前なんだっけ?まぁいい、そいつを仕留めろ」
「分かっタ」
紫色の肌を持ち、明らかに人間では有り得ない角をその頭から生やしたその小柄な男が、恐らくここに封印されていた魔人なのだろう。
彼はまだ戦う意思を見せた黒髪の青年、マックスに僅かに驚いた様子を見せると、それを指差して確実に仕留めるように命令を下す。
その命令に言葉少なに頷いたのは、彼よりも遥かに強大そうな、鎧を纏った巨人であった。
「ぐぁぁぁっ!!」
その巨人がマックスの背中に落としたのが、その手にした薙刀のような得物の刃ではなかったのは、せめてもの情けだろうか、それとも彼をいたぶるためだろうか。
しかし命を奪う事はなかったその一撃も、彼からその戦う力を奪うには十分であった。
何故ならその時、彼の身体からは悲鳴と共に、骨の砕ける音が響いていたのだから。
「終わったか・・・あっけないもんだな。俺様の復活ってなりゃ、精鋭共がこぞって押しかけるもんだと思っていたが・・・これが時代の流れってもんかね?」
必死に立ち上がる気配を見せたマックスがその抵抗の気配を失い、もはや抵抗する者もいないかと辺りを見回した魔人は、つまらなそうに嘆息を漏らす。
彼は自らのような強大な存在の復活にしては、掛かってきた奴らが不甲斐ないと不満を示している。
しかしそれも、時代の移り変わりかと肩を竦めた彼は、どこか遠い目をしていた。
「昔なら・・・えーっと、あいつは何て名前だったか?ほら妙に光り輝く剣を持ってた・・・」
「剣神クライド・グラッドストンかと」
昔を懐かしむ魔人はしかし、過ぎ去った月日におぼろげになったしまった記憶を、うまく掘り起こす事が出来ずに視線を迷わせている。
そんな彼の姿に、先ほどの巨人と対を為しているように立つ、武人風な魔物が静かに答えを導いていた。
「そうそう、それそれ!!え、何?あいつ、剣神とかいわれてんの?あいつなんて、俺様の片腕を跳ね飛ばしただけじゃん?そんなのすぐ生えてくるっつーの」
東洋の伝承にある刀のような巨大な得物を携える武人からの言葉に、得心を得たと手の平を叩いた魔人は嬉しそうに声を上げる。
しかしそれはすぐに、武人が口にした呼称への違和感へと変わり、彼はそんな凄い奴ではなかったと不満を零し始めていた。
その口にした名前に聞き覚えがあれば、マックスが何故あそこまで魔人討伐にこだわっていたかも分かるだろう。
かつて魔人討伐によって名を上げ、剣神と呼ばれるまでになったクライド・グラッドストンは、マックスの偉大なご先祖様であった。
「ったく、俺様を利用して勝手に名を上げてんじゃねーよっての!あぁ?何だよ、可愛い子ちゃんが残ってんじゃねぇか!」
「ひぃ!?」
自分の存在を他人の功名に利用されたとご立腹の魔人は、その長い白髪をガシガシと掻き毟っては不満を示している。
そんな彼が顔を上げると、この部屋の隅へと視線を向ける。
そこにはこの部屋で唯一、今だに傷一つ負っていない女性の姿があった。
「おい、何だよお前ら!!いつの間にそんな、気を使えるようになったんだ!?嬉しいねぇ、おい!!俺様がああいう可愛い子ちゃんが好きだって、ようやく分かってくれたのかぁ!?」
魔人という、人間とは余りに異なる上位の存在に指をさされ怯えた声を漏らした女性、セラフは今までよりもさらに目立たないように部屋の隅っこへと蹲る。
魔人はそんな彼女の様子など気にも留めずに、心底嬉しそうに傍らに佇む武人達へと語り掛けていた。
魔人はセラフがああして無傷でいるのは、彼らが彼に気を使ってそうしたからだと解釈しているようで、それにようやく自らの趣味を彼らも理解したのかと喜んでいるようだった。
「いえ、偶々です。あれは戦闘には参加しなかった故、こちらからもあえて手を出しはしなかっただけでございますれば」
「あぁ!?んだよ、それ・・・あーぁ、お前らもようやく俺様の高尚な趣味を理解したかと思ったのによぉ・・・」
しかしそんな魔人の言葉に答えた武人は、彼の望まない事実を告げる。
それはつまり、彼らは単に彼女が歯向かってこなかったから放置していただけであり、彼がいうような意図はなかったというのだ。
その言葉にがっくりと肩を落とした魔人は、心底残念そうに虚空を蹴りつけている。
魔人のその振る舞いは、彼が心底それを彼らに理解してもらいたかったことを示している。
しかし今も、チラリチラリとどこか誘うように視線を向ける彼に対して、武人達は我関せずといった表情を貫くばかりであった。
「ちぇ・・・もういいよ。ま、それより今は・・・あれだよ、あれ!ふっふっふ~ん、お顔をよく見せてくださいなっと」
「っ!?ひぃぃっ!!?」
いくら誘いを掛けても反応の一つも寄越さない武人達の姿に、いい加減心が折れた魔人は気分を入れ替えると、セラフへと近づいていく。
こちらへと近づいてくるその足音に彼女が背中を跳ねさせても、もはやそれ以上逃げ場など存在しない。
「なぁ、お嬢ちゃん。名前は何ていうんだ?」
軽快な様子でこちらへと近づいてくる魔人に、セラフは壁へと身体をぶつけては、少しでもそれから遠ざかろうとする。
しかしそんな狂乱状態にある彼女に掛かったのは、意外なほどに優しい魔人の声であった。
しかし今や、煌々と輝きを放っていた筈の魔法陣もその輝きを失い、鎖達も空しく垂れ下がるばかり。
それはそこに封印された存在が、解き放たれたことを意味していた。
そしてそれは、それを見るまでもなく分かってしまう。
何故なら―――。
「おいおい、ここまで辿りついた人間がこのざまかぁ?人間の質も落ちたもんだなぁ!」
その封印から解き放たれた魔人を討伐にやってきた者達が、ことごとくその場に倒れているのだから。
「ぐっ・・・まだ、終わっては・・・」
その中の一人、黒髪の青年が何とかその手にした剣を床へと突き立てては、立ち上がろうともがいている。
しかしその姿は明らかにボロボロであり、たとえ立ち上がったとしても戦う力が残っているようには見えなかった。
「何だ、まだ息がある奴がいるじゃねぇか。おい、お前・・・えーっと、名前なんだっけ?まぁいい、そいつを仕留めろ」
「分かっタ」
紫色の肌を持ち、明らかに人間では有り得ない角をその頭から生やしたその小柄な男が、恐らくここに封印されていた魔人なのだろう。
彼はまだ戦う意思を見せた黒髪の青年、マックスに僅かに驚いた様子を見せると、それを指差して確実に仕留めるように命令を下す。
その命令に言葉少なに頷いたのは、彼よりも遥かに強大そうな、鎧を纏った巨人であった。
「ぐぁぁぁっ!!」
その巨人がマックスの背中に落としたのが、その手にした薙刀のような得物の刃ではなかったのは、せめてもの情けだろうか、それとも彼をいたぶるためだろうか。
しかし命を奪う事はなかったその一撃も、彼からその戦う力を奪うには十分であった。
何故ならその時、彼の身体からは悲鳴と共に、骨の砕ける音が響いていたのだから。
「終わったか・・・あっけないもんだな。俺様の復活ってなりゃ、精鋭共がこぞって押しかけるもんだと思っていたが・・・これが時代の流れってもんかね?」
必死に立ち上がる気配を見せたマックスがその抵抗の気配を失い、もはや抵抗する者もいないかと辺りを見回した魔人は、つまらなそうに嘆息を漏らす。
彼は自らのような強大な存在の復活にしては、掛かってきた奴らが不甲斐ないと不満を示している。
しかしそれも、時代の移り変わりかと肩を竦めた彼は、どこか遠い目をしていた。
「昔なら・・・えーっと、あいつは何て名前だったか?ほら妙に光り輝く剣を持ってた・・・」
「剣神クライド・グラッドストンかと」
昔を懐かしむ魔人はしかし、過ぎ去った月日におぼろげになったしまった記憶を、うまく掘り起こす事が出来ずに視線を迷わせている。
そんな彼の姿に、先ほどの巨人と対を為しているように立つ、武人風な魔物が静かに答えを導いていた。
「そうそう、それそれ!!え、何?あいつ、剣神とかいわれてんの?あいつなんて、俺様の片腕を跳ね飛ばしただけじゃん?そんなのすぐ生えてくるっつーの」
東洋の伝承にある刀のような巨大な得物を携える武人からの言葉に、得心を得たと手の平を叩いた魔人は嬉しそうに声を上げる。
しかしそれはすぐに、武人が口にした呼称への違和感へと変わり、彼はそんな凄い奴ではなかったと不満を零し始めていた。
その口にした名前に聞き覚えがあれば、マックスが何故あそこまで魔人討伐にこだわっていたかも分かるだろう。
かつて魔人討伐によって名を上げ、剣神と呼ばれるまでになったクライド・グラッドストンは、マックスの偉大なご先祖様であった。
「ったく、俺様を利用して勝手に名を上げてんじゃねーよっての!あぁ?何だよ、可愛い子ちゃんが残ってんじゃねぇか!」
「ひぃ!?」
自分の存在を他人の功名に利用されたとご立腹の魔人は、その長い白髪をガシガシと掻き毟っては不満を示している。
そんな彼が顔を上げると、この部屋の隅へと視線を向ける。
そこにはこの部屋で唯一、今だに傷一つ負っていない女性の姿があった。
「おい、何だよお前ら!!いつの間にそんな、気を使えるようになったんだ!?嬉しいねぇ、おい!!俺様がああいう可愛い子ちゃんが好きだって、ようやく分かってくれたのかぁ!?」
魔人という、人間とは余りに異なる上位の存在に指をさされ怯えた声を漏らした女性、セラフは今までよりもさらに目立たないように部屋の隅っこへと蹲る。
魔人はそんな彼女の様子など気にも留めずに、心底嬉しそうに傍らに佇む武人達へと語り掛けていた。
魔人はセラフがああして無傷でいるのは、彼らが彼に気を使ってそうしたからだと解釈しているようで、それにようやく自らの趣味を彼らも理解したのかと喜んでいるようだった。
「いえ、偶々です。あれは戦闘には参加しなかった故、こちらからもあえて手を出しはしなかっただけでございますれば」
「あぁ!?んだよ、それ・・・あーぁ、お前らもようやく俺様の高尚な趣味を理解したかと思ったのによぉ・・・」
しかしそんな魔人の言葉に答えた武人は、彼の望まない事実を告げる。
それはつまり、彼らは単に彼女が歯向かってこなかったから放置していただけであり、彼がいうような意図はなかったというのだ。
その言葉にがっくりと肩を落とした魔人は、心底残念そうに虚空を蹴りつけている。
魔人のその振る舞いは、彼が心底それを彼らに理解してもらいたかったことを示している。
しかし今も、チラリチラリとどこか誘うように視線を向ける彼に対して、武人達は我関せずといった表情を貫くばかりであった。
「ちぇ・・・もういいよ。ま、それより今は・・・あれだよ、あれ!ふっふっふ~ん、お顔をよく見せてくださいなっと」
「っ!?ひぃぃっ!!?」
いくら誘いを掛けても反応の一つも寄越さない武人達の姿に、いい加減心が折れた魔人は気分を入れ替えると、セラフへと近づいていく。
こちらへと近づいてくるその足音に彼女が背中を跳ねさせても、もはやそれ以上逃げ場など存在しない。
「なぁ、お嬢ちゃん。名前は何ていうんだ?」
軽快な様子でこちらへと近づいてくる魔人に、セラフは壁へと身体をぶつけては、少しでもそれから遠ざかろうとする。
しかしそんな狂乱状態にある彼女に掛かったのは、意外なほどに優しい魔人の声であった。
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