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だから私はレベル上げをしない

集う人々 1

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「これ・・・だけか?」

 呼び掛けの後の沈黙も、挑む相手の強大さを考えれば仕方がない。
 それでも義憤に燃えた者達が、きっと自らの前に現れてくれると信じていたマックスに突きつけられた現実は冷たい。
 演説の後、僅かな間を置いてギルドの前の広場へと降りてきたマックスの前に待っていたのは、閑散とした広場の姿であった。

「えぇ・・・しかし、魔人とは神話の怪物。それに挑むと聞いて、これだけ残ればいい方でしょう」
「そうか・・・そうだな」

 先ほど、上から見た景色とは明らかに違う今の状態に、ショックを受けたように固まってしまったマックスに、ギルドの職員であろう年かさの男が声を掛けてくる。
 その内容は、挑む相手を考えればこれだけ残っただけでも十分というものであった。
 確かに、魔人とは神話の中や御伽噺の中だけに存在する怪物である。
 それと戦えといわれて、少しでも人が残ったというのだから、それで満足すべきなのかもしれない。

「魔人に挑むと聞き、それでも残ってくれた者達よ。貴方がたに心からの感謝を!この件に対する報酬は、我がグラッドストン家が間違いなく用意すると約束しよう!!」

 ギルド職員からの言葉に僅かながら意気を取り戻したマックスは、再び深々と頭を下げると、残ってくれた者達に対して報酬を約束すると宣言する。
 その声に思ったほどの歓声が上がらなかったのは、ここに残った者達の目的がそれではなかったからか。

「わ、私達にそんなものなんて必要ないわ!!この命を掛けても、マクシミリアン様をお守りするだけなんだから!!」

 その代表格はまさに今、声を上げた彼女達だろう。
 挑む相手の強大さに震えながらも、好きな相手のために命を掛けるとはっきりと宣言する彼女達は、マックスの追っかけをやっていた女性達であった。
 マックスの追っかけをやっていた彼女達も、この場所を考えれば冒険者である事は疑いようもない。
 しかし果たして、その実力まではどうだろうか。

「貴女達の勇気に、心からの敬意を。しかしこれから挑むダンジョンは、深く厳しい。申し訳ないが、足手まといを連れて行く余裕はないんだ」
「そ、そんな・・・」

 マックスの追っかけに夢中であった彼女達の、冒険者としての実力は疑いが残るものだろう。
 そんな彼女達を連れて行く訳にはいかないと、はっきりと告げたマックスはしかし、どこか敬意を感じさせる振る舞いを見せていた。
 彼の言葉にがっくりと膝をついた彼女達が、それでもどこか安心した様子だったのは、やはりそれに怯えていたからだろう。

「俺達はついていくぜ!構わないだろう、マクシミリアンの旦那?」

 セラフという足手まといを護衛しながら進まなければならない状況に、これ以上足手まといを増やす訳にはいかない。
 自らの言葉に膝を折り、もはや食い下がる様子を見せない彼女達に、マックスは僅かに安心した表情を見せている。
 そんな彼に、屈強な男達が声を掛けてきていた。

「・・・お前達は、アレクシアの仲間か?」
「おぅよ!アリーちゃんが、あんたのパーティに加わっているってのは聞いてるぜ!そのアリーちゃんが魔人に挑むってんなら、俺達もついていかねぇとな!!」

 その男達は、マックスにも見覚えがあった。
 何故なら彼らは、アリーが以前に組んでいたパーティのメンバーだったからだ。
 アリーが行くのならば自分達もと明るく笑う男達に、迷いの色は見られない。
 それは愛する相手のためならば命を掛ける事も厭わないという、彼らの決意のほどが伺えた。

「お前達の実力なら、知っている・・・頼りにさせてもらうぞ」
「へへっ、任せてくんな!」

 自分達の実力をアピールするように、思い思いにポーズを決めてはその筋肉を盛り上がらせている男達に、マックスは薄く笑みを見せるとその肩を叩いていた。
 それは彼らの実力を認めたという、彼なりの合図だろう。
 言葉少なに彼らの加入を認めたマックスの振る舞いに、男達は鼻を擦ると、嬉しそうに返事を返していた。

「・・・後は、お前達だけか」

 心強い味方が得られた事で、先ほどよりも僅かながら表情が柔らかくなったマックスは、この場に残った他の冒険者へと視線を向ける。
 それは魔人討伐という危険すぎる仕事に、最後の一組となってしまっていた。

「ま、そうなるな。でも悪くないだろ、マクシミリアン?」
「エドワード、お前が残っているとはな・・・どういう風の吹き回しだ?」

 この場に残った最後の冒険者、エドワードはしかしどこか気楽な様子で佇んでいる。
 それは彼が熟練の冒険者であり、マックスと対等に話せるほどの実力者であることを意味していた。

「どういう風の吹き回しって・・・おいおい、俺はこれでも真面目で熱心な冒険者で通ってるんだぜ?魔人復活なんて人類の一大事、見過ごせる訳がないだろう?」
「・・・そうだったな」

 ことあるごとに自分に張り合ってきた男の登場に、マックスはその真意を警戒している。
 しかしエドワードはそんな深い意図などなく、ただ単に冒険者として人類の危機を見過ごせないだけだと、ニヤリと笑って見せていた。

「期待してくれていいぜ?ま、魔人に止めを刺しちまって、あんたからトップの座を奪っちまうかもしれないけどな!!」
「・・・好きにしろ」

 マックスの事を冒険者としてライバル視するエドワードは、今回の事で彼をトップの座から引きずり落として見せると宣言している。
 そんな彼の能天気な言葉に、マックスは呆れた表情を浮かべていたが、それを否定する事はなかった。

「・・・ねぇ、本当にそれが理由なんでしょうね?」
「当たり前だろ、アシュリー?他に、何の理由があるっていうんだよ?それに前からいってるだろう?俺はいつか、あいつを超えてみせるって」

 マックスと和やかに会話しているエドワードに、後ろから声が掛かる。
 それは彼のパーティのメンバーであるのだろう、赤毛の女性からだった。
 アシュリーと呼ばれたその女性は、何やらエドワードが今回の事に参加した理由は他にあるんじゃないかと疑いの目を向けていたが、彼にはそれが見当もつかないらしい。

「ふーん、だったらいいんだけど・・・セラフィーナ・エインズワースが、マクシミリアンのパーティに参加してるって、あんた知ってた?」

 疑われる心当たりなどないと話すエドワードにも、アシュリーの疑いの眼は緩む事はない。
 そうして彼女は、かつて彼の事を誘惑しようとしていた一人の女性の名前を口にしていた。

「へ、へぇ~・・・そうだったんだぁ。し、知らなかったなぁ!!」
「ちょっと!!やっぱりあいつが狙いなんじゃない!!本当、信じらんない!あんな顔が良いだけの女の、どこがいいわけ!?」

 その名前を耳にした瞬間に、びくりと肩を跳ねさせた彼の動きが何よりの証拠だ。
 彼のその反応に、やはりそういった魂胆があったのねと、アシュリーは怒りを爆発させる。
 彼女が怒りのままに振り回す杖に、幾ら叩かれてもビクともしないのは、さすが熟練の冒険者といった所か。
 ただ一方的に叩かれ続け、情けなく謝り続けている彼の姿、ひたすらに情けないものであったが。
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