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だから私はレベル上げをしない
魔人復活
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「ふぅ・・・何とかここまで来れたな。よし、今日は休んで、明日に備えるように」
迫り来る魔物達の大群を何とかやり過ごし、それをダンジョンの外まで連れてくるという失態も回避したマックス達は、ようやく辿りついた外の景色にほっと一息をついている。
一行の先導をしていたマックスは、ようやくの安全圏に僅かに表情を緩めると、背後のセラフ達に解散を告げていた。
「えぇ~・・・明日も、行くつもりなの?一日ぐらい休ませなさいよねー」
「わ、私も・・・少し休みたい、かな?」
疲れのためか、ダンジョンを出たすぐの所で地面へと膝をつき座り込んでしまったセラフは、マックスが口にしたこれからの予定に早速とばかりに不満を漏らしている。
しかしそれは何もセラフの我が侭というばかりでもなく、彼女と同じように地面に腰を下ろしているアリーも、控えめに休みを要求していた。
ついて行っただけで、ほとんど戦闘に参加していないセラフと違い、アリーは彼女と一番近い場所で彼女を守りながら戦い続けていた。
その疲れは、相当なものだろう。
そんな彼女が落ち着かない呼吸で休みを求めても、それは責められる事ではなかった。
「そうぜよ?わしは別に、明日でもかまわんぜよが・・・?」
そんな二人の姿に、ウィリアムが不思議そうに首を捻っている。
マックスですら額に汗を掻き、僅かに息を上がらせてしまっているこれまでの疲労を、彼はまるで感じていないようにケロッとした表情を見せていた。
「ふん!まぁ、考えておいてやろう。俺も少し伝手を当たって人を・・・何だ?」
二人の言葉に鼻を鳴らして不満な様子を見せたマックスも、疲労の色は隠せないようで、予定の変更の可能性も含みを持たせていた。
今回の探索でこのパーティの限界を感じた彼はどうやら、伝手を使って人を集めたいようで、それを休みに当ててもいいと考えているようだ。
しかしそれも、彼が一歩ダンジョンの外側へと足を踏み出すまでの話だ。
「何ぜよ?何かあったぜよ?うん、これは・・・?」
「雹・・・?えっ!?この季節にっ!!?」
ダンジョンの外へと足を踏み出し、そこで急に立ち止まってしまったマックスの姿を、不思議に感じたウィリアムとアリーはその後を追っている。
彼らはそこに、本来は有り得ないものの姿を目にしていた。
そう、雹である。
「へぇ~、こっちでもこの時期に雹が降るようになったのねぇ・・・ねぇ、知ってる?ここからずっと北の方にある国では、年中雪が降ってるのよ?そこでは・・・」
「こ、こっちでも、こんなの見たことないよ!!」
周りが慌てふためく中で、一人のんびりと地面に腰を下ろしたまま空を見上げていたセラフは、その仕草に見合った的外れな言葉を呟いている。
確かに彼女が回った国々の中には、極寒の地域も含まれおり、そうした場所であれば今目の前で起こっているような事も珍しくはなかっただろう。
しかしここハームズワース王国は、そんな極寒の地域とは違う。
そのためこんな景色は有り得ないと叫ぶアリーに、セラフはそれもそうかと一人頷いていた。
「これは・・・どういう事だ?まさかっ!?」
セラフとアリーのどこか平和的なやり取りを背中で聞いても、マックスの表情は緩むことはない。
彼は眉間に皺を寄せながら、氷の塊が降り続けている空を見上げ続けている。
その疑問に歪んだ唇が、驚きを口にするまで、そう時間は掛からない。
「マクシミリアン様!!マクシミリアン様!!どこにおられますか!!?」
「っ!あいつは・・・おい、ここだ!!」
彼の驚きは、それに答えるように現れた、騎士風の男を引き寄せている。
マックスの名を叫びながら、彼のことを必死に探しているその男は、相当に慌てた様子であった。
彼の姿に見覚えがあったマックスは、何かを悟ったように一度胸を押さえると、腕を振り上げては男に呼びかけていた。
「マクシミリアン様、ここにおられましたか!!私は―――」
「前置きはいい!!用件は分かってる、早く伝令を!!」
ようやく見つけた目的の人物に、騎士風の男は姿勢を正しては敬礼をし、彼に自分が何者かまず名乗ろうとしていた。
しかしその男の用件が危急の出来事であると察しているマックスは、それを省いてさっさと内容を伝えるように促し、彼へと耳を差し出していた。
「はっ!それでは、失礼を!」
「あぁ」
一目で騎士だと分かる格好をした男は少なくとも、貴族の末端に属する者なのだろう。
しかしそんな男でも、ハームズワース王国屈指の名門であるグラッドストン家の当主である、マックスは天上人に当たる。
そんな相手に直接耳打ちすることに僅かに躊躇った男は、決意の言葉を吐くと思い切って足を踏み出していた。
「・・・そうか、分かった」
「はっ!では、私はこれで失礼致します!!」
予想出来た伝令に、ショックは少ない。
それでもマックスは歯を食いしばり、伝令の男にそれがしっかり伝わったと了承を告げる。
マックスの言葉に伝令の男は踵を打ち鳴らすと、そのまま大慌てでまた別の場所へと駆けていく。
「お前達は、今すぐ宿で休め。明日・・・いや、今日にでもまたダンジョンに潜る必要があるかもしれない」
一人、伝令を耳にし深刻な表情を浮かべるマックスは、セラフ達に休むように伝えるとそのままどこかへと向かおうとしていた。
「ちょ、ちょっと待ってよマックス!!一体何があったの!?私達にも、ちゃんと説明してよ!?」
「そうよそうよ!!アリーの言う通りだわ!!一人で分かった風な顔してさ!そういうのが格好いいとでも思ってるわけ!!?」
一人で勝手に納得し、そのままどこかへと向かおうとしているマックスの事を、アリーとセラフの二人が慌てて引き止めている。
彼女達は自分達にも事情を説明してくれと訴えており、この目の前の異常事態を考えれば、それはもっともな事であろう。
必死にマックスの事を引き止めようと訴えているアリーに対して、セラフがどこか彼を煽るような言葉を並び立てていたのは、きっとご愛嬌だろう。
「・・・そうだな、お前達にも伝えておこう」
マックスが彼女達の言葉に足を止めたのは、何もその言葉に感情を揺り動かされた訳ではない。
彼女達の中に今後、絶対に欠かせない人物が含まれているからだ。
マックスは振り返りセラフを、そしてウィリアムに視線をやりながら口を開く。
「魔人が、復活した」
一言、それを伝えたマックスは、それ以上は必要はないとその場を立ち去っていく。
後に残されたのは、重苦しい沈黙だけだ。
「魔人が・・・?そんなっ、嘘でしょ!?」
その沈黙を破って、最初に口を開いたアリーだった。
彼女は信じられない事実に目を見開くと、それを否定するように首を振っている。
それはその事実を受け入れたくないという、彼女の心の現われだろう。
「・・・魔人?何ぜよ、それは?」
「ねー?それだけ言われても、何の事だか分かんないわよね?もっとちゃんと説明しなさいってのよ!」
しかし怯えるように自らの身体を抱きしめているアリーと違い、その傍に佇む二人は状況がまったく分からないと、きょとんとした表情で首を傾げていた。
ここまで、流れと勢いだけでついてきてしまったセラフが事情に詳しくないのは仕方がないが、マックス達と長い間同行していたウィリアムはある程度事情を知っている筈である。
その彼が今、首を捻ってしまっているのは、彼が如何に話を聞いてこなかったかを如実に表していた。
「え、えっと・・・どう説明したらいいか・・・うぅ、誰か助けてぇ」
恐怖に身体を抱えていたアリーも今や、解決策の見えない課題に頭を抱えてしまっている。
彼女は今も、魔人やマックスに対して適当なことばかり話している二人の姿を目にしては、絶望を感じていた。
そんな彼女が呟いた悲痛な求めはきっと、誰の耳にも届く事はない。
迫り来る魔物達の大群を何とかやり過ごし、それをダンジョンの外まで連れてくるという失態も回避したマックス達は、ようやく辿りついた外の景色にほっと一息をついている。
一行の先導をしていたマックスは、ようやくの安全圏に僅かに表情を緩めると、背後のセラフ達に解散を告げていた。
「えぇ~・・・明日も、行くつもりなの?一日ぐらい休ませなさいよねー」
「わ、私も・・・少し休みたい、かな?」
疲れのためか、ダンジョンを出たすぐの所で地面へと膝をつき座り込んでしまったセラフは、マックスが口にしたこれからの予定に早速とばかりに不満を漏らしている。
しかしそれは何もセラフの我が侭というばかりでもなく、彼女と同じように地面に腰を下ろしているアリーも、控えめに休みを要求していた。
ついて行っただけで、ほとんど戦闘に参加していないセラフと違い、アリーは彼女と一番近い場所で彼女を守りながら戦い続けていた。
その疲れは、相当なものだろう。
そんな彼女が落ち着かない呼吸で休みを求めても、それは責められる事ではなかった。
「そうぜよ?わしは別に、明日でもかまわんぜよが・・・?」
そんな二人の姿に、ウィリアムが不思議そうに首を捻っている。
マックスですら額に汗を掻き、僅かに息を上がらせてしまっているこれまでの疲労を、彼はまるで感じていないようにケロッとした表情を見せていた。
「ふん!まぁ、考えておいてやろう。俺も少し伝手を当たって人を・・・何だ?」
二人の言葉に鼻を鳴らして不満な様子を見せたマックスも、疲労の色は隠せないようで、予定の変更の可能性も含みを持たせていた。
今回の探索でこのパーティの限界を感じた彼はどうやら、伝手を使って人を集めたいようで、それを休みに当ててもいいと考えているようだ。
しかしそれも、彼が一歩ダンジョンの外側へと足を踏み出すまでの話だ。
「何ぜよ?何かあったぜよ?うん、これは・・・?」
「雹・・・?えっ!?この季節にっ!!?」
ダンジョンの外へと足を踏み出し、そこで急に立ち止まってしまったマックスの姿を、不思議に感じたウィリアムとアリーはその後を追っている。
彼らはそこに、本来は有り得ないものの姿を目にしていた。
そう、雹である。
「へぇ~、こっちでもこの時期に雹が降るようになったのねぇ・・・ねぇ、知ってる?ここからずっと北の方にある国では、年中雪が降ってるのよ?そこでは・・・」
「こ、こっちでも、こんなの見たことないよ!!」
周りが慌てふためく中で、一人のんびりと地面に腰を下ろしたまま空を見上げていたセラフは、その仕草に見合った的外れな言葉を呟いている。
確かに彼女が回った国々の中には、極寒の地域も含まれおり、そうした場所であれば今目の前で起こっているような事も珍しくはなかっただろう。
しかしここハームズワース王国は、そんな極寒の地域とは違う。
そのためこんな景色は有り得ないと叫ぶアリーに、セラフはそれもそうかと一人頷いていた。
「これは・・・どういう事だ?まさかっ!?」
セラフとアリーのどこか平和的なやり取りを背中で聞いても、マックスの表情は緩むことはない。
彼は眉間に皺を寄せながら、氷の塊が降り続けている空を見上げ続けている。
その疑問に歪んだ唇が、驚きを口にするまで、そう時間は掛からない。
「マクシミリアン様!!マクシミリアン様!!どこにおられますか!!?」
「っ!あいつは・・・おい、ここだ!!」
彼の驚きは、それに答えるように現れた、騎士風の男を引き寄せている。
マックスの名を叫びながら、彼のことを必死に探しているその男は、相当に慌てた様子であった。
彼の姿に見覚えがあったマックスは、何かを悟ったように一度胸を押さえると、腕を振り上げては男に呼びかけていた。
「マクシミリアン様、ここにおられましたか!!私は―――」
「前置きはいい!!用件は分かってる、早く伝令を!!」
ようやく見つけた目的の人物に、騎士風の男は姿勢を正しては敬礼をし、彼に自分が何者かまず名乗ろうとしていた。
しかしその男の用件が危急の出来事であると察しているマックスは、それを省いてさっさと内容を伝えるように促し、彼へと耳を差し出していた。
「はっ!それでは、失礼を!」
「あぁ」
一目で騎士だと分かる格好をした男は少なくとも、貴族の末端に属する者なのだろう。
しかしそんな男でも、ハームズワース王国屈指の名門であるグラッドストン家の当主である、マックスは天上人に当たる。
そんな相手に直接耳打ちすることに僅かに躊躇った男は、決意の言葉を吐くと思い切って足を踏み出していた。
「・・・そうか、分かった」
「はっ!では、私はこれで失礼致します!!」
予想出来た伝令に、ショックは少ない。
それでもマックスは歯を食いしばり、伝令の男にそれがしっかり伝わったと了承を告げる。
マックスの言葉に伝令の男は踵を打ち鳴らすと、そのまま大慌てでまた別の場所へと駆けていく。
「お前達は、今すぐ宿で休め。明日・・・いや、今日にでもまたダンジョンに潜る必要があるかもしれない」
一人、伝令を耳にし深刻な表情を浮かべるマックスは、セラフ達に休むように伝えるとそのままどこかへと向かおうとしていた。
「ちょ、ちょっと待ってよマックス!!一体何があったの!?私達にも、ちゃんと説明してよ!?」
「そうよそうよ!!アリーの言う通りだわ!!一人で分かった風な顔してさ!そういうのが格好いいとでも思ってるわけ!!?」
一人で勝手に納得し、そのままどこかへと向かおうとしているマックスの事を、アリーとセラフの二人が慌てて引き止めている。
彼女達は自分達にも事情を説明してくれと訴えており、この目の前の異常事態を考えれば、それはもっともな事であろう。
必死にマックスの事を引き止めようと訴えているアリーに対して、セラフがどこか彼を煽るような言葉を並び立てていたのは、きっとご愛嬌だろう。
「・・・そうだな、お前達にも伝えておこう」
マックスが彼女達の言葉に足を止めたのは、何もその言葉に感情を揺り動かされた訳ではない。
彼女達の中に今後、絶対に欠かせない人物が含まれているからだ。
マックスは振り返りセラフを、そしてウィリアムに視線をやりながら口を開く。
「魔人が、復活した」
一言、それを伝えたマックスは、それ以上は必要はないとその場を立ち去っていく。
後に残されたのは、重苦しい沈黙だけだ。
「魔人が・・・?そんなっ、嘘でしょ!?」
その沈黙を破って、最初に口を開いたアリーだった。
彼女は信じられない事実に目を見開くと、それを否定するように首を振っている。
それはその事実を受け入れたくないという、彼女の心の現われだろう。
「・・・魔人?何ぜよ、それは?」
「ねー?それだけ言われても、何の事だか分かんないわよね?もっとちゃんと説明しなさいってのよ!」
しかし怯えるように自らの身体を抱きしめているアリーと違い、その傍に佇む二人は状況がまったく分からないと、きょとんとした表情で首を傾げていた。
ここまで、流れと勢いだけでついてきてしまったセラフが事情に詳しくないのは仕方がないが、マックス達と長い間同行していたウィリアムはある程度事情を知っている筈である。
その彼が今、首を捻ってしまっているのは、彼が如何に話を聞いてこなかったかを如実に表していた。
「え、えっと・・・どう説明したらいいか・・・うぅ、誰か助けてぇ」
恐怖に身体を抱えていたアリーも今や、解決策の見えない課題に頭を抱えてしまっている。
彼女は今も、魔人やマックスに対して適当なことばかり話している二人の姿を目にしては、絶望を感じていた。
そんな彼女が呟いた悲痛な求めはきっと、誰の耳にも届く事はない。
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