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だから私はレベル上げをしない
お見合いの相手
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「・・・凄い、綺麗」
周りに広がる花園は、彼女がそこに踏み入れると共に吹いた一陣の風によって、その花弁を舞い上がらせていた。
それは色取り取りのモザイクとなって、彼女の視界を塞いでいる。
それが彼女の視界を塞いでいたのは、一体どれくらいの時間だったろうか。
一瞬に等しいそれはしかし、その後に飛び込んできた景色を際立たせるのに一役を買っている。
暖かな日差しに眩しく輝く花々は華やかに、しかしそれを誇る事なく、静かにそこに揺れている。
その景色に、思わずセラフは息を呑み、その場に足を止めてしまっていた。
「でも、ここ・・・見覚えがある」
息を呑むような美しさも、思わず涙が零れそうになってしまうほどではない。
しかしこの目を潤ませる感傷は、確かに存在している。
それは遠い日の記憶が運んだ、郷愁だろう。
セラフが見詰めるこの庭園の中心から僅かに外れた花園は、いつか見た景色の姿をしていた。
「ようこそ、セラフィーナ・エインズワース様」
セラフがその花園に見入っていると、どこかから渋く落ち着いた声が響いてくる。
それはどうやら、この庭園の中心に設けられていた東屋の方から聞こえてきたようだ。
そこには執事のような格好をした紳士が、軽食と紅茶の準備をしているのが見える。
恐らくあそこが今回のお見合いの舞台なのだと認識したセラフは、名残惜しそうにその花園へと視線を向けると、ゆっくりとそちらへと歩いていく。
「見事な庭園ね、誰が整備したのかしら?私が感動していたと、伝えてもらえる?」
東屋へと踏み入れたセラフは、途切れた日差しに急激に変化した明るさについていけずに、何度も瞬きを繰り返している。
そうしてようやくその変化に慣れた彼女が目にしたのは、遠くで目にした時よりもずっと格好のいい紳士の姿であった。
セラフよりは一回りは年上そうなその紳士はしかし、それが寧ろ積み重ねた年月となって渋みを増しているように見える。
それは思わず、セラフがその胸に高鳴りを覚えるほどのもので、彼女は彼が今回のお見合いの相手だったら良かったのにと、そっと溜め息を漏らしていた。
「これは・・・お褒め預かり光栄です。手入れに励んだ甲斐がありました」
「じゃあ、これは貴方が?へぇ、やるわね・・・ところで私のお相手、コールドウェル公爵はどこかしら?お姿が見えないようだけど?」
セラフから庭園の整備について褒められた紳士は、一度驚いたように目を見開くと、深々と頭を下げて感謝の言葉を述べる。
その反応は、彼こそがこの庭園を整備した張本人であると示している。
それにさらに彼への評価を高めたセラフは、素直に感心の言葉を漏らすと辺りへと視線を巡らせる。
セラフがこの庭園へとやってきたのは、この館の主であるコールドウェル公爵とお見合いをするためなのだ。
しかしその舞台となるこの東屋にも、彼の姿は一向に見当たらなかった。
「これは、失礼致しました。まだ名乗っていませんでしたね・・・現コールドウェル家当主、ブライアン・コールドウェルです。どうぞ、ブラッドとお呼びください」
「・・・は?」
きょろきょろと辺りを見回しては、この館の主である脂ぎった中年の親父の姿を探すセラフに、目の前の紳士は何故か慌てたように姿勢を正している。
そうして彼が口にした言葉に、セラフは言葉を失ってしまっていた。
「しかし、いけない。うら若き乙女が、そのように肌を晒しては。それでは身体が冷えてしまう・・・どうぞ、これを」
衝撃の事実を知らされて固まっているセラフに対し、ブラッドは自らの上着を脱ぎ捨てると、それを彼女へと優しくかぶしている。
それは直前まで彼が身に纏っていたためかほんのりと温かく、彼女の肌を優しく包んでいた。
「・・・は?」
その行動も、彼女の混乱を加速させてしまう。
訳も分からずかぶせられた上着をぎゅっと握り締めたセラフは、はてなマークを浮かべた瞳を彼へと向ける。
その視線の先では、ブラッドが優しげな表情で微笑み続けていた。
周りに広がる花園は、彼女がそこに踏み入れると共に吹いた一陣の風によって、その花弁を舞い上がらせていた。
それは色取り取りのモザイクとなって、彼女の視界を塞いでいる。
それが彼女の視界を塞いでいたのは、一体どれくらいの時間だったろうか。
一瞬に等しいそれはしかし、その後に飛び込んできた景色を際立たせるのに一役を買っている。
暖かな日差しに眩しく輝く花々は華やかに、しかしそれを誇る事なく、静かにそこに揺れている。
その景色に、思わずセラフは息を呑み、その場に足を止めてしまっていた。
「でも、ここ・・・見覚えがある」
息を呑むような美しさも、思わず涙が零れそうになってしまうほどではない。
しかしこの目を潤ませる感傷は、確かに存在している。
それは遠い日の記憶が運んだ、郷愁だろう。
セラフが見詰めるこの庭園の中心から僅かに外れた花園は、いつか見た景色の姿をしていた。
「ようこそ、セラフィーナ・エインズワース様」
セラフがその花園に見入っていると、どこかから渋く落ち着いた声が響いてくる。
それはどうやら、この庭園の中心に設けられていた東屋の方から聞こえてきたようだ。
そこには執事のような格好をした紳士が、軽食と紅茶の準備をしているのが見える。
恐らくあそこが今回のお見合いの舞台なのだと認識したセラフは、名残惜しそうにその花園へと視線を向けると、ゆっくりとそちらへと歩いていく。
「見事な庭園ね、誰が整備したのかしら?私が感動していたと、伝えてもらえる?」
東屋へと踏み入れたセラフは、途切れた日差しに急激に変化した明るさについていけずに、何度も瞬きを繰り返している。
そうしてようやくその変化に慣れた彼女が目にしたのは、遠くで目にした時よりもずっと格好のいい紳士の姿であった。
セラフよりは一回りは年上そうなその紳士はしかし、それが寧ろ積み重ねた年月となって渋みを増しているように見える。
それは思わず、セラフがその胸に高鳴りを覚えるほどのもので、彼女は彼が今回のお見合いの相手だったら良かったのにと、そっと溜め息を漏らしていた。
「これは・・・お褒め預かり光栄です。手入れに励んだ甲斐がありました」
「じゃあ、これは貴方が?へぇ、やるわね・・・ところで私のお相手、コールドウェル公爵はどこかしら?お姿が見えないようだけど?」
セラフから庭園の整備について褒められた紳士は、一度驚いたように目を見開くと、深々と頭を下げて感謝の言葉を述べる。
その反応は、彼こそがこの庭園を整備した張本人であると示している。
それにさらに彼への評価を高めたセラフは、素直に感心の言葉を漏らすと辺りへと視線を巡らせる。
セラフがこの庭園へとやってきたのは、この館の主であるコールドウェル公爵とお見合いをするためなのだ。
しかしその舞台となるこの東屋にも、彼の姿は一向に見当たらなかった。
「これは、失礼致しました。まだ名乗っていませんでしたね・・・現コールドウェル家当主、ブライアン・コールドウェルです。どうぞ、ブラッドとお呼びください」
「・・・は?」
きょろきょろと辺りを見回しては、この館の主である脂ぎった中年の親父の姿を探すセラフに、目の前の紳士は何故か慌てたように姿勢を正している。
そうして彼が口にした言葉に、セラフは言葉を失ってしまっていた。
「しかし、いけない。うら若き乙女が、そのように肌を晒しては。それでは身体が冷えてしまう・・・どうぞ、これを」
衝撃の事実を知らされて固まっているセラフに対し、ブラッドは自らの上着を脱ぎ捨てると、それを彼女へと優しくかぶしている。
それは直前まで彼が身に纏っていたためかほんのりと温かく、彼女の肌を優しく包んでいた。
「・・・は?」
その行動も、彼女の混乱を加速させてしまう。
訳も分からずかぶせられた上着をぎゅっと握り締めたセラフは、はてなマークを浮かべた瞳を彼へと向ける。
その視線の先では、ブラッドが優しげな表情で微笑み続けていた。
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