上 下
53 / 110
だから私はレベル上げをしない

彼らは同じものを求める 1

しおりを挟む
「えぇ!?もう売っちゃったんですか!?」

 驚きに思わずあげた叫び声も、明るく優しい響きをしている。
 それは、彼女の人格が如実に現れているためか。
 その揺るかなカーブを描くふわふわな栗毛を揺らす女性、アリーは目の前の露天の店主の言葉に、精一杯の驚きを示していた。

「そうなんだよ、悪いねぇアリーちゃん。まぁ、売ったというよりも、おまけであげちゃったんだけど・・・いやぁ、その子もアリーちゃんに負けず劣らず美人でね。こう長い黒髪に、すらっと伸びた足がセクシーというか・・・あぁ!勿論、おじさんの一番はアリーちゃんだけどね!」

 いつまでも売れ残っていた用途も良く分からないアイテムが売れてしまった事に、アリーは過剰に驚いている。
 そんな彼女の姿に困ったように頭を掻いている露店の店主は、恐らく彼女のファンなのであろう。
 そのためなのか彼は、頼んでもいないのに、話さなくてもいいことまでべらべらと話し始める。
 その内容には彼がアイテムを譲り渡した、とある黒髪の美女の事についても含まれていた。

「えっ、それってもしかして・・・セラフの事じゃ?ね、ねぇおじ様!その人ってもしかして、セラフィーナ・エインズワースって名乗りませんでしたか?」

 店主の男が語る内容は、アリーには余りに心当たりが有り過ぎた。
 余り目立つようなタイプではないとしても、アリーの容姿もかなりのものである。
 そんな彼女と比べても、明らかに美人と言い切れるほどの存在など、アリーには二人しか心当たりがなかった。

「ん~、どうだったかなぁ・・・あぁ!確かに、そんな名前だったかも!何?アリーちゃんの知り合いだったの?今度おじさんにも、紹介してよ!」

 セラフの名前を告げられた店主の男はしかし、余りピンときていない様子で頭を捻っている。
 そんな彼の様子に自分の思い違いかと顔を曇らせたアリーに、店主の男は突然声を跳ねさせると、確かにそうだったと彼女の言葉を肯定していた。

「やっぱり!でも、セラフは今・・・」

 欲しがっていたアイテムが見ず知らずの誰かの手ではなく、知り合いの手に渡ったのだと知り安堵したアリーはしかし、その彼女が今遠い場所にいる事を思い出し表情を曇らせる。
 そんなアリーに店主の男は、鼻の下を伸ばしては図々しくお願いをしていたが、それを彼女が無視したのは何も、セラフの事を考えていたからではないだろう。

「えぇー!!あれ、売っちゃったんですかぁ!!?誰にですか!?えっ、セラフィーナさん!?そんなぁ・・・ダンジョンを進むのに、どうしてもあれが必要なのに」

 アリーが遠くに行ってしまったセラフについて頭を悩ませていると、後ろから何やら間の抜けた声が響いてくる。
 それはぼさぼさの白髪を掻き毟りながら、明らかにショックを受けた様子で露店の店主へと詰め寄っているひょろ長い男、ランディであった。

「その、貴方もあれが必要なんですか?」
「え?もしかして貴女も?いやー、奇遇ですね!あんな、何でもなさそうなものを欲しがる人に出会えるとは!知ってますか?あれ実は、封印の間に進むのに必要なアイテムなんですよー」

 自分達以外にあんな使い道も良く分からないアイテムを欲しがる人がいる事に驚いたアリーは、思わずそれが本当なのかと尋ねていた。
 それを彼女から尋ねられたランディが嬉しそうなのは、それを同好の士を見つけたと解釈したからか。
 上機嫌に聞かれてもいないことまで話し出したランディは、さっき発見したばかりの重要な情報までをも彼女に話してしまっていた。

「やっぱり、そうなんだ・・・」
「えぇ!それでですね、その先の・・・っとと!?あれは・・・そ、それでは僕はこれで!!また会いましょう、美人なお姉さん!!」

 アリーがそのアイテムを探していたのは、実際に閉ざされた扉の前へと立ってそこから情報を得たからだろう。
 しかしそれだけでは確証のなかった推測は、ランディの言葉によって確信に変わる。
 ランディが自信満々に語る内容に静かに頷いては、アリーは納得を示している。
 そんな彼女の姿にランディはさらに上機嫌となり何事かを語ろうとしていたが、それはその途中に急に慌てだし、いきなりその場から駆け出していった彼に、お預けになってしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結】令嬢が壁穴にハマったら、見習い騎士達に見つかっていいようにされてしまいました

雑煮
恋愛
おマヌケご令嬢が壁穴にハマったら、騎士たちにパンパンされました

浮気をなかったことには致しません

杉本凪咲
恋愛
半年前、夫の動向に不信感を覚えた私は探偵を雇う。 その結果夫の浮気が暴かれるも、自身の命が短いことが判明して……

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...