上 下
46 / 110
黄金時代

セラフの流儀 1

しおりを挟む
 進めた足に跳ね返る感触は硬く、それは自然に踏み固められた地面などのものでは有り得なかった。
 それもその筈だろう、その足が今踏みしめたのは綺麗に敷き詰められた石畳なのだから。
 所々に乳白色に輝く魔法の明かりが灯されたここは、ダンジョンの第三階層。
 打ち捨てられた古代の遺跡といった様相のそこには、番人が如く立ち塞がるゴーレムの姿と、それに戦いを挑んでいる冒険者達の姿があった。

「そこよ、そこっ!!あぁ、もう!!どうして、そうなるよの!!後一歩って所だったのに!!」

 そんな必死にゴーレムへと挑んでいる冒険者の一行の中で、一人だけ武器も構えずに大声を上げては騒ぎ散らしている者の姿があった。
 それはその見事な黒髪を振り乱しては不満そうに唇を尖らしている美女、セラフである。
 彼女は思い通りにならない戦いの推移に石畳を踏みつけては、不満を表していた。

「無茶いわんでくださいよ、セラフィーナさん!?あれ以上踏み込んだら、死んじゃいますって!」
「そこを何とかするのが、あんた達でしょう!?あぁもう、また外した!一体ここを突破するまでに、どれくらい掛けるつもりよ!!」

 ゴーレムの巨体から繰り出される一撃は重く、熟練の冒険者といえどまともに食らってしまえば命はないだろう。
 そのため、慎重に立ち回らなければならない戦いの進行は遅い。
 それは傍目から見ている分には、ダラダラとひたすらに長引かせているだけに見え、セラフの不満は頂点に達してしまっていた。

「どれくらいっていわれてもな・・・これでも、結構削ってるんですぜ?」
「ならさっさと止めを刺しなさいよ!さっきから退屈なのよね、地味っていうか。もっと、こう・・・一発で、バーンと決められないの?」

 ゴーレムとの戦いは、ひたすら相手の攻撃を耐えていなしては、隙を突いてちょっとづつ削っていくというものだ。
 それは確実で安定した戦い方ではあるが、全く派手さはない同じことの繰り返しでもあった。
 それを眺めているのが退屈なのだと不満を示すセラフに、冒険者の男は困ったような表情で頬を掻く。
 彼女が雇用主であるという事を考えれば、その願いはなるべく叶えるべきであるが、そんな事のために命まで張る理由はない。
 それはつまり、こうしてグチグチと彼女の小言を聞き続ける事しかないということを示していた。

「皆さん!お引きになって!!」
「!おぅ、エッタちゃん!後は任せたぜ!!」

 ぐだぐだと言い争いを続けているセラフと男に、鋭い声が掛かる。
 その良く通る甲高い声の主は、こんなダンジョンの中でもきらりと光るおでこを持った金髪の美少女、エッタだろう。
 彼女はそのやたらと細かい装飾の施された杖を掲げると、それをゴーレムへと向けている。
 それを目にした冒険者達は、一斉にゴーレムから遠ざかると、彼女の射線を確保していた。

「よろしくってよ!!食らいなさい、マジックボルトーーー!!!」

 冒険者達からの声に自信満々に答えてみせたエッタは、その杖の先端を輝かせると稲妻のような光を打ち出していた。
 それは物凄いスピードで一直線に、ゴーレムの頭へと向かっていく。
 そこには僅かに露出した宝石のようなものが埋まっており、恐らくそれがこのゴーレムの核なのだろう。

「―――!!」

 ただの兵器に過ぎないゴーレムに、発声器官のようなものは備わってはいない。
 しかしそれでも雄叫びを上げるような仕草をみせたそのゴーレムは、必死に急所を庇おうと腕を掲げる。
 その速度は今までの鈍重な動きとは比べ物にならないほどに速く、ゴーレムの太く無骨な腕はそれ故に掲げるだけで盾として機能するだろう。
 そのためそのままであればエッタの放った魔法は、容易に防がれてしまう筈であった。
 しかし、そうはならない。

「・・・やった?やった、やりましたわ!!」

 冒険者達がコツコツと重ね続けていたダメージは、ゴーレムが無理な動きをした瞬間に表面化する。
 普段にはないスピードで動かそうとした腕は、だからこそ異常な負荷がかかり、それはひび割れた身体の一部へと集中して、そこを破損させる結果へと繋がっていた。
 それはやがて、ゴーレムの腕を根元からポッキリと折ってしまっている。
 腕を掲げて防ごうとしていた魔法は、それが根元から折れてしまった今に、無防備に食らってしまう結果へと繋がっている。
 動力源となる核を射抜かれ、機能を停止したゴーレムはゆっくりと前のめりに倒れ付してきていた。

「見ましたか、セラフィーナさん!私、やりましたわよ!!」

 事切れたゴーレムは、先ほどまで冒険者達が集まっていた辺りに倒れ付していた。
 その姿を目にして拳を握り締めたエッタは、それを高く掲げては自らの勝利を誇っている。
 彼女はその喜びを伝えようと、嬉しそうにその顔をセラフへと向けていた。

「やるじゃん、エッタ!」
「え、えぇ!これぐらい軽いものですわ!!おーっほっほっほ!!!」

 賞賛を期待した眼差しも、素直に賞賛の言葉が返ってきてしまうと戸惑ってしまう。
 エッタが見せたパフォーマンスを、セラフは素直に賞賛し軽くその手を打ち合わしている。
 想定していたりアクションと違う彼女の振る舞いに思わず戸惑ったエッタも、すぐにそれを受け入れると、顔を真っ赤にしては喜びを見せる。
 その甲高い高笑いは、そんな気恥ずかしさを誤魔化すための照れ隠しだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

【完結】婚約者を寝取られた公爵令嬢は今更謝っても遅い、と背を向ける

高瀬船
恋愛
公爵令嬢、エレフィナ・ハフディアーノは目の前で自分の婚約者であり、この国の第二王子であるコンラット・フォン・イビルシスと、伯爵令嬢であるラビナ・ビビットが熱く口付け合っているその場面を見てしまった。 幼少時に婚約を結んだこの国の第二王子と公爵令嬢のエレフィナは昔から反りが合わない。 愛も情もないその関係に辟易としていたが、国のために彼に嫁ごう、国のため彼を支えて行こうと思っていたが、学園に入ってから3年目。 ラビナ・ビビットに全てを奪われる。 ※初回から婚約者が他の令嬢と体の関係を持っています、ご注意下さい。 コメントにてご指摘ありがとうございます!あらすじの「婚約」が「婚姻」になっておりました…!編集し直させて頂いております。 誤字脱字報告もありがとうございます!

婚約破棄されまして(笑)

竹本 芳生
恋愛
1・2・3巻店頭に無くても書店取り寄せ可能です! (∩´∀`∩) コミカライズ1巻も買って下さると嬉しいです! (∩´∀`∩) イラストレーターさん、漫画家さん、担当さん、ありがとうございます! ご令嬢が婚約破棄される話。 そして破棄されてからの話。 ふんわり設定で見切り発車!書き始めて数行でキャラが勝手に動き出して止まらない。作者と言う名の字書きが書く、どこに向かってるんだ?とキャラに問えば愛の物語と言われ恋愛カテゴリーに居続ける。そんなお話。 飯テロとカワイコちゃん達だらけでたまに恋愛モードが降ってくる。 そんなワチャワチャしたお話し。な筈!

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

悪役令息、拾いました~捨てられた公爵令嬢の薬屋経営~

山夜みい
恋愛
「僕が病気で苦しんでいる時に君は呑気に魔法薬の研究か。良いご身分だな、ラピス。ここに居るシルルは僕のために毎日聖水を浴びて神に祈りを捧げてくれたというのに、君にはがっかりだ。もう別れよう」 婚約者のために薬を作っていたラピスはようやく完治した婚約者に毒を盛っていた濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられる。公爵家の力でどうにか断罪を回避したラピスは男に愛想を尽かし、家を出ることにした。 「もううんざり! 私、自由にさせてもらうわ」 ラピスはかねてからの夢だった薬屋を開くが、毒を盛った噂が広まったラピスの薬など誰も買おうとしない。 そんな時、彼女は店の前で倒れていた男を拾う。 それは『毒花の君』と呼ばれる、凶暴で女好きと噂のジャック・バランだった。 バラン家はラピスの生家であるツァーリ家とは犬猿の仲。 治療だけして出て行ってもらおうと思っていたのだが、ジャックはなぜか店の前に居着いてしまって……。 「お前、私の犬になりなさいよ」 「誰がなるかボケェ……おい、風呂入ったのか。服を脱ぎ散らかすな馬鹿!」 「お腹空いた。ご飯作って」 これは、私生活ダメダメだけど気が強い公爵令嬢と、 凶暴で不良の世話焼きなヤンデレ令息が二人で幸せになる話。

死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか
恋愛
「お飾りの王妃らしく、邪魔にならぬようにしておけ」  かつて、愛を誓い合ったこの国の王。アドルフ・グラナートから言われた言葉。   『お飾りの王妃』    彼に振り向いてもらうため、  政務の全てうけおっていた私––カーティアに付けられた烙印だ。  アドルフは側妃を寵愛しており、最早見向きもされなくなった私は使用人達にさえ冷遇された扱いを受けた。  そして二十五の歳。  病気を患ったが、医者にも診てもらえず看病もない。  苦しむ死の間際、私の死をアドルフが望んでいる事を知り、人生に絶望して孤独な死を迎えた。  しかし、私は二十二の歳に記憶を保ったまま戻った。  何故か手に入れた二度目の人生、もはやアドルフに尽くすつもりなどあるはずもない。  だから私は、後悔ない程に自由に生きていく。  もう二度と、誰かのために捧げる人生も……利用される人生もごめんだ。  自由に、好き勝手に……私は生きていきます。  戻ってこいと何度も言ってきますけど、戻る気はありませんから。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...