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黄金時代

誘惑の試み

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「えー?どうしよっかなー?もうメンバーも決まっちゃってるしなー?」

 黒髪の美女に腕を絡め取られ、その柔らかい身体を押し付けられて鼻の下をデレデレと伸ばしている男は、よく見ればかなり旅慣れた冒険者のようだった。
 彼の腕に絡みついている黒髪の美女、セラフがその様子にニヤリと笑みを見せたのは、後一息で落とせそうな手応えを確かに感じたからだろう。

「いいじゃん、いいじゃん一人ぐらい?ほら、ついて行くだけ!邪魔なんてしないから!それならいいでしょ?ねぇ~?」
「う~ん、でもなぁ・・・仲間の意見も聞いてみないと」

 確かな手応えに、セラフはさらにその身体を彼へと密着させると、甘い声色で畳み掛けている。
 困ったように頭を掻いていた彼の腕がさらに加速したのは、そんな彼女の甘い声にやられてしまったからか、それともその感触を少しでも長く堪能したかったからか。

「えー?どうしても相談しなきゃ、駄目ー?私、知ってるよー?貴方がパーティのリーダーなんでしょ?ならー・・・こんなことぐらい一人で決めちゃった方が、男らしいって思うなー?」
「そうかな?確かに言われてみれば・・・じゃあ―――」

 男のデレデレとしたにやけ顔は、セラフをパーティに入れたいと如実に語っている。
 その表情に確かな手応えを感じたセラフは、彼の最後の躊躇を取り除こうと、その自尊心を刺激し始める。
 まだ若い年頃ながら、前途有望な冒険者パーティのリーダをしている彼ならば、当然その自尊心は相応のものを持っているだろう。
 それが目の前の美女に対して格好つけたい男の心理と合わされば、それはもう歯止めなど利きようもない。
 セラフの甘えた口調に導かれた男は、彼女をパーティに入れると口にしようとしていた。

「ちょっと!何やってんのよ、あんた!!」

 しかしそれは、突如響き渡った若い女性の声によって遮られる。
 その声の主は、激しい気性を象徴するように真っ赤な髪をたなびかせた魔法使い風の女性であった。
 彼女は明らかに怒り狂った様子で、セラフに密着され鼻の下を伸ばしている男を睨みつけている。

「ア、アシュリー!?こ、これはその・・・ち、違うんだ!!」

 彼女は間違いなく、この男の仲間なのだろう。
 アシュリーと呼ばれたその女性の登場に、男は慌ててセラフの腕を振りほどき、これは誤解だと彼女に言い訳を始めている。
 そんな彼の姿に、セラフは小さく舌打ちを漏らしていた。

「ちっ・・・後、ちょっとでいけそうだったのに。今回も駄目かー」

 先ほどまで自分に対してあれほど鼻の下を伸ばしていた男は、今やアシュリーと呼ばれた女性の下で、ペコペコとひたすらに頭を下げている。
 その姿を見れば、もはや目がないことは明らかだ。
 セラフはその男の姿に悔しそうに呟きを漏らしながらも、さっさとこの場を後にしようとしていた。

「ちょっと、そこの貴女!!何、勝手にいなくなろうとしているの!まだ話は終わってないわよ!!」
「はぁ?知らないわよ!そっちで勝手にやってろっての!!」

 そんなセラフの振る舞いを、アシュリーは許さない。
 彼女は自らのパーティのリーダーであり、恐らく自身の想い人でもある男を誘惑されたのがよほど許せないのか、その怒りをセラフへとぶつけようとしていた。
 しかしそんな八つ当たりじみた怒りをぶつけられる謂れなど、セラフにはない。
 そのため彼女は捨て台詞を吐いては、素早くその場を後にしていく。

「はぁ・・・ようやく捕まえたと思ったのに、また最初からか・・・初めて、手応えがあったと思ったのになぁ」

 今にもこちらへと飛び掛ってきそうなアシュリーの眼光から、慌てて逃げ出したセラフは一人溜め息を漏らす。
 先ほどの男は彼女にとって、初めてまともに手応えがあったターゲットであった。
 これまでも有力な冒険者に声を掛けては誘惑を試みていたセラフであったが、彼以外の男にはそもそも相手にすらされず、爪弾きにされていたのだ。
 そこにようやく手応えのあった男が現れ、それが後一歩という所で目の前から浚われたのだ、その落ち込みようは計り知れない。

「もう一通り、有力な冒険者には声を掛けたし。こうなったら、ランクを落とすしか・・・」

 がっくりと肩を落としているセラフは、落ち込みの余り狙うターゲットのランクを落とす事を考え始めている。
 有力な冒険者と呼ばれるまでになった者達は、自然とそれ相応の品位を身につけているものである。
 しかしそこからランクを落とせば、そこは暴力を生業とするならず者となんら変わらない者達が溢れる事になる。
 それでももはや、それを承知でそこに飛び込むしかないと、セラフは考えていた。

「はぁ・・・それしかないか。あいつら、いっつも女に飢えてるし、ちょっと露出を多くしたらすぐに食いつくでしょ」

 吐き出した溜め息は、未練を帯びて湿っている。
 それでも彼女は決断すると、胸元を止めるボタンを一つ外していた。
 そうして解放された胸元は今までよりも大きく、彼女の美しい谷間を露出させている。
 それは男ならば誰でも食いついてしまうほどの性的な魅力を帯び、事実周りを歩いていた男達がチラリチラリとこちらに視線を向け始めていた。

「よし、行くか!っとと、早速いい所に・・・はぁい!お兄さん達、今時間大丈夫かしら?」

 決意に顔を上げたセラフは、早速目の前を通り掛かる柄の悪い男達を目にしていた。
 彼らも恐らく、冒険者なのだろう。
 しかし先ほどセラフが声を掛けた若者とは比べ物にならないほど、その身なりは汚く装備の手入れも行き届いていない様子であった。

「お、俺達の事かい!?いやぁ、俺達ゃお嬢さんみたいなのから声を掛けられるような身分じゃ・・・」 

 自分達のような人間には到底縁のないと思われた絶世の美女から声を掛けられた男達は、思わず動揺しては人違いかと問い返している。
 その目ははっきりと、セラフの大きく開けた胸元に釘付けだ。
 そんな男達の様子に、セラフは勝利を確信して歩みを進める。
 そして彼女のその姿は大柄な男達に取り囲まれ、すぐに見えなくなってしまっていた。
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