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黄金時代

市場で出会った奇妙な男 2

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「いやー、助かります!!!これ、ずっと探してたんですよ!えーっと・・・」
「セラフ、セラフィーナ・エインズワースよ。そっちは?」
「私はランディ、いえランドルフです。セラフィーナさん、いやエインズワースさんと呼んだ方がいいのかな?」

 セラフからポーションの小瓶を受け取った男、ランディは本当に嬉しそうに、眼鏡の奥の瞳を輝かせている。
 お互いに自己紹介を交わした二人に、ランディは上がったテンションのままにセラフへと声を掛けるが、流石にその距離の詰め方は失礼かと一人悩み始めてしまっていた。

「別にセラフィーナでいいわよ、好きに呼んでくれたら。こっちもランディって呼ぶし、それでいいでしょ?」
「あぁ、それは楽で助かります。いやぁ・・・実は研究室に引きこもってばかりいたので、こうして若い女性と話すのは初めてなんですよ。だから勝手が分からなくて、ははは・・・」

 セラフをどう呼んだらいいか分からないと悩んでしまっているランディに、そんな堅苦しく考える必要はないと彼女は話す。
 彼女はこちらから相手を愛称で呼ぶ事で、そんなに気を遣う必要はないのだと示してみせていた。
 そんな彼女の言葉にランディはほっとした仕草をみせると、実はまともに女性と接した経験がないのだと、恥ずかしそうに頭を掻いていた。

「ふーん、そんな人もいるのね。あぁ、私にはいいけど、他の女の人にはしちゃ駄目よ?いきなり名前で呼ぶなんて、失礼なんだから」
「はぁ、やっぱりそうなんですね。いやぁ、勉強になります」

 ランディが語った生い立ちに、セラフは感心するようで呆れたような、どっちともつかない感想を漏らす。
 初対面の人とも気軽に接する事が心情のセラフからすれば、ランディの振る舞いは気にならないが礼儀を気にする者、特に妙齢のレディともなればそうした事を気にする者も多いだろう。
 それを律儀に指摘し注意してくるセラフに、ランディは感心したように何度も頷いてみせていた。

「それじゃ、私はもう行くわ。何の研究だか知らないけど、頑張ってねランディ」

 ふらりと立ち寄っただけの店先に、いつまでも留まっている訳にはいかない。
 セラフはランディに向かって軽く別れの挨拶を交わすと、そのままその場を後にしようとしていた。

「あぁ!?お待ちください、セラフィーナさん!まだお礼が・・・!」

 それを、ランディは慌てて引き止める。
 彼からすればセラフは、貴重なポーションを譲ってもらった恩人だ。
 それをみすみすこのまま帰す訳にはいかない。

「お礼?別にそんなのいいのに・・・私、何もしてないわよ?」
「いいえ、そういう訳には・・・ええと、何かあったかな?これじゃ駄目だし・・・うーん、おかしいな?ゴミしか入ってない」

 かといって、セラフからすれば手に取っただけの品物を譲ったという話に過ぎない。
 そんなことでお礼をされる謂れはないと戸惑うセラフに、ランディはその服を弄っては何か渡せるものはないかと探っている。
 しかしそのポケットから掻きだされるのは、塵や芥といったゴミばかりであった。

「そうだっ!おじさん、これと・・・後、これもください!!」
「いいのかい、兄ちゃん?これ、結構値が張るよ?」

 幾ら身体を弄っても、お礼に相応しい品を見つけられないランディは、ここが露天の店先だと思い出すとそこに答えを見出していた。
 店頭に並べられているポーションを適当に選んでは、店主であるおじさんへと突き出した彼はどうやら、それをお礼の品と定めたようだ。
 しかし店主のおじさんは、目の前の身形に気を遣っておらず、ボロボロの衣服を纏っている青年に、まともな支払い能力があるのか疑っているようだった。

「さっきのも合わせて、これで足りますか?」
「どれ・・・っ!?こりゃ・・・ハームズワース金貨かい?そりゃ、足りるが・・・釣り銭があったかどうか・・・」

 店主が向けてくる疑いの眼差しは、ランディが懐から取り出した一枚の硬貨によって吹き飛んでしまう。
 何故ならそれが、眩い輝きを放つ大振りな金貨であったからだ。
 その存在に、今度は自らが持つ釣り銭の数の方が心配になった店主は、慌てて背後の荷物を探り出していた。

「足りるならよかった・・・っ!?おじさん、お釣りは結構です!!」
「そういう訳には・・・って、おい兄ちゃん!?」

 もしかすると、自分で買い物をした経験もないのか、足りた支払いに心底安堵した様子を見せるランディは、急に何かに気付いたかのように慌て始める。
 彼は今も必死に荷物を弄っている店主に、お釣りはもういいと叫ぶとそのままその場を後にしようとしていた。

「セラフィーナさん、これを!では、またいつかお会いしましょう!!」
「えっ!?ちょっと、だからこんなの貰えないって・・・行っちゃった」

 セラフに無理矢理、店主から買い取ったポーションを手渡したランディは、一方的に別れを告げるとそのまま駆け出していってしまう。
 ランディにそんなのを貰う筋合いはないと、それを断ろうとしたセラフはしかし、既に目の前から消えてしまった彼に、もはやどうすることも出来なくなってしまっていた。

「・・・変な奴」

 そうして彼女の下に残ったのは、二つのポーションの小瓶と、何ともいえないもやもやとした感情だけだった。
 それを言葉にして呟く彼女のすぐ傍を、まるで誰かを探しているかのような集団が、忙しなく駆け抜けていく。
 その姿を既に踵を返し始めていたセラフは、目にすることはなかった。
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