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第二章 王国動乱
ケイティの暴走
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「馬鹿な、右翼の部隊が壊滅しただと!?こちらには敵の二倍の兵がいたのにか!?信じられん、誤報ではないのか!?」
敵方の左翼、つまりこちらの右翼から始まった戦端は今や戦場全体に伝播している。
その中にあってルーカスが控える本陣は戦場の後方にあり、今だ戦いに巻き込まれない位置にあった。
しかしだからとってのんびりと構えていられるという訳ではなく、彼は各地からやってくる戦況の報告に一喜一憂し、その度に新たな指示を求められるという慌ただしい状況にあった。
そんな彼の下に今、新たな報告が飛び込んでくる。
その余りに信じられない内容に、ルーカスはしたためたばかりの命令書を取り落としてしまっていた。
「ま、間違いありません!!私はこの目で見ました!そ、そんな事よりもルーカス様!お逃げください!!左翼を突破した部隊が、そのままこちらまで―――」
雲上人であるルーカスに怒鳴りつけられても報告にやって来た兵士が一度びくりと震えただけで耐えて見せたのは、それだけ切羽詰まった状況であったからか。
彼は頻りに後ろを振り返っては、ルーカスにもすぐにその場から逃げるように促している。
「逃げろだと?この我に逃げろというのか!?貴様、一体どういうつもりで・・・おい、どうした!?ちゃんと最後まで報告せぬ、か・・・?」
不明瞭な内容で敵前で逃亡するという不名誉な行為を促してくる兵士に、ルーカスはもっと明瞭に報告しろと求めている。
しかし、その言葉が彼に届くことはない。
何故ならばその兵士は、まるで背後から切り付けられたかのようにゆっくりと倒れていったからだ。
何かが兵士の身体から飛び散りルーカスの頬を汚す、ルーカスはそれを手の平で拭っていた。
「なぁ、あんた大将だろ?こいつがわざわざ報告に来たってことは、大将なんだろうなぁ?だったらさぉ・・・あたいの手柄になっておくれよぉ!!」
それは血であった、べったりそれが塗りつけられ真っ赤に染まった手の平を目にして、ルーカスは初めてそれを知る。
もう彼の目の前にまで、敵が迫っているのだと。
「うおおぉぉぉぉ!!?」
切り殺した兵士の背後から現れたのは、その全身を自らの髪と同じ色に染めた悪鬼のような女だった。
目を爛々と輝かせ、まるで獲物を見つけたように歓喜に溢れる表情を見せるその女と目が遭ったルーカスは、一拍を置いて悲鳴を上げる。
「ルーカス様、お逃げください!!」
「ははっ!そうまで必死に逃がすってことは、そうなんだろ!?そういう事なんだろ!!?」
恐怖に気が動転し、その場を動くことの出来ないルーカスの背中を、彼の近くに控えていたパトリックが押しこの場から逃がそうとする。
しかしその振る舞いは、彼が重要人物であると悪鬼のような女にも教えることになり、彼女は歓喜の声を上げるとルーカスに完全に狙いを定め、突撃してくるのだった。
「邪魔だよ、退きなぁ!!」
パトリックに背中を押され、ようやくこの場から逃げ出そうとしているルーカス。
そんな彼を周りの兵士達は必死に守ろうとするが、愛馬に跨り突撃する悪鬼のような女、ケイティを止めることなど出来ず弾き飛ばされてしまう。
彼女を阻むものはもはや、ルーカスの前に立ち塞がり身を挺して彼を守ろうとしているパトリックだけだ。
そんな彼をもケイティは切り伏せようと、馬上から得物を振り下ろす。
「・・・私のような者ならば、いつでも倒せると踏んでいましたか?」
ルーカスの傍に控えるパトリックは、体格のいい彼と比べると如何にも文官風な細身な身体つきをしていた。
そして彼の振る舞いも紛れもなく文官のそれであった、そのためケイティは一瞬で判断したのだ、こんな相手ならば障害にもならないと。
その障害にもならない相手が今、ケイティの剣を受け止め静かに嗤う。
「ルティ!?がっ!?」
そしてパトリックは、通り抜けざまにケイティの愛馬の足を狙って剣先を払う。
彼の剣先によって地面を踏みしめる筈であった足を失ったケイティの愛馬はもんどりうって倒れ、その上から投げ出された彼女は愛馬の名前を叫んでは強かに背中を打つ。
「これで逃げ足は封じました。捕らえなさい!殺してはなりませんよ、彼女には色々と利用価値がありますから!」
ケイティから逃げる足を奪ったパトリックは剣を優雅に収めると、周りの兵士達へと指示を出す。
彼の指示に、兵士達が慌てて地面へと横たわった彼女の周りへと集まって来ていた。
「くっ・・・こうなったら!」
幾重にも自分を取り囲む兵士に、背中を強かに打ち付けたことによってまともに動かない身体、普段ならばこんな状況でも笑って戦いに向かうケイティにも、その顔には焦りの色が浮かんでいた。
それもやがて諦めの色に変わると、彼女は手にしていた得物を自分の喉へと向けた。
彼女は知っていたのだ、戦場で捕まった若い女がどんな悲惨な結末を迎えるかを。
「おっと、命を粗末にしてはいけません。ねぇ、そうでしょう?サラトガ山賊団団長、ケイティ・オーリス?」
「っ!?あんた、どこでそれを!?」
一突きで命を終わらせようとしていたケイティ、パトリックはその手を寸前で掴んで止めると、彼女の耳元でそう囁く。
ケイティはその言葉に顔色を変えると、パトリックを睨みつける。
「さぁ、どこででしょうか?私のような立場ですと色々な情報が入ってくるのです、色々とね・・・その女を捕まえておきなさい!暴れないようにしっかりと縛って、ね」
猛獣のような唸り声を上げながら睨みつけてくるケイティにパトリックは肩を竦めて見せると、彼女から取り上げた曲刀を適当に放り捨てている。
「おぉ、でかしたぞパトリック!!貴公は剣の腕も立ったのだな!」
「これはとんだお目汚しを・・・私の技量など、ルーカス様の足元にも及びません」
「ん?お、おぉ!そうだな、その通りだ!確かに剣の技量ならば、この我ルーカスの方が―――」
パトリックの命を受けた兵士がケイティを取り囲むと、ようやく安心した様子のルーカスが戻って来ては彼へと声を掛けてくる。
その声に振り返る前に見せたパトリックの冷たい表情をルーカスは知る事はないだろう、何故なら彼はパトリックが口にしたよいしょの言葉に上機嫌な笑みを浮かべるばかりであるのだから。
「ル、ルーカス様!あ、あれを!!」
「えぇい!今度は何だ!?」
危機を脱し、ようやく落ち着いては上機嫌に笑みを漏らしていたルーカスの下に、再び慌てた様子の兵士が駆け込んでくる。
それに再び不機嫌となったルーカスは、怒鳴りつけるようにしてその兵士が指し示す方へと視線を向ける。
「うわああぁぁぁぁぁ!!?」
そこには爆走する馬に抱き着くようにしてしがみつきながら、こちらに向かって突進してくるユーリの姿があった。
「ユーリ!?あたいを・・・あたいを助けにこんな所まで来てくれたのかい?ぐすっ、あんたはこんなにもあたいを想ってくれてるのにあたいときたら・・・ユーリ、こっちだよ!あたいはここさ!」
ユーリに認められたいがために危険を冒し、そのために捕まった自分を助けるためにそのユーリが命を懸けてやって来てくれる。
それではまるで、目的と手段があべこべだとケイティは涙ぐむ。
彼女は零れた涙を拭うと、こちらへと向かってきているユーリに手を振り、合図の声を上げていた。
「ケイティ!?」
「そうさ、あたいはここさユーリ!!さぁ、早くこっちに来てあたいを助け―――」
合った目線に喜びが広がり、ケイティは歓喜の表情で叫ぶ。
そのヒーローの名を、愛を込めて。
「た、助けてケイティ!!馬が暴れて、ど、どうしようも・・・うわああぁぁぁ!!?」
ヒーローは死んだ、その悲鳴と共に。
「・・・は?」
では、その愛もそれと共に死ぬだろうか。
「あっはっはっは!!なんだい、あたいを助けに来たんじゃないってのかい!?ははっ、こりゃあたいもけったいな男に惚れちまったもんさね!」
いいや、そうはならない。
何故なら今も、この胸には温かい気持ちで溢れているのだから。
「ま、これも惚れた弱みって奴かねぇ・・・ユーリ、手を伸ばしな!!」
「えぇ!?それって右手、左手!?」
「そんなの、どっちでもいいだろ!?えぇい、まどろっこしい男だねぇ!!そらっ!」
照れ隠しに掻いた頬もいつしか朱に染まって、ケイティはユーリが好き放題暴れさせている馬に飛び乗る。
「どぅ!どぅどぅ・・・ほら、いい子だ」
「おぉ、こんな簡単に・・・凄いな、ケイティ!」
「へへっ、そうだろ?あたいは凄いのさ!どうだい、もっと褒めてもいいだよ?」
ユーリには制御不能だった馬も、ケイティに掛かればあっという間に落ち着いてしまう。
そんな彼女に素直な感心を見せるユーリに、ケイティは鼻を擦ると誇らしそうに笑っていた。
「頭ぁ!ご無事ですかい!?」
「遅い!!ったく、今更のこのこ現れやがって・・・」
「ですが頭、いい事もあったんで?」
「っ!?うっさい、さっさとずらかるよ!!」
そこに、ケイティの部下であるサラトガ山賊団の面々が現れる。
彼女は到着の遅れた彼らを怒鳴りつけるが、彼らはそれも悪い事ばかりではなかったとユーリの背中にしがみついている彼女へと意味深な視線を向けるばかり。
それに今度は拳骨で応えたケイティは、踵を返すとさっさとその場を後にしていく。
「馬鹿な、まんまと逃がすだと?何をやっている、さっさと追い駆けないか!!」
見ればその場に現れたサラトガ山賊団の背後には、彼らの退路を確保するようにシャロンとデズモンドが奮闘している姿があった。
それらの姿を目にすれば、彼らにこのまままんまと逃げられてしまうと分かり、ルーカスは怒りと共にそう叫ぶ。
「ル、ルーカス様大変です!!」
「またか!?えぇい、毎度毎度・・・今度は何だ!!?」
そこに、再び慌てた様子の兵士が飛び込んでくる。
「左翼の部隊が・・・左翼の部隊が壊滅した模様です!!」
「・・・何だと?」
その衝撃の報告に、ルーカスは再び固まる。
そんな彼の額に、一筋の髪がはらりと落ちていた。
敵方の左翼、つまりこちらの右翼から始まった戦端は今や戦場全体に伝播している。
その中にあってルーカスが控える本陣は戦場の後方にあり、今だ戦いに巻き込まれない位置にあった。
しかしだからとってのんびりと構えていられるという訳ではなく、彼は各地からやってくる戦況の報告に一喜一憂し、その度に新たな指示を求められるという慌ただしい状況にあった。
そんな彼の下に今、新たな報告が飛び込んでくる。
その余りに信じられない内容に、ルーカスはしたためたばかりの命令書を取り落としてしまっていた。
「ま、間違いありません!!私はこの目で見ました!そ、そんな事よりもルーカス様!お逃げください!!左翼を突破した部隊が、そのままこちらまで―――」
雲上人であるルーカスに怒鳴りつけられても報告にやって来た兵士が一度びくりと震えただけで耐えて見せたのは、それだけ切羽詰まった状況であったからか。
彼は頻りに後ろを振り返っては、ルーカスにもすぐにその場から逃げるように促している。
「逃げろだと?この我に逃げろというのか!?貴様、一体どういうつもりで・・・おい、どうした!?ちゃんと最後まで報告せぬ、か・・・?」
不明瞭な内容で敵前で逃亡するという不名誉な行為を促してくる兵士に、ルーカスはもっと明瞭に報告しろと求めている。
しかし、その言葉が彼に届くことはない。
何故ならばその兵士は、まるで背後から切り付けられたかのようにゆっくりと倒れていったからだ。
何かが兵士の身体から飛び散りルーカスの頬を汚す、ルーカスはそれを手の平で拭っていた。
「なぁ、あんた大将だろ?こいつがわざわざ報告に来たってことは、大将なんだろうなぁ?だったらさぉ・・・あたいの手柄になっておくれよぉ!!」
それは血であった、べったりそれが塗りつけられ真っ赤に染まった手の平を目にして、ルーカスは初めてそれを知る。
もう彼の目の前にまで、敵が迫っているのだと。
「うおおぉぉぉぉ!!?」
切り殺した兵士の背後から現れたのは、その全身を自らの髪と同じ色に染めた悪鬼のような女だった。
目を爛々と輝かせ、まるで獲物を見つけたように歓喜に溢れる表情を見せるその女と目が遭ったルーカスは、一拍を置いて悲鳴を上げる。
「ルーカス様、お逃げください!!」
「ははっ!そうまで必死に逃がすってことは、そうなんだろ!?そういう事なんだろ!!?」
恐怖に気が動転し、その場を動くことの出来ないルーカスの背中を、彼の近くに控えていたパトリックが押しこの場から逃がそうとする。
しかしその振る舞いは、彼が重要人物であると悪鬼のような女にも教えることになり、彼女は歓喜の声を上げるとルーカスに完全に狙いを定め、突撃してくるのだった。
「邪魔だよ、退きなぁ!!」
パトリックに背中を押され、ようやくこの場から逃げ出そうとしているルーカス。
そんな彼を周りの兵士達は必死に守ろうとするが、愛馬に跨り突撃する悪鬼のような女、ケイティを止めることなど出来ず弾き飛ばされてしまう。
彼女を阻むものはもはや、ルーカスの前に立ち塞がり身を挺して彼を守ろうとしているパトリックだけだ。
そんな彼をもケイティは切り伏せようと、馬上から得物を振り下ろす。
「・・・私のような者ならば、いつでも倒せると踏んでいましたか?」
ルーカスの傍に控えるパトリックは、体格のいい彼と比べると如何にも文官風な細身な身体つきをしていた。
そして彼の振る舞いも紛れもなく文官のそれであった、そのためケイティは一瞬で判断したのだ、こんな相手ならば障害にもならないと。
その障害にもならない相手が今、ケイティの剣を受け止め静かに嗤う。
「ルティ!?がっ!?」
そしてパトリックは、通り抜けざまにケイティの愛馬の足を狙って剣先を払う。
彼の剣先によって地面を踏みしめる筈であった足を失ったケイティの愛馬はもんどりうって倒れ、その上から投げ出された彼女は愛馬の名前を叫んでは強かに背中を打つ。
「これで逃げ足は封じました。捕らえなさい!殺してはなりませんよ、彼女には色々と利用価値がありますから!」
ケイティから逃げる足を奪ったパトリックは剣を優雅に収めると、周りの兵士達へと指示を出す。
彼の指示に、兵士達が慌てて地面へと横たわった彼女の周りへと集まって来ていた。
「くっ・・・こうなったら!」
幾重にも自分を取り囲む兵士に、背中を強かに打ち付けたことによってまともに動かない身体、普段ならばこんな状況でも笑って戦いに向かうケイティにも、その顔には焦りの色が浮かんでいた。
それもやがて諦めの色に変わると、彼女は手にしていた得物を自分の喉へと向けた。
彼女は知っていたのだ、戦場で捕まった若い女がどんな悲惨な結末を迎えるかを。
「おっと、命を粗末にしてはいけません。ねぇ、そうでしょう?サラトガ山賊団団長、ケイティ・オーリス?」
「っ!?あんた、どこでそれを!?」
一突きで命を終わらせようとしていたケイティ、パトリックはその手を寸前で掴んで止めると、彼女の耳元でそう囁く。
ケイティはその言葉に顔色を変えると、パトリックを睨みつける。
「さぁ、どこででしょうか?私のような立場ですと色々な情報が入ってくるのです、色々とね・・・その女を捕まえておきなさい!暴れないようにしっかりと縛って、ね」
猛獣のような唸り声を上げながら睨みつけてくるケイティにパトリックは肩を竦めて見せると、彼女から取り上げた曲刀を適当に放り捨てている。
「おぉ、でかしたぞパトリック!!貴公は剣の腕も立ったのだな!」
「これはとんだお目汚しを・・・私の技量など、ルーカス様の足元にも及びません」
「ん?お、おぉ!そうだな、その通りだ!確かに剣の技量ならば、この我ルーカスの方が―――」
パトリックの命を受けた兵士がケイティを取り囲むと、ようやく安心した様子のルーカスが戻って来ては彼へと声を掛けてくる。
その声に振り返る前に見せたパトリックの冷たい表情をルーカスは知る事はないだろう、何故なら彼はパトリックが口にしたよいしょの言葉に上機嫌な笑みを浮かべるばかりであるのだから。
「ル、ルーカス様!あ、あれを!!」
「えぇい!今度は何だ!?」
危機を脱し、ようやく落ち着いては上機嫌に笑みを漏らしていたルーカスの下に、再び慌てた様子の兵士が駆け込んでくる。
それに再び不機嫌となったルーカスは、怒鳴りつけるようにしてその兵士が指し示す方へと視線を向ける。
「うわああぁぁぁぁぁ!!?」
そこには爆走する馬に抱き着くようにしてしがみつきながら、こちらに向かって突進してくるユーリの姿があった。
「ユーリ!?あたいを・・・あたいを助けにこんな所まで来てくれたのかい?ぐすっ、あんたはこんなにもあたいを想ってくれてるのにあたいときたら・・・ユーリ、こっちだよ!あたいはここさ!」
ユーリに認められたいがために危険を冒し、そのために捕まった自分を助けるためにそのユーリが命を懸けてやって来てくれる。
それではまるで、目的と手段があべこべだとケイティは涙ぐむ。
彼女は零れた涙を拭うと、こちらへと向かってきているユーリに手を振り、合図の声を上げていた。
「ケイティ!?」
「そうさ、あたいはここさユーリ!!さぁ、早くこっちに来てあたいを助け―――」
合った目線に喜びが広がり、ケイティは歓喜の表情で叫ぶ。
そのヒーローの名を、愛を込めて。
「た、助けてケイティ!!馬が暴れて、ど、どうしようも・・・うわああぁぁぁ!!?」
ヒーローは死んだ、その悲鳴と共に。
「・・・は?」
では、その愛もそれと共に死ぬだろうか。
「あっはっはっは!!なんだい、あたいを助けに来たんじゃないってのかい!?ははっ、こりゃあたいもけったいな男に惚れちまったもんさね!」
いいや、そうはならない。
何故なら今も、この胸には温かい気持ちで溢れているのだから。
「ま、これも惚れた弱みって奴かねぇ・・・ユーリ、手を伸ばしな!!」
「えぇ!?それって右手、左手!?」
「そんなの、どっちでもいいだろ!?えぇい、まどろっこしい男だねぇ!!そらっ!」
照れ隠しに掻いた頬もいつしか朱に染まって、ケイティはユーリが好き放題暴れさせている馬に飛び乗る。
「どぅ!どぅどぅ・・・ほら、いい子だ」
「おぉ、こんな簡単に・・・凄いな、ケイティ!」
「へへっ、そうだろ?あたいは凄いのさ!どうだい、もっと褒めてもいいだよ?」
ユーリには制御不能だった馬も、ケイティに掛かればあっという間に落ち着いてしまう。
そんな彼女に素直な感心を見せるユーリに、ケイティは鼻を擦ると誇らしそうに笑っていた。
「頭ぁ!ご無事ですかい!?」
「遅い!!ったく、今更のこのこ現れやがって・・・」
「ですが頭、いい事もあったんで?」
「っ!?うっさい、さっさとずらかるよ!!」
そこに、ケイティの部下であるサラトガ山賊団の面々が現れる。
彼女は到着の遅れた彼らを怒鳴りつけるが、彼らはそれも悪い事ばかりではなかったとユーリの背中にしがみついている彼女へと意味深な視線を向けるばかり。
それに今度は拳骨で応えたケイティは、踵を返すとさっさとその場を後にしていく。
「馬鹿な、まんまと逃がすだと?何をやっている、さっさと追い駆けないか!!」
見ればその場に現れたサラトガ山賊団の背後には、彼らの退路を確保するようにシャロンとデズモンドが奮闘している姿があった。
それらの姿を目にすれば、彼らにこのまままんまと逃げられてしまうと分かり、ルーカスは怒りと共にそう叫ぶ。
「ル、ルーカス様大変です!!」
「またか!?えぇい、毎度毎度・・・今度は何だ!!?」
そこに、再び慌てた様子の兵士が飛び込んでくる。
「左翼の部隊が・・・左翼の部隊が壊滅した模様です!!」
「・・・何だと?」
その衝撃の報告に、ルーカスは再び固まる。
そんな彼の額に、一筋の髪がはらりと落ちていた。
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