上 下
92 / 210
第一章 最果ての街キッパゲルラ

決着

しおりを挟む
「止めて」

 そう少女は呟いた。
 聖剣を手にしたユーリは、泣き叫びながら邪龍の尻尾を切り落とす。
 悲痛な、しかしそれでも恐怖を感じさせる邪龍の咆哮が轟く。

「止めて」

 そう少女は嗚咽を漏らす。
 切り落とした尻尾から溢れ出す血を避けようと飛び上がったユーリに、邪龍の牙が迫る。
 ユーリはその頭を踏みつけると、その額に生えていた角を砕いていた。

「止めて」

 そう少女は声を絞り出し涙を流す。
 その力の根源の一つでもあった角が破壊された事によって、邪龍は隙だらけな姿を晒す。
 それにユーリは空中で反対方向へと斬撃を繰り出すと、その反動で邪龍へと向かう。
 そして彼は、邪龍の目を刺し貫いていた。

「止めて」

 そう彼女は懇願する、叶わない願いだと知りながら。
 返り血を避けて邪龍から距離を取ったユーリは、崩壊した「青の広場」へと降り立っていた。

「マスター、そろそろ止めを」
「あ、そんな感じ?それで止めって・・・どうすればいいんだ?こう何か、必殺技とかある感じ?」

 崩壊した街の景色、散々にやり込められボロボロな邪龍、それらとまるで無関係であるかのように傷一つないユーリとエクスが、そう口にする。

「はい。私の名前をお叫びください、マスター」
「んん?どういう事?」
「ですから、私の名前『エクスカリバー』をお叫びくださるようお願いいたします」

 あのような怪物を倒すには必殺技でも必要だろうと尋ねるユーリに、エクスは自信満々な様子で自分の名前を叫んでくれと断言する。
 その意味がちょっとよく分からないとユーリが首を傾げても、エクスは同じ言葉を繰り返すだけだった。

「えーっと、一応理由を聞いても?」
「勿論それは、その方が私のやる気が出るからです」
「あっ、そう。なるほどなー・・・えっ、それだけの理由で!?ていうか、そんなのでいいの!?」

 エクスの訳の分からない発言に、一応その理由を尋ねるユーリ。
 それにエクスは一切の偽りのない声で、ただ私が嬉しいからだと答えていた。

「マスター、もう時間がありません。どうかお早く、ご決断ください」
「えぇ?何か誤魔化そうとしてない?ちょっと無理やりな流れを・・・うおおおぉぉぉ!?何あれぇ!?」

 ユーリの突っ込みにも、エクスは早く早くと急かすばかり。
 それに呆れるユーリが顔を上げれば、そこには邪龍がその腹を開いて翡翠色の宝玉を剥き出しにしては、何やらとんでもない攻撃を繰り出そうとしている所であった。

「マスター!!」
「あぁ!もうどうなっても知らないからな!!」

 邪龍の腹の宝玉、その前には何やら球状の凄まじい力の塊が生まれていた。
 それは段々と肥大してきており、まもなく臨界を迎えようとしているのは明白であった。
 鋭く声を放つエクス、それに促されるようにユーリは見様見真似で聖剣エクスカリバーを肩に担いでいた。

「えぇと、こんな感じいいのか?」
「恰好は何でも構いません、とにかく私の名前を!!」
「えぇ!?さっきは格好が大事だって・・・えぇい、もう何だっていいや!行くぞ、エクス!!」
「はい、マスター!」

 ユーリの構えは、何となくこういう構えが必殺技を放つ恰好っぽいという適当なものだ。
 それを気にするユーリに、エクスはそんなの何でもいいと叫ぶ。
 ようやく迷いを振り切り覚悟を決めたユーリは、彼女の名を呼ぶ。
 それに答えるエクスの声は、今まで一番張り切ったものであった。

「止めて、止めてよ・・・あの子を、サンドラを・・・殺さないでよぉぉぉ!!!」

 そう少女は叫ぶ、その声は届くことはない。

「ウオオオオオオォォォォン!!!」

 邪龍は咆哮と共に、宝玉から生まれた力を解き放つ。
 その圧倒的な力は黒い極光となって、世界を塗りつぶすようだった。

「エクス、カリバァァァァァ!!!」

 そして、それをさらに塗りつぶすような白い光が、全てを切り裂いていく。
 最果ての街キッパゲルラ、その辺境の街を守るために築かれた城壁は高く厚い。
 それをチーズのように切り裂いた斬撃は、その先の世界の果て「グレートウォール」にまで到達する。
 そして世界の果てに聳え、その終端を告げる壁にひびが入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

その無能、実は世界最強の魔法使い 〜無能と蔑まれ、貴族家から追い出されたが、ギフト《転生者》が覚醒して前世の能力が蘇った〜

蒼乃白兎
ファンタジー
15歳になると、人々は女神様からギフトを授かる。  しかし、アルマはギフトを何も授かることは出来ず、実家の伯爵家から無能と蔑まれ、追い出されてしまう。  だが実はアルマはギフトを授からなかった訳では無かった。  アルマは既にギフト《転生者》を所持していたのだ──。  実家から追い出された直後にギフト《転生者》が発動し、アルマは前世の能力を取り戻す。  その能力はあまりにも大きく、アルマは一瞬にして世界最強の魔法使いになってしまった。  なにせアルマはギフト《転生者》の能力を最大限に発揮するために、一度目の人生を全て魔法の探究に捧げていたのだから。  無能と蔑まれた男の大逆転が今、始まる。  アルマは前世で極めた魔法を利用し、実家を超える大貴族へと成り上がっていくのだった。

宮廷錬成師の私は妹に成果を奪われた挙句、『給与泥棒』と罵られ王宮を追放されました ~後になって私の才能に気付いたってもう遅い!

日之影ソラ
ファンタジー
【16日0時に一話以外削除予定しました】 ※小説家になろうにて最新話まで更新中です。 錬成師の家系に生まれた長女アリア・ローレンス。彼女は愛人との間に生まれた子供で、家や周囲の人間からは良くない扱いを受けていた。 それでも錬成師の才能があった彼女は、成果を示せばいずれ認めてもらえるかもしれないという期待の胸に、日々努力を重ねた。しかし、成果を上げても妹に奪われてしまう。成果を横取りする妹にめげず精進を重ね、念願だった宮廷錬成師になって一年が経過する。 宮廷付きになっても扱いは変わらず、成果も相変わらず妹に横取りされる毎日。ついには陛下から『給与泥棒』と罵られ、宮廷を追い出されてしまった。 途方に暮れるアリアだったが、小さい頃からよく素材集めで足を運んだ森で、同じく錬成師を志すユレンという青年と再会する。 「行く当てがないなら、俺の国に来ないか?」 実は隣国の第三王子で、病弱な妹のために錬成術を学んでいたユレン。アリアの事情を知る彼は、密かに彼女のことを心配していた。そんな彼からの要望を受け入れたアリアは、隣国で錬成師としての再スタートを目指す。 これは才能以上に努力家な一人の女の子が、新たな場所で幸せを掴む物語。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...