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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画
エヴァンの戦い 1
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「お・・・お逃げください・・・エヴァン、坊ちゃま」
目の前のゴブリンの心臓を貫き、それを絶命させたアビーはしかし、同時に自らも力尽きるように崩れ落ちてしまっていた。
彼女は地面へと倒れ伏す前に、エヴァンへと逃げるように呼び掛けている。
その理由は、彼女の周辺を見てみれば分かるだろう。
彼女の周辺には夥しい数の魔物達の死体と、それと同じくらい力尽きぐったりと倒れ伏している魔物達の姿があった。
この場で今だ立っているのはエヴァンと、その前で彼を庇うように立っている商人風の男ぐらいだろうか。
「それは・・・出来ぬ!お前を・・・共に戦ってくれた皆を置いていく事など、私には出来ぬのだ!!」
逃げろと願って気を失ったアビーの言葉を受けて、苦しそうな表情を作ったエヴァンはしかし、その場から動こうとはしなかった。
ここには彼女だけではなく、彼を守り闘ったエルトンとケネスも倒れ伏している。
そんな彼らを見捨てて逃げることなど、彼には出来なかった。
「その通りです、勇者様!ここで皆を見捨てて逃げるなど・・・あいつは私が押さえてみせます、その間に止めを!!」
エヴァンの言葉に感動したように震えてみせる商人風の男、カイ・リンデンバウムはそんな状況にありながらもまだ、彼の力を見たがっていた。
こんな絶体絶命な状況にありながらも、エヴァンはまだその大剣を背中に括りつけたままで、それを抜こうとする気配すら見せていない。
そんな彼の姿にカイもいい加減、彼が勇者その人ではないと気づきそうなものであった。
しかし残った魔物が最後のチャンスであれば、とにもかくにもやらねばならないという気持ちの方が勝ってしまったのかもしれない。
命を盾にしててでもその機会を作ってみせると叫んだカイは、そのまま最後に残った魔物へと向かっていく。
その魔物は、もはやその立派な鎧すらボロボロにしてしまった、屈強な体躯を持ったゴブリンであった。
「し、しかし・・・いや、分かったぞキルヒマン!!私だって、それぐらい・・・それぐらい、やってみせる!!」
エヴァンから見れば命を投げ打つ行為に見えるカイの振る舞いに、彼は一瞬躊躇いの表情を浮かべていた。
しかしそれしかやりようのないこの状況に、迷いを振り切った彼は覚悟を決めると力強く頷いている。
彼は早速とばかりに背中の大剣へと手を伸ばすが、やはりそれは中々うまく抜けないようだった。
『動くなよ・・・よし、では適当に抵抗する振りをしろ。いいな』
ゴブリンへと接近したカイは、囁くような小声でそのゴブリンへと命令を下す。
ボロボロの状態のためか、自らの前にいる存在が何者か気づかずに、その得物を振るおうとしていたゴブリンは、その声に稲妻を浴びたかのように動きを止めていた。
そんなゴブリンの動きに満足げに頷いたカイは、素早く彼に組み付くとその動きを拘束するように手を伸ばす。
自らの主人のそんな不可解な命令を耳にしたゴブリンは、戸惑いながらも何とかその願いを叶えようと、もぞもぞとその四肢を動かしていた。
「今です、勇者様!!私に構わず、その剣を・・・聖剣アストライアをお振るいください!!!」
ゴブリンを拘束したカイは、いかにも必死でそれを押さえているという雰囲気を醸し出しながらエヴァンへと呼び掛けている。
彼は涙すら浮かべて、自分の身体ごと切り捨ててくれて構わないと叫んでいたが、果たしてそれは本当だろうか。
『目の前の少年が切りかかってきたら、私を振り払え。いいな、動きがあったらすぐに振り払うんだぞ。出来るだけ遠くにだ、分かったな?』
その命を犠牲にする事すら厭わないと叫んだカイは、その口で自らの身の安全を最優先にするように囁いている。
カイのその真剣そのものな口調に、それが絶対に遵守しなければならない命令なのは嫌でも理解出来るだろう。
カイから拘束されている振りをしているゴブリンも、そんな彼の口調に激しく頭を揺すっては了承を示していた。
「キルヒマン、そうまでして・・・くっ、分かったのだ!!待っていろ、今行くからな!!」
そんなやり取りが行われているなど露知らないエヴァンは、カイが叫んだ言葉を額面どおりに受け取っては、感動に言葉を詰まらせてしまっている。
彼はゴブリンを必死に拘束しているように見えるカイに向かって指を差すと、すぐにそちらに向かうと宣言する。
そして彼は言葉通り、その背中の大剣を掴んでは走り出そうとしていた。
『よし、今だ!振り払え!!私を思いっきり弾き飛ばすんだ!!』
走り出そうとするエヴァンの姿に攻撃の兆しを感じ取ったカイは、自らが拘束するゴブリンの耳元へと口を近づけると、今すぐ振り払うように命令を下す。
『っ!がぁぁぁっ!!!』
「くっ、これはっ!?・・・うわぁぁっ!!?」
カイの命令に弾かれたように顔を上げたゴブリンは、雄叫びを上げると激しく四肢を暴れさせる。
その圧力には思わずカイも弾かれてしまっていたが、しかしそれは大きく吹き飛ばされるほどではない。
安全圏には程遠い場所に弾かれたカイは、その場に踏み止まった一瞬にわざとらしい悲鳴を上げると、自らの足で大きく飛び退いてみせていたのだった。
「さて、これでようやくお目に・・・あれ?」
自らダイブした地面は、危険な要素もなく大して痛くもない。
そのためすぐに体勢を立て直すことが出来たカイは、地面へと倒れこんだ姿勢のまま顔を上げると、エヴァンがその剣を振るう場面をその目にしようとしていた。
「ちょ・・・抜けない。な、何故なのだ!?ベルトか、ベルトがいけないのか?ちょっと待つのだ、そこのゴブリン!!今ベルトを緩めるから・・・あれ、ここを外せば・・・あれ?あれれ?」
しかしその目に映ったのは、今だにその背中の大剣を抜くことが出来ず、戸惑っているエヴァン姿だけであった。
大剣を抜き放っては駆け出そうとしていたエヴァンは、その最初の一歩で躓いてしまったことで、その場から一歩も進んではいない。
彼はそれがうまく抜けないのは、それを背中へと固定しているベルトが悪いのだと考え、なにやら腰の方に手を回してはカチャカチャと弄り始めていた。
目の前のゴブリンの心臓を貫き、それを絶命させたアビーはしかし、同時に自らも力尽きるように崩れ落ちてしまっていた。
彼女は地面へと倒れ伏す前に、エヴァンへと逃げるように呼び掛けている。
その理由は、彼女の周辺を見てみれば分かるだろう。
彼女の周辺には夥しい数の魔物達の死体と、それと同じくらい力尽きぐったりと倒れ伏している魔物達の姿があった。
この場で今だ立っているのはエヴァンと、その前で彼を庇うように立っている商人風の男ぐらいだろうか。
「それは・・・出来ぬ!お前を・・・共に戦ってくれた皆を置いていく事など、私には出来ぬのだ!!」
逃げろと願って気を失ったアビーの言葉を受けて、苦しそうな表情を作ったエヴァンはしかし、その場から動こうとはしなかった。
ここには彼女だけではなく、彼を守り闘ったエルトンとケネスも倒れ伏している。
そんな彼らを見捨てて逃げることなど、彼には出来なかった。
「その通りです、勇者様!ここで皆を見捨てて逃げるなど・・・あいつは私が押さえてみせます、その間に止めを!!」
エヴァンの言葉に感動したように震えてみせる商人風の男、カイ・リンデンバウムはそんな状況にありながらもまだ、彼の力を見たがっていた。
こんな絶体絶命な状況にありながらも、エヴァンはまだその大剣を背中に括りつけたままで、それを抜こうとする気配すら見せていない。
そんな彼の姿にカイもいい加減、彼が勇者その人ではないと気づきそうなものであった。
しかし残った魔物が最後のチャンスであれば、とにもかくにもやらねばならないという気持ちの方が勝ってしまったのかもしれない。
命を盾にしててでもその機会を作ってみせると叫んだカイは、そのまま最後に残った魔物へと向かっていく。
その魔物は、もはやその立派な鎧すらボロボロにしてしまった、屈強な体躯を持ったゴブリンであった。
「し、しかし・・・いや、分かったぞキルヒマン!!私だって、それぐらい・・・それぐらい、やってみせる!!」
エヴァンから見れば命を投げ打つ行為に見えるカイの振る舞いに、彼は一瞬躊躇いの表情を浮かべていた。
しかしそれしかやりようのないこの状況に、迷いを振り切った彼は覚悟を決めると力強く頷いている。
彼は早速とばかりに背中の大剣へと手を伸ばすが、やはりそれは中々うまく抜けないようだった。
『動くなよ・・・よし、では適当に抵抗する振りをしろ。いいな』
ゴブリンへと接近したカイは、囁くような小声でそのゴブリンへと命令を下す。
ボロボロの状態のためか、自らの前にいる存在が何者か気づかずに、その得物を振るおうとしていたゴブリンは、その声に稲妻を浴びたかのように動きを止めていた。
そんなゴブリンの動きに満足げに頷いたカイは、素早く彼に組み付くとその動きを拘束するように手を伸ばす。
自らの主人のそんな不可解な命令を耳にしたゴブリンは、戸惑いながらも何とかその願いを叶えようと、もぞもぞとその四肢を動かしていた。
「今です、勇者様!!私に構わず、その剣を・・・聖剣アストライアをお振るいください!!!」
ゴブリンを拘束したカイは、いかにも必死でそれを押さえているという雰囲気を醸し出しながらエヴァンへと呼び掛けている。
彼は涙すら浮かべて、自分の身体ごと切り捨ててくれて構わないと叫んでいたが、果たしてそれは本当だろうか。
『目の前の少年が切りかかってきたら、私を振り払え。いいな、動きがあったらすぐに振り払うんだぞ。出来るだけ遠くにだ、分かったな?』
その命を犠牲にする事すら厭わないと叫んだカイは、その口で自らの身の安全を最優先にするように囁いている。
カイのその真剣そのものな口調に、それが絶対に遵守しなければならない命令なのは嫌でも理解出来るだろう。
カイから拘束されている振りをしているゴブリンも、そんな彼の口調に激しく頭を揺すっては了承を示していた。
「キルヒマン、そうまでして・・・くっ、分かったのだ!!待っていろ、今行くからな!!」
そんなやり取りが行われているなど露知らないエヴァンは、カイが叫んだ言葉を額面どおりに受け取っては、感動に言葉を詰まらせてしまっている。
彼はゴブリンを必死に拘束しているように見えるカイに向かって指を差すと、すぐにそちらに向かうと宣言する。
そして彼は言葉通り、その背中の大剣を掴んでは走り出そうとしていた。
『よし、今だ!振り払え!!私を思いっきり弾き飛ばすんだ!!』
走り出そうとするエヴァンの姿に攻撃の兆しを感じ取ったカイは、自らが拘束するゴブリンの耳元へと口を近づけると、今すぐ振り払うように命令を下す。
『っ!がぁぁぁっ!!!』
「くっ、これはっ!?・・・うわぁぁっ!!?」
カイの命令に弾かれたように顔を上げたゴブリンは、雄叫びを上げると激しく四肢を暴れさせる。
その圧力には思わずカイも弾かれてしまっていたが、しかしそれは大きく吹き飛ばされるほどではない。
安全圏には程遠い場所に弾かれたカイは、その場に踏み止まった一瞬にわざとらしい悲鳴を上げると、自らの足で大きく飛び退いてみせていたのだった。
「さて、これでようやくお目に・・・あれ?」
自らダイブした地面は、危険な要素もなく大して痛くもない。
そのためすぐに体勢を立て直すことが出来たカイは、地面へと倒れこんだ姿勢のまま顔を上げると、エヴァンがその剣を振るう場面をその目にしようとしていた。
「ちょ・・・抜けない。な、何故なのだ!?ベルトか、ベルトがいけないのか?ちょっと待つのだ、そこのゴブリン!!今ベルトを緩めるから・・・あれ、ここを外せば・・・あれ?あれれ?」
しかしその目に映ったのは、今だにその背中の大剣を抜くことが出来ず、戸惑っているエヴァン姿だけであった。
大剣を抜き放っては駆け出そうとしていたエヴァンは、その最初の一歩で躓いてしまったことで、その場から一歩も進んではいない。
彼はそれがうまく抜けないのは、それを背中へと固定しているベルトが悪いのだと考え、なにやら腰の方に手を回してはカチャカチャと弄り始めていた。
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