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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

食い違う思惑 2

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「た、助かったぞ見知らぬ少女よ!礼を言う!それにしても、凄い腕前だな!アーネット達と知り合いなのか?名は何と言うのだ?」
「ボク?ボクはリタだよ!リタ・エイ―――」

 危ない所を助けられた興奮からか、矢継ぎ早に言葉を続けるエヴァンは、リタへとその歩みを進めている。
 彼から賞賛の言葉を浴びせられたリタは、その表情をさらにニヤニヤと緩ませると、嬉しそうに自らの名を名乗ろうとしていた。
 しかしその名前と、勇者という存在は確実に紐づいてしまっている。
 そしてそれを聞かせてはならない者は、まさしくその目の前にいる少年だったのではなかろうか。

「し、知り合いの冒険者のリタですよ!僕達が危ない所に遭遇したので、助けに来てくれたんだよな?な、な?」
「もう、よかねぇか?まぁ、お前がそうするなら・・・その通りだぜ、坊ちゃん。リタとはこの前知り合って、一緒にここにこねぇかって話をしてたんだよ。ま、結局その時は流れちまったんだがな」

 リタという名前だけなら、それは良くある名前だろう。
 しかしリタ・エインズリーというフルネームと、その真っ赤な髪は余りに特徴的過ぎる。
 そのためそれを口にされないようにと、ケネスは彼女の口を慌てて塞いでいた。
 そんな彼の振る舞いに、エルトンは呆れた様子をみせていたが、相棒がそんなにも必死に頑張るならと、それに付き合う姿勢をみせていた。

「そうなのか?しかし、ガスリーは一体何をしているのだ?」
「その、これはですね・・・こう、そうだ!僕達は向こうで魔物達の相手をしているので、レイモンド様は今の内にお逃げください!!」

 エルトン達の話に納得を示したエヴァンも、リタを後ろから羽交い絞めにしてその口を塞いでいるケネスの振る舞いについては、疑問に感じていたようだ。
 それに対して都合のいい言い訳を思いつかなかったケネスは、とにかくエヴァンから離れようとリタを引き摺ってはその場を離れようとしていた。

「そうなのか?それにしても、それでは動きにくいと思うのだが・・・」
「ガスリー様方は、こういった事態を専門とされている方々でございます。そうした方の振る舞いに、坊ちゃまが口を挟むのはいかがかと」
「そ、そうだな!確かに、アビーの言う通りなのだ。ガスリーのあの振る舞いにも、きっと深い意味があるのだな・・・」

 エヴァンが抱いた当然の疑問も、アビーがもっともらしい口調で否定すれば、それが筋が通っているようにも聞こえてしまう。
 アビーの苦言によって自らの考えの方が間違っていると思わされたエヴァンは、それに納得してしまうと引き摺られていくリタへと目を向ける。
 彼女はまだエヴァンに言い足りない事があったのか、その場に足をついては踏ん張っており、その引き摺られるスピードは遅々としたものであった。

「ちょっと、そこのあなた!うちのリタに何をしているんですか!!今すぐその手を離しなさい!!」

 リタに蹴散らされ、その力に意気消沈してしまっている魔物達は、その脅威を失ってしまっている。
 そのため彼女を追い掛けて走っていたマーカスが、その間を悠々と通り抜ける事も出来ていた。
 彼はそれらを通り抜けた先で、ようやく合流できたリタが見知らぬ男に羽交い絞めにされている様を目撃する。
 それを目にした彼が激怒し、ケネスへと詰め寄るのは当然の道理といえるだろう。

「すいません、すいません!でも、もう少しだけ!もう少しだけなんです!!もう少しだけ離れたら、解放しますから!!」
「何を言ってるんですか、あなたは!!いいから、今すぐその手を離しなさい!!」
「ま、まぁまぁ。一旦落ち着こうぜ、神官の兄ちゃんよ」

 マーカスに詰め寄られてもケネスがその手を離さないのは、まだ近くにエヴァンがいるからだろう。
 そんな彼らの事情など知りもしないマーカスは、その訳の分からない言い草に余計怒りを募らせると、一層激しく彼へと掴みかかっていく。
 そんなマーカスの事を何とかエルトンが宥めようとしているが、どう考えてもこちらが悪い状況に、彼もあまり強くは出られないようだった。

『何だ?何か揉めてるな・・・』

 勇者への襲撃を渋るレクスとニックに、彼らへの説得を続けていたカイは、何やら揉めている様子のエヴァン達に不思議そうな表情をみせている。
 彼にはそれが、勇者という存在を巡るややこしい関係が作り出したいざこざだと、理解する事は出来ないだろう。
 彼の背後に控える二人のゴブリンも、そんな彼らのやり取りを理解できないと不思議そうな表情で眺めていた。

『何だ、余計な事をするなと文句を言っているのか?確かにそれは私からも言ってやりたいが・・・ん、あれは?』

 勇者であるエヴァンの力を見てみたいと願うカイは、ケネス達の行動を同じ理由からだと推測し勝手に納得している。
 そうであるなら自分もそれに加わりたいと動き始めた彼は、視界の端に違和感を感じ、そちらへと目を向ける。
 そこには、今にも起動しようとしている罠の姿が映っていた。
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