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勇者がダンジョンにやってくる!
臨時応援職員アシュリー・コープは既に限界 1
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村の広間になっている場所に、ポツンと建っている建物はみすぼらしい。
それがこの村にある、冒険者ギルドの出張所だと聞いて、訪れる者はどう思うだろうか。
多くの人は、こんな辺境の村ではそんなものだと納得するだろう。
しかしそんなボロッちい建物に、こんなにも人がごったかえしている今の姿を見れば、驚きと共にもっとましな建物が必要だと感じるのではないか。
そう感じるのが自然なほど、その建物に対してそこに訪れる冒険者の数は増えてしまっていた。
「そうです、そこに記入してください。それが終わればこちらを差し上げますので。え?いいからさっさと寄越せ?そうは言われましても、規則ですので・・・さっさと書けや、このボケがぁ」
狭くみすぼらしい建物には、中に人を入れて対応するスペースなどない。
そのため受付となっている窓口で、訪れる冒険者へと対応していた。
そこで柄の悪い冒険者に対して、書類へと何かを記入させようとさせていた受付の女性は、その冒険者からの無礼な要求に対して、小声で悪態を吐いている。
その声は小さく、目の前の男には聞こえていないだろう。
それには窓口の前に張り出している庇によってできる影が、彼女の表情を覆い隠しているのも一役買っていたようだった。
「アシュリーさんや、これで良かったのかのぉ?」
「ちょーっと待ってください、ローチさん。これが済んだらすぐに・・・」
笑顔の端をひくつかしている女性へと声を掛けてきたのは、元々この出張所に駐在している老人だろう。
ローチと呼ばれたその老人は、アシュリーと呼ばれた女性へと書類を差し出しては不安そうな表情を見せている。
人手の足りないこの出張所へと応援要員として借り出されたアシュリーからすれば、彼は形式的には上司であるし、そんな表情の老人の頼みならば聞いてやりたいが、彼女は彼女で手一杯であった。
「しかしのぉ・・・もう三度も書き直してもらっておるしのぉ」
「えぇ、そ、そうなんですか!?わ、分かりました!私がそっちに・・・あぁ?やっぱり書かない?いいから早く書けって言ってんでしょ!!」
アシュリーに後回しにされた事でしょんぼりと眉を下げているローチは、その書類へと目を落としてはしみじみと溜め息をついている。
彼が溜め息と共に口にしたその言葉は、彼女にも聞き捨てならないものだ。
見れば彼が対応しているもう一つの窓口の前では、イライラを納めきれない様子の冒険者が、激しく指を鳴らしている。
その様を見れば、彼女もそちらに対応せざるを得ない。
そんな時に無茶な我が侭を言われれば、つい言葉が荒くなってしまっても仕方のないことであろう。
「あの・・・アシュリーさん、私もそっちを手伝いましょうか?」
「いいのいいの!アイリスちゃんは、そっちに専念してて!!てゆーか、お願い。絶対そこから離れないで、いいわね」
「は、はぁ・・・分かりました」
アシュリーの惨状を目にしてか、出張所の軒先でなにやら作業をしていた金髪の少女、アイリスが彼女へと心配そうに声を掛けてくる。
彼女の申し出はアシュリーからしても、願ったり叶ったりのものであっただろう。
しかし彼女はそれをはっきりと拒絶し、アイリスにそこから離れないように強く願っていた。
それもその筈だろう、アイリスがその場で行っているのは、彼女の技能を生かした治療ボランティアだ。
ただでさえ貴重な回復魔法の使い手であり、しかもあんなにも可憐な少女であるアイリスの存在は、その場にいるだけで周りの雰囲気を和ませている。
そんな彼女の治療を無償で受けられるとあれば、荒くれ者だらけの冒険者も少しは穏やかな振る舞いをするというものだ。
つまり彼女の存在はパンク寸前の出張所の、最後の安全弁ともいえる存在であった。
そんな彼女に、容易にそこを動いてもらっては困るのだ。
「ほ、ほら、お客さんよ!」
「あ、は、はい!その・・・いかがなされました?」
アシュリーから強く促されても、まだ心配そうにアイリスはこちらへと視線を向けている。
彼女の優しい性格は、時にそうした融通の利かなさを垣間見せるが、今回は近づいてくる客の姿にそちらへと注意を向かせる事で対処する事に成功していた。
アシュリーの声に待機用の簡素な椅子から立ち上がったアイリスは、慌てて立て掛けてあった杖を握り、近づいてくる人影へと声を掛けている。
その視線の先には、彼女とさほど年頃の変わらない金髪と黒髪の少女の姿があった。
「ここで治療してもらえるって聞いたんだけど・・・本当なの?」
「あ、はい。本当ですよ。私が治療を担当している、アイリス・リリーホワイトです」
「ふーん、本当だったんだ・・・あ、私はリディアーヌ・アンリ。こっちは妹のレナエル、私の事はリディって呼んでね」
教会以外ではほとんど見かけるの事のない回復魔法の使い手が、こんな所で無償で治療を行っている。
そんな話を耳にしてここまで足を運んだリディであったが、その目は半信半疑であった。
彼女の疑いの視線を向けられても、そんな状況も慣れているのかアイリスは動じる事なく、軽く自己紹介しては頭を下げている。
そんな彼女の振る舞いになにやら呟きを漏らしたリディは、彼女の事を物珍しそうにジロジロ眺めると、自らも軽く自己紹介を返していた。
「はい、リディさんですね。それで・・・その、リディさん。お二人は怪我をしているように見えないのですが・・・一体誰を治療すればよろしいのでしょうか?」
「え・・・?ちょっと、父さん!そんな所に隠れてないで、さっさとこっちに来なさい!!治療して貰うんでしょ!!」
リディのはきはきとした物言いに、笑顔を浮かべて彼女の愛称を受け入れたアイリスは、健康そうな二人の姿に戸惑うように視線を彷徨わせては、誰を治療すればいいのかと尋ねていた。
その言葉に虚を突かれたのは、リディも同じだ。
彼女はその大きな瞳を幾度も瞬かせると後ろへと振り返る、しかしそこにいる筈の父親の姿はどこにも見つからなかった。
良く見てみれば、彼女の父親は遠くの物陰に隠れており、それを見つけた彼女は呆れと怒りの混じった大声で彼へと呼び掛けていた。
「こんな時まで人見知りして、どーすんのよ!大体父さんが怪我してるのを隠してるから、手に入れたポーションを全部売っちゃったんでしょ!!」
「そ、その・・・すまない」
娘からの強い呼び掛けを受けて、彼女達の父親であるロドルフは物陰から飛び出しては、トコトコとこちらへと歩み寄ってくる。
その速度は見た目よりも素早いものであったが、彼はどこか苦しそうにわき腹を押さえているようだった。
それがこの村にある、冒険者ギルドの出張所だと聞いて、訪れる者はどう思うだろうか。
多くの人は、こんな辺境の村ではそんなものだと納得するだろう。
しかしそんなボロッちい建物に、こんなにも人がごったかえしている今の姿を見れば、驚きと共にもっとましな建物が必要だと感じるのではないか。
そう感じるのが自然なほど、その建物に対してそこに訪れる冒険者の数は増えてしまっていた。
「そうです、そこに記入してください。それが終わればこちらを差し上げますので。え?いいからさっさと寄越せ?そうは言われましても、規則ですので・・・さっさと書けや、このボケがぁ」
狭くみすぼらしい建物には、中に人を入れて対応するスペースなどない。
そのため受付となっている窓口で、訪れる冒険者へと対応していた。
そこで柄の悪い冒険者に対して、書類へと何かを記入させようとさせていた受付の女性は、その冒険者からの無礼な要求に対して、小声で悪態を吐いている。
その声は小さく、目の前の男には聞こえていないだろう。
それには窓口の前に張り出している庇によってできる影が、彼女の表情を覆い隠しているのも一役買っていたようだった。
「アシュリーさんや、これで良かったのかのぉ?」
「ちょーっと待ってください、ローチさん。これが済んだらすぐに・・・」
笑顔の端をひくつかしている女性へと声を掛けてきたのは、元々この出張所に駐在している老人だろう。
ローチと呼ばれたその老人は、アシュリーと呼ばれた女性へと書類を差し出しては不安そうな表情を見せている。
人手の足りないこの出張所へと応援要員として借り出されたアシュリーからすれば、彼は形式的には上司であるし、そんな表情の老人の頼みならば聞いてやりたいが、彼女は彼女で手一杯であった。
「しかしのぉ・・・もう三度も書き直してもらっておるしのぉ」
「えぇ、そ、そうなんですか!?わ、分かりました!私がそっちに・・・あぁ?やっぱり書かない?いいから早く書けって言ってんでしょ!!」
アシュリーに後回しにされた事でしょんぼりと眉を下げているローチは、その書類へと目を落としてはしみじみと溜め息をついている。
彼が溜め息と共に口にしたその言葉は、彼女にも聞き捨てならないものだ。
見れば彼が対応しているもう一つの窓口の前では、イライラを納めきれない様子の冒険者が、激しく指を鳴らしている。
その様を見れば、彼女もそちらに対応せざるを得ない。
そんな時に無茶な我が侭を言われれば、つい言葉が荒くなってしまっても仕方のないことであろう。
「あの・・・アシュリーさん、私もそっちを手伝いましょうか?」
「いいのいいの!アイリスちゃんは、そっちに専念してて!!てゆーか、お願い。絶対そこから離れないで、いいわね」
「は、はぁ・・・分かりました」
アシュリーの惨状を目にしてか、出張所の軒先でなにやら作業をしていた金髪の少女、アイリスが彼女へと心配そうに声を掛けてくる。
彼女の申し出はアシュリーからしても、願ったり叶ったりのものであっただろう。
しかし彼女はそれをはっきりと拒絶し、アイリスにそこから離れないように強く願っていた。
それもその筈だろう、アイリスがその場で行っているのは、彼女の技能を生かした治療ボランティアだ。
ただでさえ貴重な回復魔法の使い手であり、しかもあんなにも可憐な少女であるアイリスの存在は、その場にいるだけで周りの雰囲気を和ませている。
そんな彼女の治療を無償で受けられるとあれば、荒くれ者だらけの冒険者も少しは穏やかな振る舞いをするというものだ。
つまり彼女の存在はパンク寸前の出張所の、最後の安全弁ともいえる存在であった。
そんな彼女に、容易にそこを動いてもらっては困るのだ。
「ほ、ほら、お客さんよ!」
「あ、は、はい!その・・・いかがなされました?」
アシュリーから強く促されても、まだ心配そうにアイリスはこちらへと視線を向けている。
彼女の優しい性格は、時にそうした融通の利かなさを垣間見せるが、今回は近づいてくる客の姿にそちらへと注意を向かせる事で対処する事に成功していた。
アシュリーの声に待機用の簡素な椅子から立ち上がったアイリスは、慌てて立て掛けてあった杖を握り、近づいてくる人影へと声を掛けている。
その視線の先には、彼女とさほど年頃の変わらない金髪と黒髪の少女の姿があった。
「ここで治療してもらえるって聞いたんだけど・・・本当なの?」
「あ、はい。本当ですよ。私が治療を担当している、アイリス・リリーホワイトです」
「ふーん、本当だったんだ・・・あ、私はリディアーヌ・アンリ。こっちは妹のレナエル、私の事はリディって呼んでね」
教会以外ではほとんど見かけるの事のない回復魔法の使い手が、こんな所で無償で治療を行っている。
そんな話を耳にしてここまで足を運んだリディであったが、その目は半信半疑であった。
彼女の疑いの視線を向けられても、そんな状況も慣れているのかアイリスは動じる事なく、軽く自己紹介しては頭を下げている。
そんな彼女の振る舞いになにやら呟きを漏らしたリディは、彼女の事を物珍しそうにジロジロ眺めると、自らも軽く自己紹介を返していた。
「はい、リディさんですね。それで・・・その、リディさん。お二人は怪我をしているように見えないのですが・・・一体誰を治療すればよろしいのでしょうか?」
「え・・・?ちょっと、父さん!そんな所に隠れてないで、さっさとこっちに来なさい!!治療して貰うんでしょ!!」
リディのはきはきとした物言いに、笑顔を浮かべて彼女の愛称を受け入れたアイリスは、健康そうな二人の姿に戸惑うように視線を彷徨わせては、誰を治療すればいいのかと尋ねていた。
その言葉に虚を突かれたのは、リディも同じだ。
彼女はその大きな瞳を幾度も瞬かせると後ろへと振り返る、しかしそこにいる筈の父親の姿はどこにも見つからなかった。
良く見てみれば、彼女の父親は遠くの物陰に隠れており、それを見つけた彼女は呆れと怒りの混じった大声で彼へと呼び掛けていた。
「こんな時まで人見知りして、どーすんのよ!大体父さんが怪我してるのを隠してるから、手に入れたポーションを全部売っちゃったんでしょ!!」
「そ、その・・・すまない」
娘からの強い呼び掛けを受けて、彼女達の父親であるロドルフは物陰から飛び出しては、トコトコとこちらへと歩み寄ってくる。
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