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勇者がダンジョンにやってくる!

大きな変貌を遂げたダンジョン 4

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「確か・・・『冒険者の友』、だろう?」
「左様。その評判こそが重要なのでございます。勝勢にある者達が突然引いたという不自然な行為も、『冒険者の友』であるのならばおかしくはない。そう思わせるだけのものが、その評判にはありますれば・・・多少の無理や無茶も、通るというものでございます」
「なるほど・・・そういう事なのか」

 ダミアンの説明に納得を示したカイも、果たしてその意味をどれほど理解しているだろうか。
 彼が理解したのは、取り合えず冒険者の友という評判は強い、という事実だけであった。

「いや、よく分かったよダミアン。今後も何かあったら、また助言を頼む」
「この老骨が役に立つならば、なんなりと」

 うんうんと深く頷いては、分かった振りを強調しているカイはダミアンを労う言葉を掛けていた。
 クリス達の来訪以来、折を見てはダンジョンの操作方法を学ぼうとしていたダミアンはしかし、その身に馴染まないやり方に、いつまで経っても上達する兆しをみせる事はなかった。
 そんな彼は専ら、カイの相談役としてこの場に控える事になる。
 それは何も、この老人を哀れんで与えられた役割ではない。
 多くの冒険者が訪れるようになった事で起こるようになった問題は多岐に渡り、その多くはカイ達の手には余るものであった。
 そんな時こそ、ダミアンの長年培ってきた知恵が生きてくるというものだろう。
 それは特に問題は多く発見しはするが、感覚で動いてしまいがちなフィアナとのコンビでその力を発揮していた。

「じぃじ、じぃじ!助けて助けてー!!」
「おぉ、どうしたんじゃフィアナよ?ほれ、じぃじに話してみなさい」

 ダミアンとカイが話している間にも、ヴェロニカと共に騒ぎながらダンジョンの管理作業を行っていフィアナは、自分ではもはやどうしようもない問題にぶつかってダミアンへと助けを求めてくる。
 飛び込んできた素早さと同じぐらいの速さでダミアンを抱きかかえたフィアナは、そのままモニターの前まで彼を運んでいってしまう。
 彼女のそんな乱暴な振る舞いにも、ダミアンの目じりは下がっていく一方だ。
 そのニコニコとした表情はまさに、孫に頼られて嬉しくて堪らないお爺ちゃんそのものであった。

「やれやれ・・・どんな知恵者も、あれでは形無しだな」

 ダミアンの見識の深さに圧倒されていたカイは、一瞬の内に豹変してしまった彼の態度に苦笑を漏らしていた。
 フィアナに抱えられたダミアンは、彼女と話しながら何やら試行錯誤を繰り返している。
 その横では、ヴェロニカがダンジョン内にいる誰かと会話しているようだった。

「ふぁぁぁ~・・・っと、危ない危ない!危うく落ちてしまう所だった。あぁ、でも何か・・・平和だなぁ」

 熱心に働く部下達の姿を眺めながら、思わずカイはまどろみへと落ちそうになってしまう。
 ガクンと落ちた顎を上げて、首を左右に振っては慌てて眠気を払っているカイはしかし、目の前で繰り広げられている自らが望んだ光景に、深い満足感を得てしまっていた。
 胸を満たすこの満足感は暖かく、どこか眠気を誘ってくる。
 そうしてカイ・リンデンバウムは、再びその目蓋を閉じ、深い眠りへと落ちていってしまう。
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