上 下
142 / 308
初めてのお客様

シーサーペントとの激闘 7

しおりを挟む
「ハロルド!!」
「おおっ、凄ぇ!やったな、ハロルド!!」

 大きく肉を抉られたシーサーペントは一度身体をぐらつかせると、そのまま湖へと沈んでいく。
 その姿を目にして歓声を上げたアイリスとクリスの二人は、地面へと倒れ付してしまったハロルドに駆け寄っていく。
 意識を失っているように見えるハロルドに、心配そうに声を掛けているアイリスと違い、クリスは彼が振るった力に歓声を上げて喜びを示していた。

『シーサーペントのブレスを弾き飛ばした?そんな魔力を人間の・・・しかも子供が?そんな事あり得るのか・・・?』

 ハロルドを助けるために駆け寄っていたカイは、その場で立ち尽くしてしまっているのは、何もその必要がなくなったからではない。
 彼はハロルドが振るった力の異常さに慄き、戸惑ってしまっていたのだ。
 人間は種族的にあまり強い魔力を持たず、その魔法的な素養も貧弱な種族な筈だ。
 勿論それでもごく一部に、強力な術者が生まれることもある。
 しかしそれは往々にして、長い年月を経て研鑽を重ねてきた者が至る極致である筈だ。
 ハロルドが見せた力は、それとも明らかに違う。
 それはまるで、一部の魔物や魔族といわれる生物が持つ、生まれながらの力のようであった。

『まぁ、それは後でもいいか。今はとにかくハロルドが助かったことが・・・不味いっ!?』

 ハロルドの異常な力は気になる所であったが、今は彼が無事であったことが第一だ。
 止めていた足を進め、彼へと歩み寄ろうとしていたカイは、どこかから危険な気配が漂ってくるのを感じ取っていた。
 その気配は、シーサーペントがいた方向からだ。
 そちらに視線を向ければ、そこには深手を負わされたことで怒り狂っているシーサーペントが、大口を開けてハロルド達に狙いを澄ましている所であった。

『お前達、早く逃げろ!!そこは危険だ!!』
「スライムさん?一体、何を・・・?」

 意識を失い地面へと倒れ付しているハロルドを治療しているアイリスは、カイの大声に不思議そうな表情で振り返っていた。
 彼女はカイの声には反応しているが、通じない言葉に当然その内容は理解していない。
 カイは強い焦燥感をその顔に浮かべて駆け寄っているが、あまりの種族の違いに彼女がそれを読み解くことは出来ないだろう。

「・・・アイ、リス?ここ、は・・・」
「ハロルド!良かった、気がついたのね!」
「おおっ、ようやくか!大丈夫か、ハロルド?」

 アイリスの回復魔法に、ハロルドはその意識をゆっくりと取り戻す。
 その彼の様子にアイリスは歓声を上げ、クリスも彼の顔を覗きこんでは、どこか問題はないかと気遣っていた。

「っ!?不味い!早く・・・ここから、離れるんだ!」

 混乱した様子で周りへと目をやっていたハロルドは、それにいち早く気がついて警戒の声を上げる。
 しかし、それはもはや遅すぎる。
 シーサーペントはその口腔内に、ブレスの予兆となる眩い光を溢れさせ始め、彼らを一掃しようとその鎌首を擡げていた。

「ハロルド、何を・・・?」
「おいおい、もう少し休んでた方がいいだろ?」
「いいから早く!!ここから離れるんだ!!」

 目覚めたばかりのハロルドの態度に、アイリスとクリスの二人は不思議そうに戸惑うばかり。
 彼は一刻も早く二人を避難させようと言動を強くするが、その振る舞いが寧ろ彼が錯乱していると二人に思わせてしまっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜

フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」  貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。  それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。  しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。  《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。  アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。  スローライフという夢を目指して――。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

処理中です...