ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

初めてのお客様

カイ・リンデンバウムの擬態術 １

　ハロルド達が去った通路の終りに、細すぎる人影の姿があった。
　彼はそこから部屋の中へと顔を覗かせると、頻りにハロルド達の様子を気にしていた。

「・・・行ったか？よし、今の内に」

　通路の端から顔を覗かせるが骸骨、カイはハロルド達が部屋の奥へと向かって足を進んでいくのを目にすると、その隙に先に進んでしまおうと部屋の中へとその身を躍らせる。
　しかし気配を消して素早く動く術を身につけておらず、さらに衝撃を吸収する肉もついていないスケルトンの身体では音を立てずに動くのは難しく、彼は激しい足音を立ててしまう。
　それに気づいたハロルドとアイリスがこちらを振り返るのを目にして、彼は慌てて通路へと身を翻していた。

「あ、危ねぇ～・・・これは、ちょっと向こうに行くのは無理そうだな」

　慌てて通路へと戻り気配を消して耳を澄ませば、ハロルド達がこちらへと近づいてくる気配はないと知ることが出来る。
　その様子に安堵の息を漏らしたカイは、彼らがもう少し遠くに行くまでここを通るのは不可能だと、覗かせた顔で彼らの姿を見定めていた。

「いや、この目立つ姿じゃ無理か。こんな骨だけの身体じゃ忍び足も難しいし。何か目立たない奴はっと・・・」

　ハロルド達はこの部屋の奥へと向かっているようだったが、彼らがいつこちらへと注意を向けるかは分からない。
　その時、この目立つ姿で突っ立っていれば、まず間違いなく彼らに敵と認識され袋叩きにあってしまうだろう。
　カイの戦闘能力を考えれば、それは即ち死を意味する。
　そのため彼はなるべくこの場に溶け込み、目立たない姿へと変身するために頭を悩ませていた。

「っ、冷た！？えっ、何？水滴か？天井から落ちてきてんのか・・・そういえば、部屋の中に水溜りがあったな」

　骨だけの身体も、頭蓋骨だけは肉ある者とも変わらない。
　頭を叩いた水滴の冷たさに震えたカイは、それの出所を求めて上へと視線をやっていた。
　そこには天井から滴り落ちている水滴が幾つも存在し、思えば先ほど目にした部屋の中にも、幾つもの水溜りが存在していた。

「水溜り、か・・・そうだ！あれならいけるんじゃないか？あれなら水溜りにも・・・」

　天井から滴り落ちる水滴と水溜りの存在に何かを閃いたカイは、すぐさま思いついた姿へとその身体を変身させている。
　それはスケルトンの身体よりも明らかに小さく、そして特徴というものが存在しない。
　というよりも決まった形のないそれは、一度地面へと広がると、それなりの大きさの楕円状へと姿を変えていた。