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初めてのお客様
カイ・リンデンバウムの能力
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モニターを見詰める三人の間には、重苦しい空気が漂っていた。
ショックを受けたようにモニターを見詰めたまま凍りついているカイは、その沈黙を破ろうとはしない。
ヴェロニカは何とか彼に声を掛けようと口を開くが、そのたびに言葉が見つからず、口を開いたり閉じたりを繰り返していた。
「いやはや、見事にスルーされてしまいましたなぁ」
「ダ、ダミアン!?それはっ!」
沈黙を破ったのは、ダミアンの無遠慮な一言であった。
それはカイの失敗を、一切包み隠す事なく告げてしまっている言葉だ。
そのあまりに率直な物言いに驚いたヴェロニカは、肩を跳ねさせると彼へと視線を向ける。
しかし彼女の予想と違い、そこにはダミアンが落ち着き払った様子で佇んでいた。
「いや、そうだな・・・確かに、ダミアンの言う通りだ。どうやら私の狙いは失敗してしまったらしい」
「そんな!?そのような事はありません!!あれは折角用意された宝箱に手をつけない、あの者達が―――」
主人に失礼な物言いをしたにも拘らず、余裕そうな態度を見せているダミアンの姿に、ヴェロニカは怒りを抱いて彼へと詰め寄ろうとしていた。
しかしそれは、カイの失敗を認める一言によって掻き消されていた。
肩を竦めて自らの失敗を嘆いているカイの姿に、ヴェロニカは驚愕の表情を見せると、すぐさま立ち上がりそれを否定する言葉を叫び始める。
「よい、ヴェロニカ。失敗は失敗だ。それを認めなければな・・・それよりも、今は早急に考えなければならないことがある」
しかしそれも、カイの手によって制止される。
ヴェロニカの否定の言葉を手を掲げて制止したカイは、彼女に言い聞かせるように失敗を認める言葉を続けていた。
彼はそれよりも考えなければならないことがあると告げると、傍らのダミアンへと視線をやっていた。
「魔物の再配置、ですな?かなり弱体化したとはいえ、彼らに武器が渡らないとなれば、また考えなければなりません。しかも今回はあまり時間がない、急がねばなりませんのぅ」
カイの意図に、ダミアンは片目を瞑りながら答えてみせる。
最初の戦いの醜態によって今ダンジョンに配置された魔物は、最初の時よりかなり弱体化されている。
しかしそれも、クリスにまともな武器が渡らないとなれば苦しくなってくるだろう。
しかもすでに先に進み始めてしまった彼らに、次の魔物はすぐ傍に迫っている。
それまでにその配置を見直さなければならないとすれば、もう余り時間はない筈であった。
「その通りだよ、ダミアン。しかし私としては、直近の魔物達を引かせるだけでいいと思っている」
「と、言いますと?」
ダミアンの言葉に、同意見だと肯定を示したカイはしかし、配置を弄るのは彼らとすぐに遭遇してしまう魔物だけでいいと話していた。
その言葉に僅かに驚いた表情を見せたダミアンは、彼に続きを促そうと聞き返す。
ダミアンの態度に得意げな表情を作ったカイは、その手元にクリス達に渡す筈だった錆びた片手剣を出現させていた。
「何、要はこれを彼らに渡せばいいんだ。なら別の手段を用いるだけだろう?」
「別の手段、ですか?それは一体、どのような手段なのでしょうか?」
カイはわざわざ魔物の配置を大幅に弄らなくても、これを彼らに渡せば済むと軽く語る。
ようやく落ち着いたのか、自らの席に戻ってカイの話しに耳を傾けていたヴェロニカは、その言葉に可愛らしく小首を傾げると、どうやってそんな事をするのかとカイに尋ねていた。
「ふふふ・・・お前達、私の種族を忘れたのか?こうすればいいのさ」
思わせぶりな含み笑いで自らの種族を思い出せと告げたカイは、自らの顔を片手で覆う。
それが再び現れると、それはまったく別のものへと姿を変えていた。
彼の種族はドッペルゲンガー。
その能力は、自在に姿を変える事だ。
その能力を生かして彼らへと武器を渡す手段、それは―――。
ショックを受けたようにモニターを見詰めたまま凍りついているカイは、その沈黙を破ろうとはしない。
ヴェロニカは何とか彼に声を掛けようと口を開くが、そのたびに言葉が見つからず、口を開いたり閉じたりを繰り返していた。
「いやはや、見事にスルーされてしまいましたなぁ」
「ダ、ダミアン!?それはっ!」
沈黙を破ったのは、ダミアンの無遠慮な一言であった。
それはカイの失敗を、一切包み隠す事なく告げてしまっている言葉だ。
そのあまりに率直な物言いに驚いたヴェロニカは、肩を跳ねさせると彼へと視線を向ける。
しかし彼女の予想と違い、そこにはダミアンが落ち着き払った様子で佇んでいた。
「いや、そうだな・・・確かに、ダミアンの言う通りだ。どうやら私の狙いは失敗してしまったらしい」
「そんな!?そのような事はありません!!あれは折角用意された宝箱に手をつけない、あの者達が―――」
主人に失礼な物言いをしたにも拘らず、余裕そうな態度を見せているダミアンの姿に、ヴェロニカは怒りを抱いて彼へと詰め寄ろうとしていた。
しかしそれは、カイの失敗を認める一言によって掻き消されていた。
肩を竦めて自らの失敗を嘆いているカイの姿に、ヴェロニカは驚愕の表情を見せると、すぐさま立ち上がりそれを否定する言葉を叫び始める。
「よい、ヴェロニカ。失敗は失敗だ。それを認めなければな・・・それよりも、今は早急に考えなければならないことがある」
しかしそれも、カイの手によって制止される。
ヴェロニカの否定の言葉を手を掲げて制止したカイは、彼女に言い聞かせるように失敗を認める言葉を続けていた。
彼はそれよりも考えなければならないことがあると告げると、傍らのダミアンへと視線をやっていた。
「魔物の再配置、ですな?かなり弱体化したとはいえ、彼らに武器が渡らないとなれば、また考えなければなりません。しかも今回はあまり時間がない、急がねばなりませんのぅ」
カイの意図に、ダミアンは片目を瞑りながら答えてみせる。
最初の戦いの醜態によって今ダンジョンに配置された魔物は、最初の時よりかなり弱体化されている。
しかしそれも、クリスにまともな武器が渡らないとなれば苦しくなってくるだろう。
しかもすでに先に進み始めてしまった彼らに、次の魔物はすぐ傍に迫っている。
それまでにその配置を見直さなければならないとすれば、もう余り時間はない筈であった。
「その通りだよ、ダミアン。しかし私としては、直近の魔物達を引かせるだけでいいと思っている」
「と、言いますと?」
ダミアンの言葉に、同意見だと肯定を示したカイはしかし、配置を弄るのは彼らとすぐに遭遇してしまう魔物だけでいいと話していた。
その言葉に僅かに驚いた表情を見せたダミアンは、彼に続きを促そうと聞き返す。
ダミアンの態度に得意げな表情を作ったカイは、その手元にクリス達に渡す筈だった錆びた片手剣を出現させていた。
「何、要はこれを彼らに渡せばいいんだ。なら別の手段を用いるだけだろう?」
「別の手段、ですか?それは一体、どのような手段なのでしょうか?」
カイはわざわざ魔物の配置を大幅に弄らなくても、これを彼らに渡せば済むと軽く語る。
ようやく落ち着いたのか、自らの席に戻ってカイの話しに耳を傾けていたヴェロニカは、その言葉に可愛らしく小首を傾げると、どうやってそんな事をするのかとカイに尋ねていた。
「ふふふ・・・お前達、私の種族を忘れたのか?こうすればいいのさ」
思わせぶりな含み笑いで自らの種族を思い出せと告げたカイは、自らの顔を片手で覆う。
それが再び現れると、それはまったく別のものへと姿を変えていた。
彼の種族はドッペルゲンガー。
その能力は、自在に姿を変える事だ。
その能力を生かして彼らへと武器を渡す手段、それは―――。
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