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ダンジョン経営の始まり
アトハース村へ 1
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昼下がりの酒場には、その名よりも食堂という呼び名の方が相応しい。
村の住人からのよそよそしい視線を受けながらそこへと立ち入ったカイは、予想以上の寂れ具合に思わず二の足を踏んでしまっていた。
食事時が過ぎてある程度人がはけた酒場にも、今だそれなりの人がその席を占拠している。
彼らはそこで、僅かな食事の残りや飲み物をいじっており、そこから一向に動こうとはしない。
その振る舞いは午後からの仕事に行きたくないと、全身で主張しているようだった。
「っとと、すみません」
「・・・気をつけろ」
店内へと足を踏み入れたカイは、出入り口から一番近い席に座っていた男とぶつかりそうになってしまう。
カイはその男に短く謝罪を告げると、彼もぶっきらぼうに言葉を返していた。
彼は気づいただろうか、その一瞬の内にその姿が盗まれた事に。
カイは元の世界の近所に住んでいたおっさんの顔の下に、彼から盗んだ姿を潜ませる。
そうして始めて、彼はこの村で通じる言葉を話せるようになっていた。
(なんかこればっかりうまくなってくな、俺。割と最初から、これだけはうまく出来たんだよな。何でだろう、自分が薄かったから?いや、深く考えるのはよそう。なんか悲しくなってくるから)
ドッペルゲンガーとしての変身能力は、魔法と同じく彼が元いた世界ではなかった筈のものだ。
しかしこの変身能力については、彼は始めからうまく扱うことが出来ていた。
それがドッペルゲンガーとしての生態だからなのか、それとも彼の性格との相性なのかは分からない。
しかし深く追求すると悲しい気持ちになりそうなそれに、カイは途中で考えるのを止めていた。
「あーっと、何か飲み物を頼む。後はそうだな・・・すぐに食べれる物を」
ちょっとしたトラブルに、店内の客達の視線がカイへと集まっていた。
しかしその瞳は無関心で、それ以上のトラブルへと発展しないと分かると、すぐにそれぞれの食事へと戻ってしまう。
そんな客達の振る舞いに僅かな息苦しさを感じさせられたカイは、その歩みを進め空いているカウンターへと滑り込むと、店主に向かって簡単な注文を投げ掛けていた。
「お客さん、見ない顔だけど・・・旅人かい?荷物もないようだけど、ちゃんと金はあるんだろうね?」
こんな辺境では、外からやってくる者など滅多にいないのだろう、木の杯を丁寧に磨いている店主の男は、カイにじろじろと無遠慮な視線を向けてくる。
彼が食器を磨く手を止めようとしないのは、カイの事をまだ客だとは認めていないからだろうか。
確かに荷物もなく手ぶらで訪れた旅人など不自然で、金を持っているようには見えないだろう、しかしその言葉に、カイは待ってましたと心の中でガッツポーズを決めていた。
(よしきた!これを待ってたんだよ!!魔王軍内での通貨ならそれなりに貯蓄しているが、こっちのお金がどんなものか知らないからな、調べたかったんだ。そして、ふふふ・・・ちゃんと用意しているぞ?)
店主からの疑いの言葉に、腰に括り付けた袋を弄り始めたカイは、そこに金属の感触を感じていた。
「あぁ、勿論だとも。これで足りるかな?」
感触だけで中身の違いが判別できるほどそれを熟知していないカイは、取り出した硬貨の幾つかから銀色の輝きを持つもの選び取ると、それを店主へと差し出す。
それを目にした店主は食器を磨く手を止めるとそれを摘み上げ、しげしげと観察し始めていた。
(問題、なさそうか?いやぁ、たとえ一人だけでもダンジョンに人が来てて良かったな。そのお陰でこうして、お金が手に入ったんだから)
カイが取り出した硬貨は、以前ダンジョンに訪れた男が取り落としていった荷物から回収したものだ。
それがなければ、無一文で情報収集しなければならない所だった。
こうした場所で話を聞くのも、注文した後と前ではその口の軽さも違ってくるだろう。
事実、店主がこちらに向ける視線も、先ほどまでのものとは変わっているように見える。
村の住人からのよそよそしい視線を受けながらそこへと立ち入ったカイは、予想以上の寂れ具合に思わず二の足を踏んでしまっていた。
食事時が過ぎてある程度人がはけた酒場にも、今だそれなりの人がその席を占拠している。
彼らはそこで、僅かな食事の残りや飲み物をいじっており、そこから一向に動こうとはしない。
その振る舞いは午後からの仕事に行きたくないと、全身で主張しているようだった。
「っとと、すみません」
「・・・気をつけろ」
店内へと足を踏み入れたカイは、出入り口から一番近い席に座っていた男とぶつかりそうになってしまう。
カイはその男に短く謝罪を告げると、彼もぶっきらぼうに言葉を返していた。
彼は気づいただろうか、その一瞬の内にその姿が盗まれた事に。
カイは元の世界の近所に住んでいたおっさんの顔の下に、彼から盗んだ姿を潜ませる。
そうして始めて、彼はこの村で通じる言葉を話せるようになっていた。
(なんかこればっかりうまくなってくな、俺。割と最初から、これだけはうまく出来たんだよな。何でだろう、自分が薄かったから?いや、深く考えるのはよそう。なんか悲しくなってくるから)
ドッペルゲンガーとしての変身能力は、魔法と同じく彼が元いた世界ではなかった筈のものだ。
しかしこの変身能力については、彼は始めからうまく扱うことが出来ていた。
それがドッペルゲンガーとしての生態だからなのか、それとも彼の性格との相性なのかは分からない。
しかし深く追求すると悲しい気持ちになりそうなそれに、カイは途中で考えるのを止めていた。
「あーっと、何か飲み物を頼む。後はそうだな・・・すぐに食べれる物を」
ちょっとしたトラブルに、店内の客達の視線がカイへと集まっていた。
しかしその瞳は無関心で、それ以上のトラブルへと発展しないと分かると、すぐにそれぞれの食事へと戻ってしまう。
そんな客達の振る舞いに僅かな息苦しさを感じさせられたカイは、その歩みを進め空いているカウンターへと滑り込むと、店主に向かって簡単な注文を投げ掛けていた。
「お客さん、見ない顔だけど・・・旅人かい?荷物もないようだけど、ちゃんと金はあるんだろうね?」
こんな辺境では、外からやってくる者など滅多にいないのだろう、木の杯を丁寧に磨いている店主の男は、カイにじろじろと無遠慮な視線を向けてくる。
彼が食器を磨く手を止めようとしないのは、カイの事をまだ客だとは認めていないからだろうか。
確かに荷物もなく手ぶらで訪れた旅人など不自然で、金を持っているようには見えないだろう、しかしその言葉に、カイは待ってましたと心の中でガッツポーズを決めていた。
(よしきた!これを待ってたんだよ!!魔王軍内での通貨ならそれなりに貯蓄しているが、こっちのお金がどんなものか知らないからな、調べたかったんだ。そして、ふふふ・・・ちゃんと用意しているぞ?)
店主からの疑いの言葉に、腰に括り付けた袋を弄り始めたカイは、そこに金属の感触を感じていた。
「あぁ、勿論だとも。これで足りるかな?」
感触だけで中身の違いが判別できるほどそれを熟知していないカイは、取り出した硬貨の幾つかから銀色の輝きを持つもの選び取ると、それを店主へと差し出す。
それを目にした店主は食器を磨く手を止めるとそれを摘み上げ、しげしげと観察し始めていた。
(問題、なさそうか?いやぁ、たとえ一人だけでもダンジョンに人が来てて良かったな。そのお陰でこうして、お金が手に入ったんだから)
カイが取り出した硬貨は、以前ダンジョンに訪れた男が取り落としていった荷物から回収したものだ。
それがなければ、無一文で情報収集しなければならない所だった。
こうした場所で話を聞くのも、注文した後と前ではその口の軽さも違ってくるだろう。
事実、店主がこちらに向ける視線も、先ほどまでのものとは変わっているように見える。
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