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プロローグ

焦り 3

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「それじゃあ、二人で行きましょうかフィアナ?」
「うん、分かったー!」

 些細な言い争いはフィアナの勝利で終り、ヴェロニカは彼女と一緒にカイの部屋へと立ち入ることを提案する。
 その言葉を嬉しそうに肯定したフィアナは、その勢いで軽く扉へと衝突してしまっていた。

「フィアナ!?ほら、下がりなさい・・・入ってもよろしいでしょうか、カイ様?」
「あ、あー・・・ちょーっと待ってくれるか?」
「はぁ・・・畏まりました」

 彼女達の言い争いによって図らずも時間を稼げたカイであったが、一向に打開策は思いつくことはなかった。
 唯一の逃げ場であった出入り口も、そこに部下達が集まってしまえば、もう使うことも出来ない。

「あぁ、どうしようどうしよう!?もう逃げ場が・・・こうなったら、ここから飛び降りるか?いや、流石にそれは・・・ん、これは?」

 彼は最後の手段としてここから飛び降りることも検討するが、この高さから飛び降りて命があるとも思えない。
 打つ手なく頭を抱えようとしていた彼の手に、何かの感触が触れる。
 それは碌に内容も確かめていなかった、辞令の書類だった。

「あれ、これならもしかすると・・・」

 追放という事実を告げられた時点で頭が真っ白になり、細かい内容を確認することはなかった辞令の文書をまじまじと読み込んだカイは、その内容に生存の可能性を見出していた。

「あー・・・すまない。もう入ってきていいぞ」
「なんだ、もういいのか?ははぁ・・・さては旦那、マス掻いてたな」
「これ!セッキお前、自らの主人になんて口をきいておる!たとえ事実じゃったとしても、言っていい事と悪い事が・・・」
「へぇへぇ、悪ぅございましたね」

 辞令の書面に生き残る可能性を見出したカイは、先ほどの言葉を覆して部下達に入室を促していた。
 彼の突然の心変わりに、同じ男性として心当たりがあったセッキは、何かを納得したような声を上げる。
 彼の言葉に、これもまた男性の声が注意を促していたが、その声は随分と下の方から響いていたようだった。

「・・・ねぇねぇ、マスを掻くって何のこと?」
「それは・・・うふふ。あなたようなお子ちゃまにはまだ早いわ、フィアナ。あなたは大人しく、鼠でも追いかけてなさい」
「なんだよー、フィアナにも教えてよー!」

 開け放たれた扉に、続々とカイの部屋へと入室していく部下達の中で、ヴェロニカとフィアナだけが取り残されていた。
 先ほどセッキが口にした言葉の意味が分からないフィアナは、隣のヴェロニカへとそれを尋ねる。
 口にし辛いその内容に、ヴェロニカは始めこそ言葉を濁していたが、やがて勝ち誇ったかのように笑顔を作ると、フィアナの頭を優しく撫でていた。
 最後にその頭を軽く押し退けて先に進み始めたヴェロニカに、遅れをとったフィアナは質問の答えをねだりながら、その背中を追いかけていた。
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