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プロローグ
焦り 2
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「せっかくここまで来たってのに・・・ようやく俺にも、人類に何か手助けが出来る所まで」
カイが有力な魔物に密告を繰り返し、彼らを失脚させていたのは、それによって魔王軍が弱体化するだろうと思っていたからだ。
彼はそうすることで、間接的に人類を助けようとしていた。
しかしそれは、それほどうまくいくことはない。
有力な魔物を失脚させても、また別の魔物が台頭するだけ。
寧ろ悪辣な振る舞いをする魔物を追放させることによって、魔王軍の軍質を向上させてすらいた。
そうしているうちに、彼がこの世界へとやってきた数年で魔王軍の版図は倍にまで拡大し、人類を危機へと陥れようとしていたのだった。
「どうする・・・?もういっその事、このまま逃げ出すか?よし!それがいい!!また一からやり直しになるけど、ここで死ぬよりは・・・!!」
何の打開策も浮かばないまま、容赦なく過ぎ去っていく時間に、部下が戻ってくることが恐ろしくなってきたカイは、逃げ出すことを考え始める。
彼の能力を考えれば、この部屋を出る所さえ目撃されなければ何とかやり過ごすことは出来るだろう。
逃げ出すことを決断した彼は、慌てて軽く詰め込んでいた荷物へと手を伸ばす。
その時、扉からノックの音が響いてきていた。
「カイ様。ヴェロニカ以下、配下一同集合いたしました。入室してもよろしいでしょうか?あぁ・・・勿論、ウーヴェは外で待機しておりますが」
「もう来たのか・・・す、すまない!少し待ってくれないか!!その、そうだ!少し散らかっていてな」
外から響いてきたノックの主は、それを誰かと証明するように妖艶な声色を後に続かせる。
その声の主は自ら名乗ったように、ヴェロニカのものだろう。
予想よりも早い彼らの到着は、彼らの忠誠心の厚さを示しているのかもしれない。
しかしそれを信用しきれないカイにとっては、死の宣告のようにも聞こえてしまう。
恐怖に駆られた彼は、もはや無駄な時間稼ぎだと分かっていても、適当な言葉を捜して僅かな暇を獲得しようとしていた。
「あら、それでしたら私が―――」
「主様、主様ー!フィアナが手伝うよー!!」
部屋の片づけを申し出ようとしたヴェロニカの声を遮ったのは、また別の華やかな声だった。
声の響きから、まだ年若い少女のものと思われるその声は、自分こそがカイを手伝うのだと主張していた。
「フィアナ、あなたが手伝っても余計に散らかしてしまうのではないかしら?それにあなたがやるとどうしても、体毛が抜けて汚れてしまうでしょう?」
「えぇー、そうかなぁ?でもでも、フィアナ頑張るよ?」
「うっ!そうね、その通りだわ」
自らの発言を遮られた不満を、それを遮ったフィアナへとぶつけるヴェロニカは、皮肉を込めた言葉を彼女へと漏らす。
獣人である彼女を馬鹿にするような言葉は差別的ですらあったが、その表現はフィアナには遠回り過ぎたようで、彼女は何も分からないというような純粋な疑問を浮かべて首を捻るばかりであった。
その仕草にヴェロニカの方が何かダメージを食らったかのように言葉を詰まらせてしまい、敗北を悟っては彼女の言葉を肯定してしまう。
カイが有力な魔物に密告を繰り返し、彼らを失脚させていたのは、それによって魔王軍が弱体化するだろうと思っていたからだ。
彼はそうすることで、間接的に人類を助けようとしていた。
しかしそれは、それほどうまくいくことはない。
有力な魔物を失脚させても、また別の魔物が台頭するだけ。
寧ろ悪辣な振る舞いをする魔物を追放させることによって、魔王軍の軍質を向上させてすらいた。
そうしているうちに、彼がこの世界へとやってきた数年で魔王軍の版図は倍にまで拡大し、人類を危機へと陥れようとしていたのだった。
「どうする・・・?もういっその事、このまま逃げ出すか?よし!それがいい!!また一からやり直しになるけど、ここで死ぬよりは・・・!!」
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彼の能力を考えれば、この部屋を出る所さえ目撃されなければ何とかやり過ごすことは出来るだろう。
逃げ出すことを決断した彼は、慌てて軽く詰め込んでいた荷物へと手を伸ばす。
その時、扉からノックの音が響いてきていた。
「カイ様。ヴェロニカ以下、配下一同集合いたしました。入室してもよろしいでしょうか?あぁ・・・勿論、ウーヴェは外で待機しておりますが」
「もう来たのか・・・す、すまない!少し待ってくれないか!!その、そうだ!少し散らかっていてな」
外から響いてきたノックの主は、それを誰かと証明するように妖艶な声色を後に続かせる。
その声の主は自ら名乗ったように、ヴェロニカのものだろう。
予想よりも早い彼らの到着は、彼らの忠誠心の厚さを示しているのかもしれない。
しかしそれを信用しきれないカイにとっては、死の宣告のようにも聞こえてしまう。
恐怖に駆られた彼は、もはや無駄な時間稼ぎだと分かっていても、適当な言葉を捜して僅かな暇を獲得しようとしていた。
「あら、それでしたら私が―――」
「主様、主様ー!フィアナが手伝うよー!!」
部屋の片づけを申し出ようとしたヴェロニカの声を遮ったのは、また別の華やかな声だった。
声の響きから、まだ年若い少女のものと思われるその声は、自分こそがカイを手伝うのだと主張していた。
「フィアナ、あなたが手伝っても余計に散らかしてしまうのではないかしら?それにあなたがやるとどうしても、体毛が抜けて汚れてしまうでしょう?」
「えぇー、そうかなぁ?でもでも、フィアナ頑張るよ?」
「うっ!そうね、その通りだわ」
自らの発言を遮られた不満を、それを遮ったフィアナへとぶつけるヴェロニカは、皮肉を込めた言葉を彼女へと漏らす。
獣人である彼女を馬鹿にするような言葉は差別的ですらあったが、その表現はフィアナには遠回り過ぎたようで、彼女は何も分からないというような純粋な疑問を浮かべて首を捻るばかりであった。
その仕草にヴェロニカの方が何かダメージを食らったかのように言葉を詰まらせてしまい、敗北を悟っては彼女の言葉を肯定してしまう。
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