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裏切り者達

再会する親子 2

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「それより、大助さんよぉ・・・あんた、奥さんはどうしたよ?一緒じゃなかったのか?」
「静子ですか・・・それが逸れてしまいまして。今、探している所なのですよ」

 これ以上その話題に触れるなと翔を怒鳴りつけたサブは、それ以上に鋭い視線を大助へと向けている。
 それは彼と一緒に行動している筈の、静子の姿が見えないことであった。
 サブの詰問に大助は恥ずかしそうに頭を押さえ、逸れてしまったのだと軽く話している。
 しかしその言葉に、サブの視線はより一層鋭さを増していた。

「逸れただぁ?そんな訳ないだろ、大助さんよぉ?俺ぁ知ってんだぞ、職業柄な。その剥げた爪、誰かと争った痕だろう?」
「いやいやいや、言いがかりは止してくださいよ!これは、あの殺人鬼と争った時のものです!!決して、静子の首を絞めた時のものじゃ・・・!」

 妻と逸れてしまったのだと軽く語る大助に、サブはそんな訳ないと指を突きつける。
 彼のその指先は、大助の痛々しくも爪の剥がれた指を指し示していた。
 彼はそれを、殺人鬼から逃れる時出来た傷だと釈明している。
 しかし彼はそれと同時に何か、とてつもない事を口走ってはいなかったか。

「おいおい・・・誰も首を絞めて殺したなんて言っちゃいないぞ、大助さんよぉ?」
「た、ただの例え話じゃないですか!?先にこの話を振ってきたのはそっちですよ!!私はなにも悪くない!」

 そう、静子を首を絞めて殺したなどとサブは口にしていない。
 なら何故、大助はそう話してしまったのか。
 それは―――。

「そうかいそうかい・・・そりゃ、悪かったな。しかしどうにも、信用出来ねぇなぁ・・・」

 漏らしてしまった失言に、サブは大助の事が信用出来ないと告げる。
 それは今まさに、サブの手の中にいる翔をそちらに引き渡さない事を意味していた。

「どうやったら信用してくれるんですか!?も、勿論、そんな事はしていませんが!!」
「そうだな・・・じゃあ、その服を捲って腕を見せてくれよ。そこに抵抗された痕がなかったら、信用してやるからよ」

 それを諦める事は、大助には出来ない。
 そのためならば何をしてもいいと縋る大助に、サブは腕を捲って見せてくれと、至極簡単な要求を出していた。

「ぐっ。そ、それは・・・」
「お父さん?何で・・・?」

 しかしそんな簡単な要求にも、大助は何故か言葉を詰まらせてしまっていた。
 そんな大助の態度に、今までどちらかといえば彼の味方のスタンスを取っていた翔も、どこか戸惑うようにその顔を見詰めていた。

「知ってっか?首を絞められてる時の人間って、凄ぇ力が出るんだと。それこそ、服の上からでもくっきり痕が残るぐらいな。ま、そうしなきゃ殺さちまうんだから当然だよな?で、大助さんよぉ・・・何時になったら、それを捲ってくれるんだい?」

 言葉を詰まらせ、一向に腕を捲って見せようとしない大助に対して、彼がそう出来ない理由をサブはつらつらと語っていく。
 それははっきりと、大助が椿子を絞め殺したのだと告げている。
 しかしそんな事実を告げられてもなお、大助はプルプルと震えるばかりで何も反論しようとしない。
 その彼の振る舞いに、まだ幼い翔すら悟ってしまっていた。
 自分の父親が、母親を絞め殺してしまったのだと。

「・・・仕方なかったんだ!!あいつが、あいつが俺を責めるから!!!」

 もはや言い訳すら出来ないと悟った大助は、開き直るように自分は悪くないと叫び始める。
 そんな父親の姿から隠すように、サブは静かに翔の前へと出ると、彼の事を自分の背中で隠していた。

「誰も責めちゃいねぇよ。ただなぁ・・・自分の嫁を殺すような奴に、こいつは預けられねぇ。分かるな?」
「そ、それは・・・翔、翔はお父さんといたいよな?な、そうだよな?」

 自らを責めるように、もしくは罪の意識から逃れるために、その頭を掻き毟っている大助の頭からは、ぶちぶちという生々しい音と共に毛髪が幾房も零れ落ちている。
 それははっきりとした、狂気の姿だろう。
 そんな大助にこれ以上近づくなと警告するように、サブは腕を掲げながら彼へと語りかける。
 しかしそんな言葉を耳にしても、大助はサブの背中へと隠れた翔へと執心し、その顔を覗こうと一歩一歩近づいてきていた。

「おい、それ以上近づくんじゃねぇ!近づくなって言ってんだろ!!」

 サブが幾ら近づくなと警告しても、すぐ傍に息子の姿がある父親が止まる訳もない。
 しかしその瞳は明らかに血走り、もはや正気とは思えない。
 そんな人間を翔に近づける訳にはいかないと、サブは自らの懐へと手を入れると、いつか手にしていた切り札を握り締めていた。

「分かんだろ!?これが何か!そ、それ以上近づいたら・・・う、撃つからな!!」

 それは彼が兄貴である陣馬から拝借していた、銃であった。
 それを近づいてくる大助へと突きつけたサブは、震える手でそれ以上は近づくなと叫んでいる。
 そんな定まらない照準では、例えこの距離でも当てるのは難しいだろう。
 しかし銃という存在は、ただそれだけで人の動きを拘束する絶対的な力がある筈だ。
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