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裏切り者達
甘い囁き 1
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『―――CEO九条要氏が取り残されていると見られ、地元の警察と消防は天候が回復し次第捜索を開始する模様です。また先ほど、○○山の方角から地響きのような音が聞こえたという地元の方の話しもあり、警察はこれを雪崩の可能性もあると発表し警戒を呼びかけています』
今まさに、襲われた雪崩の事を話すニュースの映像に、疲れきった様子の男がぼんやりと視線を向けている。
ロビーのソファーへとぐったりと横になり、テレビへと視線を向けているその男、匂坂幸也は今にも気を失ってしまいそうなほどに重い目蓋を、どうにか開いているようだった。
「・・・さっきの雪崩、ニュースになってんな」
匂坂と同じように、別のソファーでぐったりしている滝原が、これまた彼と同じようにテレビを見詰めながらそんな事を呟いている。
疲れきった匂坂は、彼のそんな言葉に反応しようとせずに、軽く頷いただけで済ませてしまっていた。
「だから言ったでしょ、匂坂君の方がいいって。私の言った通りじゃない」
「・・・もう、いいだろそれは。俺だって、ちゃんと言う通りにしただろ?」
「私が言いたいのは、あんたが運転してたら皆死んでたかもってこと!分かる!?それだけ危ない所だったんだよ!」
「だからそれは・・・!」
匂坂が会話を放棄してしまったためだろうか、空いた間に口を挟んできた飯野は、自分の意見が正しかったと主張し始める。
それに対しては自分の方が分が悪いと踏んでいるのか、滝原は素直に負けを認めるが、それでも彼女の口は収まらない。
やがて溜まっていた不満をぶちまけるように感情的に怒鳴り始めた彼女に、滝原も黙っていられなくなり、彼らは言い争いを始めてしまう。
そんな耳障りな声に、匂坂はそっと耳を塞いでいた。
「兄ちゃん、サブ兄ちゃん!僕、やっぱり・・・」
「あぁ?ちっ・・・しぁねぇなぁ」
彼らとは少し離れた所で二人寄り添っていた翔とサブが、何やらひそひそと話している。
どうやらそれは、翔が何かを望んでそれをサブへとねだっているもののようだった。
「おい、そこの兄ちゃん!匂坂だったか・・・俺らはちょっと席を外すから、後の事は頼んだぜ」
「えっ!?その・・・あまり分かれて行動しない方が、いいんじゃないでしょうか?」
翔のお願いに舌打ちを漏らし、面倒臭そうに頭を掻いたサブはしかし、その重い腰を上げると彼の手を引いてどこかへと向かい始めようとしていた。
一度その足を止め、振り返ったサブは一応といった感じで匂坂へと声をかける。
耳を塞ぎ、もはや完全に眠りへと入ろうとしていた匂坂はその声に驚き、こんな状況で別行動をとる意味が分からないと思わず問い返していた。
「翔君も連れて行くんですか?一体、何をしに・・・?」
「ちっ・・・こいつの両親を探しに行くんだよ。もう死んでんかもしれねぇのによ」
こんな状況で、子供を連れて単独行動する意味が分からないと問い掛ける匂坂に、サブは心底嫌そうに顔を背けている。
それは彼に、自分の優しい面を見せるのが恥ずかしかったからか。
ぶっきらぼうに翔の両親を探しにいってやるのだと語ったサブは、その最後にそれを誤魔化すように憎まれ口を叩いていた。
「生きてるもん!!」
「あぁ?分かんねぇだろうが、そんなもん!あの状況考えれば、殺されててもおかしくねぇだろ!それぐらい覚悟しとけっていってんだ!」
「でも、でも・・・生きてるもん」
自らの両親が死んでるかもしれないと話すサブに、翔は感情的に言い返している。
その言葉にサブもまた感情的に言い返すが、それは彼のショックを少しでも和らげようとしている言葉なのかもしれない。
しかし少なくとも、その意図は当の本人には伝わることはなく、翔は涙目で両親は生きていると主張し続けるばかりであった。
「えっと、その・・・気をつけてくださいね」
「へっ。まぁ、すぐに見つけて帰ってくるさ・・・そん時は、よろしくな」
サブの意図を理解してしまえば、それを止める事は匂坂には出来ない。
彼の控えめな見送りの言葉にサブは鼻を鳴らすと、適当に腕を振るっては別れを告げている。
すぐに帰ってくると語る彼は、その時にどんな事が待っているか理解しているのだろう。
彼は翔と仲のいい匂坂へと意味深な視線を向けると、その時は頼むと告げていた。
「・・・生きていればいいんだけど」
「そうだねー」
去っていく二人を見送る匂坂は、一人そう呟いている。
しかし意外な事に、それに答える者がいた。
「っ!?ゆ、百合子さん!?いつからそこに・・・?」
それは彼が寝そべっていたソファーの端へと、顎を乗っけている百合子のものであった。
突然声を掛けてきた彼女に、驚き慌てて身体を起こした匂坂は、彼女から僅かに距離を取るよりにソファーの上を這いずっていた。
今まさに、襲われた雪崩の事を話すニュースの映像に、疲れきった様子の男がぼんやりと視線を向けている。
ロビーのソファーへとぐったりと横になり、テレビへと視線を向けているその男、匂坂幸也は今にも気を失ってしまいそうなほどに重い目蓋を、どうにか開いているようだった。
「・・・さっきの雪崩、ニュースになってんな」
匂坂と同じように、別のソファーでぐったりしている滝原が、これまた彼と同じようにテレビを見詰めながらそんな事を呟いている。
疲れきった匂坂は、彼のそんな言葉に反応しようとせずに、軽く頷いただけで済ませてしまっていた。
「だから言ったでしょ、匂坂君の方がいいって。私の言った通りじゃない」
「・・・もう、いいだろそれは。俺だって、ちゃんと言う通りにしただろ?」
「私が言いたいのは、あんたが運転してたら皆死んでたかもってこと!分かる!?それだけ危ない所だったんだよ!」
「だからそれは・・・!」
匂坂が会話を放棄してしまったためだろうか、空いた間に口を挟んできた飯野は、自分の意見が正しかったと主張し始める。
それに対しては自分の方が分が悪いと踏んでいるのか、滝原は素直に負けを認めるが、それでも彼女の口は収まらない。
やがて溜まっていた不満をぶちまけるように感情的に怒鳴り始めた彼女に、滝原も黙っていられなくなり、彼らは言い争いを始めてしまう。
そんな耳障りな声に、匂坂はそっと耳を塞いでいた。
「兄ちゃん、サブ兄ちゃん!僕、やっぱり・・・」
「あぁ?ちっ・・・しぁねぇなぁ」
彼らとは少し離れた所で二人寄り添っていた翔とサブが、何やらひそひそと話している。
どうやらそれは、翔が何かを望んでそれをサブへとねだっているもののようだった。
「おい、そこの兄ちゃん!匂坂だったか・・・俺らはちょっと席を外すから、後の事は頼んだぜ」
「えっ!?その・・・あまり分かれて行動しない方が、いいんじゃないでしょうか?」
翔のお願いに舌打ちを漏らし、面倒臭そうに頭を掻いたサブはしかし、その重い腰を上げると彼の手を引いてどこかへと向かい始めようとしていた。
一度その足を止め、振り返ったサブは一応といった感じで匂坂へと声をかける。
耳を塞ぎ、もはや完全に眠りへと入ろうとしていた匂坂はその声に驚き、こんな状況で別行動をとる意味が分からないと思わず問い返していた。
「翔君も連れて行くんですか?一体、何をしに・・・?」
「ちっ・・・こいつの両親を探しに行くんだよ。もう死んでんかもしれねぇのによ」
こんな状況で、子供を連れて単独行動する意味が分からないと問い掛ける匂坂に、サブは心底嫌そうに顔を背けている。
それは彼に、自分の優しい面を見せるのが恥ずかしかったからか。
ぶっきらぼうに翔の両親を探しにいってやるのだと語ったサブは、その最後にそれを誤魔化すように憎まれ口を叩いていた。
「生きてるもん!!」
「あぁ?分かんねぇだろうが、そんなもん!あの状況考えれば、殺されててもおかしくねぇだろ!それぐらい覚悟しとけっていってんだ!」
「でも、でも・・・生きてるもん」
自らの両親が死んでるかもしれないと話すサブに、翔は感情的に言い返している。
その言葉にサブもまた感情的に言い返すが、それは彼のショックを少しでも和らげようとしている言葉なのかもしれない。
しかし少なくとも、その意図は当の本人には伝わることはなく、翔は涙目で両親は生きていると主張し続けるばかりであった。
「えっと、その・・・気をつけてくださいね」
「へっ。まぁ、すぐに見つけて帰ってくるさ・・・そん時は、よろしくな」
サブの意図を理解してしまえば、それを止める事は匂坂には出来ない。
彼の控えめな見送りの言葉にサブは鼻を鳴らすと、適当に腕を振るっては別れを告げている。
すぐに帰ってくると語る彼は、その時にどんな事が待っているか理解しているのだろう。
彼は翔と仲のいい匂坂へと意味深な視線を向けると、その時は頼むと告げていた。
「・・・生きていればいいんだけど」
「そうだねー」
去っていく二人を見送る匂坂は、一人そう呟いている。
しかし意外な事に、それに答える者がいた。
「っ!?ゆ、百合子さん!?いつからそこに・・・?」
それは彼が寝そべっていたソファーの端へと、顎を乗っけている百合子のものであった。
突然声を掛けてきた彼女に、驚き慌てて身体を起こした匂坂は、彼女から僅かに距離を取るよりにソファーの上を這いずっていた。
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