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止まらない連鎖
報われない少女は一人、どこかへと向かう
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「この・・・馬鹿が!!こんな事も満足に出来ないのかっ!!!」
従業員用の狭い部屋に、壮年の男性の怒り狂った声が響く。
その男性、日野宮隆志(ひのみや たかし)は目の前の少女を殴りつけた手の甲を、痛そうに擦っている。
しかしその痛みは彼に殴りつけられ、今まさに床へとバウンドしている少女の比ではないだろう。
「俺が殺せと言ったのは、九条一華だ!!あんなガキ共じゃない!!そんな事も分からないのか!!!」
床に叩きつけられた衝撃のためだろうか、苦しそうに咽ている少女の姿にも、隆志はまだ満足していないのだと再び拳を振り上げている。
そんな彼の姿に、少女はただただ身を小さくして、怯えた姿を見せていた。
「止めてください!この子も頑張っているじゃないですか!!」
頭を抱えて震えるばかりで、避ける仕草も反抗の動きも見せない少女に、彼女の母親と思われる女性が覆い被さっては庇っていた。
少女の母親と思われる女性、日野宮梢(ひのみや こずえ)はもうそれ以上の暴力は必要ないと隆志に訴える。
「あぁ?その頑張った結果がどうだ?関係ねぇ、ガキ共を殺しただけじゃねぇか!!死人が増えりゃ、それだけ逃げるのが難しくなるんだよ!分かってんのか、てめぇは!!」
梢の訴えに、そんなものは何の意味はないと隆志は吐き捨てる。
しかしそれでも彼は握った拳を取り下げて、行き所のなくなったそれを不満そうに振り払うだけに収めていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「ちっ・・・折角、いい金づるを見つけたっていうのによぉ」
不満げに鼻を鳴らし、怒鳴りつけてくる隆志に、少女はただただ小さくなり謝罪の言葉を唱え続けることしか出来ない。
彼女のそんな姿に隆志は舌を打つと、やりどころのない苛立ちを吐き出すように溜め息を漏らす。
「いいか?お前が殺すのは、102号室に泊まっている九条一華だ。奴を殺しさえすりゃ、大金が手に入る。そうすりゃ、皆で遊んで暮らせるんだ。分かるか、おい?」
梢の背中に隠れて小さくなっている少女に、隆志は膝を曲げては語りかけている。
彼が語るには、九条一華さえ殺せば彼らに大金が舞い込んでくるらしい。
それを嬉しそうに語る隆志の目には、少女の姿など映ってはいなかった。
「・・・九条一華が泊まっているのは、103号室じゃないですか?」
「あぁ?ちっ・・・分かり辛いんだよ、この建物。連中、よく管理してやがったな」
少女に言い聞かせるようにターゲットの居場所を告げる隆志に、梢は何かおかしいと突っ込みを入れている。
その指摘に舌打ちを漏らした隆志は、この部屋のさらに先へと続くドアへと目を向けると、そこに詰め込まれている何かに対して、感心した言葉を呟いていた。
「甘いもの・・・甘いものも食べられるの?あの・・・パ、パ、パ」
「パフェか?おぉ、食べれる食べれる!だから、いいか?九条一華を殺すんだ、分かったな?分かったなら、さっさと行かねぇか!」
隆志の遊んで暮らせるという言葉に、少女は梢の背中から僅かに顔を覗かせると、自らの望みを控えめにアピールしている。
その願いを軽く了承してみせた隆志に、果たして本当にそのつもりがあるのだろうか。
その言葉に僅かに嬉しそうな表情を見せた少女に、隆志はさっさと仕事に取り掛かれと、腕を振るっては急かしていた。
「そ、それより!身体を綺麗にして上げていいですか?このままじゃ、余りにも・・・」
「あぁ?ちっ・・・まぁ、血塗れじゃ警戒されるだけだしな・・・手早く済ませろよ」
先ほど人を殺したばかりの少女の身体は、その返り血によって真っ赤に染まってしまっている。
それをせめて拭ってやりたいと訴える梢に対して、隆志もそれを渋々了承していた。
「それじゃ、行きましょう」
「う、うん・・・」
少女の手を引いて、梢が向かうのは従業員用の簡易的なシャワールームだろうか。
彼らがそこへと向かうのを、隆志は意味ありげな瞳でジッと見詰めていた。
「や、やめてください・・・あの子が見てる」
「いいだろう?どうせ、分かりゃしない」
シャワーを浴びてほかほかの身体に湯気を纏わせている少女の後ろから、なにやら艶っぽい男女の声が響いてくる。
それは先ほど少女と入れ替わりに、その部屋へと入っていった隆志の声だろう。
今だ開かれたままのその部屋のドアに、少女は無垢な瞳をそちらへと向けていた。
「・・・行こっと」
その先で行われていることの意味が分からなくても、そこにいない方がいい事は分かる。
それは梢の後ろから彼女を羽交い絞めにしている隆志が向ける、睨みつけるような視線からも明白だ。
少女は濡れた髪を拭うのもそこそこに、その場から歩き出す。
その向かう先はまだ、決まってはいなかった。
従業員用の狭い部屋に、壮年の男性の怒り狂った声が響く。
その男性、日野宮隆志(ひのみや たかし)は目の前の少女を殴りつけた手の甲を、痛そうに擦っている。
しかしその痛みは彼に殴りつけられ、今まさに床へとバウンドしている少女の比ではないだろう。
「俺が殺せと言ったのは、九条一華だ!!あんなガキ共じゃない!!そんな事も分からないのか!!!」
床に叩きつけられた衝撃のためだろうか、苦しそうに咽ている少女の姿にも、隆志はまだ満足していないのだと再び拳を振り上げている。
そんな彼の姿に、少女はただただ身を小さくして、怯えた姿を見せていた。
「止めてください!この子も頑張っているじゃないですか!!」
頭を抱えて震えるばかりで、避ける仕草も反抗の動きも見せない少女に、彼女の母親と思われる女性が覆い被さっては庇っていた。
少女の母親と思われる女性、日野宮梢(ひのみや こずえ)はもうそれ以上の暴力は必要ないと隆志に訴える。
「あぁ?その頑張った結果がどうだ?関係ねぇ、ガキ共を殺しただけじゃねぇか!!死人が増えりゃ、それだけ逃げるのが難しくなるんだよ!分かってんのか、てめぇは!!」
梢の訴えに、そんなものは何の意味はないと隆志は吐き捨てる。
しかしそれでも彼は握った拳を取り下げて、行き所のなくなったそれを不満そうに振り払うだけに収めていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「ちっ・・・折角、いい金づるを見つけたっていうのによぉ」
不満げに鼻を鳴らし、怒鳴りつけてくる隆志に、少女はただただ小さくなり謝罪の言葉を唱え続けることしか出来ない。
彼女のそんな姿に隆志は舌を打つと、やりどころのない苛立ちを吐き出すように溜め息を漏らす。
「いいか?お前が殺すのは、102号室に泊まっている九条一華だ。奴を殺しさえすりゃ、大金が手に入る。そうすりゃ、皆で遊んで暮らせるんだ。分かるか、おい?」
梢の背中に隠れて小さくなっている少女に、隆志は膝を曲げては語りかけている。
彼が語るには、九条一華さえ殺せば彼らに大金が舞い込んでくるらしい。
それを嬉しそうに語る隆志の目には、少女の姿など映ってはいなかった。
「・・・九条一華が泊まっているのは、103号室じゃないですか?」
「あぁ?ちっ・・・分かり辛いんだよ、この建物。連中、よく管理してやがったな」
少女に言い聞かせるようにターゲットの居場所を告げる隆志に、梢は何かおかしいと突っ込みを入れている。
その指摘に舌打ちを漏らした隆志は、この部屋のさらに先へと続くドアへと目を向けると、そこに詰め込まれている何かに対して、感心した言葉を呟いていた。
「甘いもの・・・甘いものも食べられるの?あの・・・パ、パ、パ」
「パフェか?おぉ、食べれる食べれる!だから、いいか?九条一華を殺すんだ、分かったな?分かったなら、さっさと行かねぇか!」
隆志の遊んで暮らせるという言葉に、少女は梢の背中から僅かに顔を覗かせると、自らの望みを控えめにアピールしている。
その願いを軽く了承してみせた隆志に、果たして本当にそのつもりがあるのだろうか。
その言葉に僅かに嬉しそうな表情を見せた少女に、隆志はさっさと仕事に取り掛かれと、腕を振るっては急かしていた。
「そ、それより!身体を綺麗にして上げていいですか?このままじゃ、余りにも・・・」
「あぁ?ちっ・・・まぁ、血塗れじゃ警戒されるだけだしな・・・手早く済ませろよ」
先ほど人を殺したばかりの少女の身体は、その返り血によって真っ赤に染まってしまっている。
それをせめて拭ってやりたいと訴える梢に対して、隆志もそれを渋々了承していた。
「それじゃ、行きましょう」
「う、うん・・・」
少女の手を引いて、梢が向かうのは従業員用の簡易的なシャワールームだろうか。
彼らがそこへと向かうのを、隆志は意味ありげな瞳でジッと見詰めていた。
「や、やめてください・・・あの子が見てる」
「いいだろう?どうせ、分かりゃしない」
シャワーを浴びてほかほかの身体に湯気を纏わせている少女の後ろから、なにやら艶っぽい男女の声が響いてくる。
それは先ほど少女と入れ替わりに、その部屋へと入っていった隆志の声だろう。
今だ開かれたままのその部屋のドアに、少女は無垢な瞳をそちらへと向けていた。
「・・・行こっと」
その先で行われていることの意味が分からなくても、そこにいない方がいい事は分かる。
それは梢の後ろから彼女を羽交い絞めにしている隆志が向ける、睨みつけるような視線からも明白だ。
少女は濡れた髪を拭うのもそこそこに、その場から歩き出す。
その向かう先はまだ、決まってはいなかった。
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