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穏やかな日々の終り

ゴブリン逆包囲戦

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 水辺に跳ねる足音は、雑多な数に騒いで響く。
 崖の上の射手を警戒した少女達は、開けた場所を避けて崖の傍へと陣を取っていた。
 背後を崖とすることで後方を警戒する必要はなくなっていたが、それは逃げ場を無くす事でもある。
 包囲を縮めるゴブリン達に、彼女たちはじりじりと追い詰められていた。

「イダ!」
「・・・分かってる」

 包囲の輪から飛び掛ってきたゴブリンの攻撃を、盾を構えたイダが弾き返す。
 この数ヶ月間、盾役をこなしていたアンナがいないこの状況に、イダは言われるまでもなくその役目を買って出ていた。

『なんだこいつ?ぐっ!?』
『どうした、がっ!?』

 イダの小さな身体を覆う大きさの盾に、それだけが動いて迫って来たように見えた彼らは戸惑い立ち止まった。
 そこをエミリアが放った矢が貫く、一緒に前へと進み出たゴブリンが急に倒れた事で疑問の声を上げたゴブリンは、彼と同じように頭を貫かれる事となっていた。

「これで最後!私も前に出る!イダ、フォローお願い!!」
「・・・ん」

 近寄ってきていたゴブリンに最後の矢を放ったエミリアは、短弓を放ると斧を両手に構える。
 前に出て盾の端からナイフを構えてゴブリンを警戒していたイダは、寄ってきたエミリアに了承を返すと、その半身を隠すように盾を動かしていた。

「リーンフォース・アーマー、にゃ!二人とも頑張るにゃ!ティオ、こういう状況は苦手なのにゃぁ」

 前に出た二人へと両手を向けて強化魔法を掛けたティオフィラは、苦手な状況に尻尾を垂れさせる。
 身軽な身体を生かして敵を掻き回すの得意とする彼女は、このようながっちりと包囲を固められている状況では為す術がない。
 この場にクロードがいれば多少の怪我を覚悟で戦う事もできたが、不在であれば重傷を負うわけにもいかなかった。

「・・・ティオ、準備して」
「なんにゃ?クララ?」

 崖を背にしてなにやら集中していたクラリッサは、ティオフィラに静かに語り掛けると、薄く目蓋を開く。
 彼女を狙って飛んできた石礫を拳で叩き落していたティオフィラは、彼女の声に瞳だけをそちらへと向けていた。

「ハイドロ・プレッシャー!!」

 杖を包囲するゴブリンの一角へと向けたクラリッサは、その先から強烈な水流を生み出した。
 大量の水とその圧力は為す術なくゴブリン達を押し流していく、中には川にまで運ばれてそのまま流されていく者もあった。
 突き破った包囲に、杖を僅かに動かしてその範囲を広げたクラリッサは、急激に失った魔力に頭を押さえている。

「にゃー!そういう事にゃ!!にゃははは!いっくにゃー!!」

 崩れた包囲の裂け目に向かって、ティオフィラは駆け出していく。
 彼女は包囲が崩れた事によって混乱しているゴブリン達の間へと突っ込むと、その間を跳ね回って混乱を助長していた。
 ティオフィラの保護を失ったクラリッサは無防備な状態であったが、彼女を気にする余裕は彼らにはなく、目ざとく襲い掛かってきたゴブリンは、彼女に首筋を切り裂かれる事になる。

「イダ、私達も!!」
「・・・突っ込む」

 混乱を助長するティオフィラの存在に、ゴブリン達はまだ包囲を再形成できてもいない。
 襲い掛かってくるゴブリンを警戒していたエミリア達も、それを見て攻勢に掛かる事を決意する。
 彼女達は包囲を再形成しようとする事で、逆に人数が薄くなっている所を狙って突撃を開始していた。

「ファイヤー・アロー!!・・・もうこれはいらないか。ティオ!!」

 炎の矢を生み出す魔法を放ったクラリッサは、それで包囲の一翼を焼き払う。
 それほど燃えはしないゴブリンの身体も、その身に纏った粗末な衣服は良く燃えた。
 水場がすぐ近くにあるという場所も相まって、彼らは我先を争って川へと飛び込んでいく。
 魔力の消耗と戦況の推移によって、魔法はもう必要ないと判断したクラリッサは杖を放ると両手でナイフを構える、彼女は乱戦の中のティオフィラへと声を掛けていた。

「にゃ?よく聞こえないにゃー!!」

 ゴブリンの集団の只中でその拳や脚を振るっていたティオフィラは、クラリッサから掛けられた声をうまく聞き取れない。
 彼女は飛び掛ったゴブリンの頭を蹴りつけると、その反動に大きく飛び上がる。
 空中で一回転したティオフィラは、ゴブリンの集団のちょうど外側へと着地していた。

「ティオ、避けなさい!!」
「にゃ!?」

 ティオフィラの着地を狙って襲い掛かってくるゴブリンの姿に、クラリッサが警戒の声を上げる。
 その声に反応したティオフィラは上体を反らすと、そのまま後ろへと転がっていく。
 彼女が避けた空間を二つの軌道が交差する、それはゴブリンが振るった粗末な武器と、クラリッサが投擲したナイフだ。

『ぐぎゃ!?』
「着地を狙うのは、良く、ないにゃ!!」

 腕に突き刺さったナイフに悲鳴を上げたゴブリンは、地面に転がって縮めたバネを解放させたティオフィラに追撃されて、悲鳴も上げられなくなってしまう。
 もう一人襲い掛かってきていたゴブリンを蹴り飛ばしたティオフィラは、小走りでクラリッサの下へと近寄ってくる。
 彼女のその無防備な背中を狙うゴブリンも勿論存在したが、それはクラリッサがナイフによって牽制していた。

「なんにゃ、クララ?ティオは何をやればいいのにゃ?」
「う~ん・・・そうねぇ、もう一回あそこに突っ込んでくれる?私も行くから」
「分かったにゃー!!」

 お互い戦場で孤立していたため、合流しようとティオフィラに声を掛けたクラリッサは、顔を見合わせる距離で命令を求めてくる彼女に、困ったように唇に指を添えた。
 クラリッサは元気が有り余っている様子のティオフィラに、もう一度ゴブリン達へと突撃する事を依頼する。
 彼女の願いに元気良く駆け出していったティオフィラの後ろを、クラリッサも追走する。
 ティオフィラは紫の光をその拳に纏わせ先頭のゴブリンに狙いを澄まし、クラリッサは彼女を狙うゴブリンにナイフを放っていた。
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