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育成の始まり

アングリーベアの怒り 1

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 数ヵ月後、川原にて。

「ぐ、ぐ、ぐがぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「なんだっ!?おいおいおい、マジかよ!?あの状態でも、まだ死んでないってか!!?」

 止めを刺した筈のアングリーベアに撤収を始めていたクロード達は、その雄叫びに驚いて立ち竦んだ。
 傷だらけの身体に死体に見えないその熊は、それでもなお以前よりも凶暴な雰囲気を帯びて大地へと立ち上がる。
 轟いた雄叫びに振り返ったクロードはその事実を否定するように首を振る、それでも突進を始めたアングリーベアの迫力に、それを否定する事など出来なかった。

「クロード様、後ろに!アンナ!!」
「分かってる!!リーンフォース・アーマー、ストレングス・アップ!」

 猛然と突進してきている熊は、クロードをその進路の先に捉えている。
 それは彼がこの一行の中心だと睨んだからか、それともただ正気を失っているだけなのか。
 クラリッサの指示されるまでもなく、その進路上へと躍り出たアンナは盾を構えると、自らに強化魔法を掛けていた。

「このっ!大人しく死んどき、なさい!!」
「・・・止め」

 突進してくる熊の左右に分かれたエミリアとイダが、それぞれに攻撃を行う。
 しかし経った時間に切れた弱体魔法が、彼の硬い毛皮を取り戻させていた。
 弾かれた斧とナイフに、その勢いの影響を受けたエミリアは逆に吹き飛ばされてしまう。

「くっ!このっ!!」

 川へと弾き飛ばされたエミリアが濡れた髪を腕に纏わせる、彼女は斧を手放すと短弓を構えて矢を放つ。
 苦し紛れの攻撃で熊の突進を止められる筈もない、放たれた矢を気にもしない彼はアンナへと迫ろうとしていた。

「にゃー!!ティオがもう一回魔法を掛けるにゃー!」

 水面を踏みつけ水飛沫を上げながら熊へと迫るティオフィラは、十分な距離に大きく飛び上がった。
 声と水面を叩く音で注意を引いた彼女には、当然その熊も迎撃へと動く。
 突進の速度を緩めその前足を掲げた熊の後頭部をナイフが叩く、突き刺さりこそしないそれも注意を引くには十分だろう、ティオフィラは拳を振り上げた。

「ウィークネス・アーマー!ストレングス、にゃぁ!!?」
「ぐぅ、がぁぁぁ!!」

 一撃目の拳で弱体を掛けたティオフィラは、取り付いてそのまま二撃目も入れようとする。
 しかし名前の違わぬ激昂状態となったアングリーベアは、以前の比ではない力で彼女を即座に振り払った。
 地面へと叩きつけられようとしていた彼女は、どうにか追いついたイダによって受け止められる。
 突進を再開した熊の背中に矢が何本か突き刺さるが、その勢いを止める事は出来なった。

「アンナ!!」
「任せて!!ぐっ、ぐぐ・・・!!」

 エミリアの注意の声にアンナは力強く応える、地面に突き刺した盾を叩く衝撃は強く、彼女の身体を浮かしていた。
 一瞬の浮遊にも彼女はなんとか踏みとどまり、盾は地面を抉って線を引く。
 それが三本になっても突進する熊の勢いは留まる事を知らない、食いしばった奥歯に血が滲み出した彼女の姿に、その限界は火を見るよりも明らかだった。

「アンナ、避けて!!」
「っ!?このっ!!」

 後方から掛かった声に、アンナは盾を手放して横へと飛びのいた。
 弾け飛ぶ盾は空へと舞って地面に落ちる、彼女はすれ違いざまに熊へとメイスの一撃を放つ。
 上半身の力だけで放った一撃は大した威力などない、しかし億劫そうに彼女を薙いだ熊の前足に、注意はそちらへと向いていた。

「アンナ、大丈夫か!?」
「平気です!それより前を、クロード様!!」

 散った血飛沫は川原を流れて水を濁した、肉を割かれたアンナの姿にクロードは彼女へと駆け寄ろうとする。
 しかしそれはそちらへと迫る熊へと近づく行為だ、青い顔をしながら必死に平気だと笑顔を作った彼女の姿に、クロードはその場で足を踏みしめていた。

「ライトニング!!」
「・・・おまけ」

 杖を構えて集中していたクラリッサが、呪文とともに雷光を放つ。
 彼女がそれを放つタイミングを合わせて、イダもナイフを放っていた。
 青白い雷光がアングリーベアの身体を貫き、その身体を焦げ付かせる。
 彼の身体に刺さったナイフはその電導によって、彼の内部構造へと雷光を響かせていた。

「・・・やったか!?」
「クロード様、油断なさらないで下さい!まだ・・・」

 全身を焦げ付かせどうと地面へと倒れ付した熊の姿に、クロードは思わず勝利を確かめる言葉を上げる。
 自らの後ろから身を乗り出した彼に、クラリッサは油断のない瞳で熊の身体を睨みつけていた。

「ぐ、ぐ、ぐぐがががぁぁぁぁぁぁ!!!」
「不味い!?クロード様、お逃げください!!」
「うおっ!?」

 再び死体のような状態から起き上がった熊は、その潰された目にすら憎悪を滲ませている。
 雄叫びを上げてまたも突進してきたその熊に、目の前まで迫られていた二人には余裕はなかった。
 クロードを突き飛ばしたクラリッサは、まともに熊の突進をその身に受けてしまう。

「ぐぅっ!!?こ、この!!」

 圧倒的な体重差にもクラリッサがまだ意識を保てているのは、ぶつかる瞬間に自分で飛んだからか。
 それでも背中を地面へとぶつけた衝撃に喘いだ彼女は、素早くナイフを抜き放ち熊の顔面へと突き刺していた。

「ぐがぁぁぁ!!?」
「この、このっ!早く、ぁぁぁあああああっ!!?」

 顔面へと突き刺したナイフをそのままに、新たなナイフを取り出してそれを突き刺したクラリッサは、身体に圧し掛かる圧迫感に早く早くとナイフを握る。
 それも熊の鋭い牙を突き立てられれば悲鳴へと変わる、ナイフを振るう利き手へと噛み付いた熊は、そのあぎとを一気に閉ざそうとしていた。
 骨が砕ける鈍い音に、彼女の悲鳴は絶叫に変わる。
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