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育成の始まり

接触型魔法

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「お~い!どんな感じだー!」

 川辺に敷き詰められた小石を踏みしめる音が、ザリザリと渡る。
 魔法の練習をしているティオフィラ達の姿を見つけたクロードは、手を振りながらゆっくりとそちらに近づいていった。

「にゃー!!にいやん、にいやーん!!ティオ、やったにゃー!!!」

 クロードの声に耳を揺らしたティオフィラは、回した頭に彼の姿を見つけると、一直線に駆け出していく。
 その距離はまだ遠い筈だったが、歓声を上げながら全速力で突っ込んでくる彼女に、クロードは受け止めるために両手を広げるだけで精一杯だった。

「うおっ!?っ、いっつぅ・・・ど、どうしたティオ?」
「ティオ頑張ったのにゃー!!にいやん、褒めて褒めて!!」

 勢いのままに飛び込んできたティオフィラを受け止めたクロードは、どうにか倒れこむのを堪えていた。
 彼女の身体はクロードの鳩尾から胸元辺りに飛び込んできており、その衝撃に彼は一瞬息を呑む。
 胸を叩いた衝撃に止まった息が再開しても、痛みはそこから広がっていく。
 その痛みにも自らの胸元へ嬉しそうに頭をこすり付けているティオフィラの姿を見れば、引きつった笑みぐらいは作ろうと思えていた。

「大丈夫ですか、クロード様?」
「いや、助かったよクラリッサ。それで・・・一体どうしたんだ、アンナ?」

 クロードがティオフィラの勢いにも姿勢を保てていたのは、その背中を支えるクラリッサのお陰であった。
 彼女の声に顔を後ろにやりながら礼を言った彼は、慌てて近づいてくるアンナへと事情を尋ねる。

「すごい、すごいんですよ!!ティオ、こんな短い時間でものにしたんです!」
「へぇー、すごいじゃないかティオ!よくやったな!」
「にゃー!もっと褒めるといいにゃ!!」

 クロードの尋ねられたアンナは、ティオフィラほどではないにしても興奮している様子だった。
 彼女は両手を握り締めるとそれを上下に振り回して喜びを謳っている、その仕草にクロードにもティオフィラの頑張りが理解できた。
 彼が口にした素直な賞賛の言葉に、ティオフィラは鼻を高くして喜んでみせる。
 彼女の傾けた頭の角度は、それを撫でてとリクエストしていた。

「・・・ボクも頑張った」
「お、おう。そうだな、よく頑張ったなイダ!」
「・・・エヘへ」

 ずっと魔法の対象とされていたためか、僅かに草臥れた様子のイダがクロードの裾を引っ張る。
 彼女の控えめなアピールに始めは驚いたクロードも、その姿を見れば頭を撫でるのに躊躇いはなかった。

「良かったわね。でも、確か弱体魔法は難しいんじゃなかったかしら?ティオちゃんに才能あるのは知っていたけど、そんなすぐに出来るようになるものなの?」
「えっと、それは・・・弱体魔法には対象と接触しながら使うっていう方法があって。それだと相手の抵抗を通しやすくなったり、魔力の消耗が抑えられたりするの」
「へぇ?なんだか、いい事ずくめに聞こえるのだけど・・・どうして今までそうしなかったの?それに、そんないい方法なのに私は聞いたこともなかった」

 クロードに頭を撫でられてご機嫌な二人を眺めていたクラリッサは、声を潜めるとアンナに疑問を投げかけた。
 彼女のもっともな疑問に、アンナは言葉を選ぶとゆっくりと種明かしを始める。
 その説明は最適な解決法を話していたが、あまりに有用なその手法にクラリッサには逆に疑問が深まっていた。

「うーん、それはそうなんだけど・・・ほら、魔法使いって基本的に前線に出ないから。そんな風な使い方をする人ってほとんどいないの、だからあんまり知られていないのかなって」
「なるほど、ね。確かにそんな感じよね、でも・・・ティオちゃんなら使いこなせる?」
「うん、私はそう思う」

 基本的に後衛で守られる存在の魔法使いの、さらに支援がメインの付与魔術師は前線に出る事が極端に少ない。
 彼らは敵と接触して弱体魔法を掛けるぐらいなら、素直に技量を磨く事に注力するだろう。
 そのためアンナがティオフィラに試させた方法が、世に知られていなかったのは仕方のないことだった。

「ぅぅうう、ぅぅうわぁぁぁぁ~ん!!嫌にゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「おおっ!?ど、どうした!?あれか?痛かったのか!?」

 急に泣き出したティオフィラにおろおろとうろたえるクロードは、彼女をあやすように抱きしめる事しか出来なかった。
 彼女の資質に光明を見出していたクラリッサとアンナも、それには驚いて慌てて駆け寄ってくる。
 一人どこか冷静なイダだけが、泣き叫ぶ彼女の背中を優しく擦ってあげていた。
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