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トージロー
伝説はこうして生まれる
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「この声は・・・そうか、終わったのか」
遠く城門で上がった雄叫びは、この広場にも届いている。
それはドラクロワとの戦いの終わりにはしゃいでいる、この広場の者達の声に多くは掻き消されてしまっていたが、それでもそれを耳にしたものは確かにいた。
それを耳にした者の一人、この街の領主であるリータスはそちらへと顔を向けると静かに呟いている。
その顔には深い疲労の色が浮かんでいたが、それでもどこかやり切った達成感が滲んでいた。
「いや、まだだ!まだ終わっていないぞ、リータス!!おい、誰か動ける者はいないのか!?残党の制圧に向かうぞ!!それが終わったら、各門のチェックだ!何を休んでいる、まだ仕事は終わっていないのだぞ!!」
絶望の状況を何とか乗り切った達成感に、思わず膝を折ってしまいそうだったリータスは、自らの頬を叩いては気合を入れ直すと、周りへと指示を出している。
ドラクロワが倒された今、彼が支配した眷属達はその活動を止めているか、場合によっては消滅しているかもしれない。
しかしその残党がこの街のどこかで活動している可能性がある以上、領主であるリータスの仕事はまだまだ残っているのだ。
そんな彼の声に応える者は少なかったが、彼の直接の部下である兵士や、まだ動ける一部の冒険者達がそれにノロノロと集まっていっている。
元々ドラクロワはこの街を支配し、ここをオーガトロルの養殖場としようとしていたためか、蹴散らした冒険者達も後で眷属として支配するために、その息の根までは止めてはいなかったようだ。
そのためかドラクロワとの戦いを決着がついた今、彼らは自らを守るための死んだふりを止めて、置き上がっては各々に呻き声を上げ始めていた。
「動けないものには早く手当てを!これ以上、無駄に被害を出させるな!!集まったのはこれだけか?仕方あるまい・・・今は時間が惜しい、行くぞ!!」
予想以上に多い無事な者の姿に、リータスは彼らを手当てするように指示を出している。
そしてそうして動けない者達の姿を見れば、ここに集まった者達の数は限界であることも理解することが出来る。
その心もとない数にも妥協するしかないと踏み切ったリータスは、身体を翻すと集まった者達を引き連れて広場を離れていく。
彼の背後では、嬉しそうにお互いの無事や勝利を謳っている人々の声が響いていた。
「・・・馬鹿な連中め、このドラクロワ・レーテンベルグ様があの程度やられる訳があるまい。一瞬、焦りはしたがな・・・」
勝利に湧き上がる広場の片隅、石畳のすぐ上で不気味に笑う声がする。
それは、彼らが勝利した筈のドラクロワの声であった。
「ふふふ・・・こんな時に備えて、あの時引き千切れられた指をそのままにしていたのだ!その所為で、少々不格好な格好だがな。何、それも後数十年もすれば元通りになる。そうなった暁には覚えておれよ、必ず・・・必ず復讐してやるからな!!」
どうやらドラクロワは、トージローによって切り飛ばされてしまった指先から再生したようだった。
そのためか彼の身体はとても小さく、余りに素材が足りないためか人間形態になることも出来ずに、芋虫のような姿で地面を這いずっていた。
「ふふ、ふふふふっ、その時には一人の残らずこう・・・けちょんけちょんに踏みつけては、むごたらしく殺してくれるわ!!今はこのような醜い姿に落ちぶれようとも、我は高貴たる吸血鬼である!!それをこうまで貶めたことを、必ず後悔―――」
地面を這いずっているドラクロワは、その身体をくねくねとくねらせては何やら喚いている。
その声は虫のサイズに相応しくとても密やかであり、勝利に沸いているこの広場の騒ぎの中にあっては誰の耳にも届かないだろう。
「・・・じー」
しかしそのくねくねと奇妙な動きを見せる虫の姿に、興味を引かれる者ならばいた。
それはまだまだ幼く年端もいかない年齢であり、そうしたものが好きで堪らない年頃の少女、メイであった。
「っ!?き、気づかれたのか!?いや、まさかこの私があのドラクロワなどと気づく訳がない!!今の私は、こんな醜い虫の姿なのだから!!」
膝を屈め、地面を這いずるドラクロワの姿をじーっと見詰めるメイの視線に、彼はびくりと身体を震わせている。
明らかにこちらに注目し、じっと視線を向けてくるメイにドラクロワは正体がバレてしまったのかと焦るが、彼はそんな訳はないと確信していた。
何故ならば、今の彼の姿はあの偉大な吸血鬼の姿ではなく、醜い虫の姿なのだから。
「おーい!何やってんだ、行くぞメイー!何かギルドで祝勝会ってのをやるってよ。俺達も行っていいって、さっき赤毛の姉ちゃんが言ってたぞー」
「・・・んー、分かったー」
ダラダラと内心で冷や汗を大量に流しているドラクロワが、必死に彼の考える虫らしい振る舞いをしていると、メイの背後から彼女を呼ぶ声がしていた。
それは彼女の事を呼ぶ、ルイスの声だ。
それに目の前のドラクロワの姿をじっと見詰めながらしばらく考え込んでいた彼女は、やがて立ち上がるとルイスの方へと駆けていく。
「・・・行ったか?行ったな・・・ふははははっ!!やはりな、所詮は下等生物よ!!このドラクロワの華麗な変装を見破る事など出来る訳がないのだ!!ふんっ!下等生物の分際で、冷や汗を掻かせおって!!身の程を知れと言うのだ!!」
去っていく足音が十分に遠ざかったのをしっかりと確認したドラクロワは、その細長い身体を仰け反らせると勝利の笑い声を響かせている。
こんな状況にあっても地面を這いずる虫に興味の視線を向ける子供など、この場にはその二人しかいないだろう。
その二人が遠ざかっていった今、もはや彼を脅かす存在などこの場にはいない。
それを確信したドラクロワは、高らかに勝利を謳っていた。
「・・・ルイス兄、それ何?」
「ん、これか?その辺で拾ったんだよ、何かの役に立つかもしんないだろ?」
「・・・無駄、ゴミ、ルイス兄センスゼロ」
そんなドラクロワの背後では、メイとルイスがのんびりとした会話を行っている。
ルイスへと駆け寄ったメイは、彼が手にしていた何やら銀色に光り輝くものを指差しては、それが何かと彼に尋ねていた。
それを拾ったのだと誇らしそうに掲げて見せるルイスに、メイは容赦のない感想を彼へと叩きつけていた。
「ちぇー!これも駄目なのかよー!ったく、メイのお眼鏡は厳しいなー」
「・・・それいらない、捨てて」
「はいはい、分かってますよっと」
メイの厳しい指摘に悔しそうに頭を掻いたルイスは、それを捨てろと言う彼女の指示に従って、素直にそれを放り捨てている。
その適当な手つきは、彼の背後へと放物線を描き、それは偶然にもドラクロワに向かって真っ直ぐに突き進んでいた。
「はーっはっはっは・・・ん?何だあれは・・・?お、おい!?ま、まさか・・・そんな馬鹿な!!?」
勝ち誇り、その細長い身体を仰け反らせては笑い声を響かせていたドラクロワは、その姿勢にゆっくりとこちらに落ちてくるそれの姿に気づいていた。
その小さな影に始めは訝しんでいただけの彼もやがて気づくだろう、それが真っ直ぐにこちらに向かって飛んできていることに。
「ふ、ふざけるな!!こ、こんな事・・・こんな事で終わってたまるかぁぁぁ!!!」
いくら強力な再生能力を有している吸血鬼といえど、ここまで弱った状態でそんな攻撃を受けてしまえば、いよいよ止めになってしまう。
それを誰よりも理解しているドラクロワは、慌ててその場から退避しようとしていた。
彼は叫ぶ、こんなふざけた終わり方は嫌だと。
「くっ!?この身体の動きには慣れていな・・・ぐあああぁぁぁ!!!?」
しかし、どんなに必死に逃げようとしても、その虫の身体は素早く動ける訳もない。
ましてやそんな姿に変身した経験などなく、まともに動かすノウハウも知らないドラクロワに、猛スピードで落下してくるそれを避ける事など、始めから不可能であったのだ。
ドラクロワの身体は落下したそれに貫かれ、地面へと縫いつかれてしまっていた。
その彼がかつて一番太い部分だけを潰した放り捨てていた、銀の杭によって。
「ば、馬鹿な・・・私がこんな所で終わるだと?そんな事が、そんな事があってたまるかぁぁぁ!!?」
そうして、ドラクロワは消滅した。
その伝説の通り、銀の杭に貫かれて。
遠く城門で上がった雄叫びは、この広場にも届いている。
それはドラクロワとの戦いの終わりにはしゃいでいる、この広場の者達の声に多くは掻き消されてしまっていたが、それでもそれを耳にしたものは確かにいた。
それを耳にした者の一人、この街の領主であるリータスはそちらへと顔を向けると静かに呟いている。
その顔には深い疲労の色が浮かんでいたが、それでもどこかやり切った達成感が滲んでいた。
「いや、まだだ!まだ終わっていないぞ、リータス!!おい、誰か動ける者はいないのか!?残党の制圧に向かうぞ!!それが終わったら、各門のチェックだ!何を休んでいる、まだ仕事は終わっていないのだぞ!!」
絶望の状況を何とか乗り切った達成感に、思わず膝を折ってしまいそうだったリータスは、自らの頬を叩いては気合を入れ直すと、周りへと指示を出している。
ドラクロワが倒された今、彼が支配した眷属達はその活動を止めているか、場合によっては消滅しているかもしれない。
しかしその残党がこの街のどこかで活動している可能性がある以上、領主であるリータスの仕事はまだまだ残っているのだ。
そんな彼の声に応える者は少なかったが、彼の直接の部下である兵士や、まだ動ける一部の冒険者達がそれにノロノロと集まっていっている。
元々ドラクロワはこの街を支配し、ここをオーガトロルの養殖場としようとしていたためか、蹴散らした冒険者達も後で眷属として支配するために、その息の根までは止めてはいなかったようだ。
そのためかドラクロワとの戦いを決着がついた今、彼らは自らを守るための死んだふりを止めて、置き上がっては各々に呻き声を上げ始めていた。
「動けないものには早く手当てを!これ以上、無駄に被害を出させるな!!集まったのはこれだけか?仕方あるまい・・・今は時間が惜しい、行くぞ!!」
予想以上に多い無事な者の姿に、リータスは彼らを手当てするように指示を出している。
そしてそうして動けない者達の姿を見れば、ここに集まった者達の数は限界であることも理解することが出来る。
その心もとない数にも妥協するしかないと踏み切ったリータスは、身体を翻すと集まった者達を引き連れて広場を離れていく。
彼の背後では、嬉しそうにお互いの無事や勝利を謳っている人々の声が響いていた。
「・・・馬鹿な連中め、このドラクロワ・レーテンベルグ様があの程度やられる訳があるまい。一瞬、焦りはしたがな・・・」
勝利に湧き上がる広場の片隅、石畳のすぐ上で不気味に笑う声がする。
それは、彼らが勝利した筈のドラクロワの声であった。
「ふふふ・・・こんな時に備えて、あの時引き千切れられた指をそのままにしていたのだ!その所為で、少々不格好な格好だがな。何、それも後数十年もすれば元通りになる。そうなった暁には覚えておれよ、必ず・・・必ず復讐してやるからな!!」
どうやらドラクロワは、トージローによって切り飛ばされてしまった指先から再生したようだった。
そのためか彼の身体はとても小さく、余りに素材が足りないためか人間形態になることも出来ずに、芋虫のような姿で地面を這いずっていた。
「ふふ、ふふふふっ、その時には一人の残らずこう・・・けちょんけちょんに踏みつけては、むごたらしく殺してくれるわ!!今はこのような醜い姿に落ちぶれようとも、我は高貴たる吸血鬼である!!それをこうまで貶めたことを、必ず後悔―――」
地面を這いずっているドラクロワは、その身体をくねくねとくねらせては何やら喚いている。
その声は虫のサイズに相応しくとても密やかであり、勝利に沸いているこの広場の騒ぎの中にあっては誰の耳にも届かないだろう。
「・・・じー」
しかしそのくねくねと奇妙な動きを見せる虫の姿に、興味を引かれる者ならばいた。
それはまだまだ幼く年端もいかない年齢であり、そうしたものが好きで堪らない年頃の少女、メイであった。
「っ!?き、気づかれたのか!?いや、まさかこの私があのドラクロワなどと気づく訳がない!!今の私は、こんな醜い虫の姿なのだから!!」
膝を屈め、地面を這いずるドラクロワの姿をじーっと見詰めるメイの視線に、彼はびくりと身体を震わせている。
明らかにこちらに注目し、じっと視線を向けてくるメイにドラクロワは正体がバレてしまったのかと焦るが、彼はそんな訳はないと確信していた。
何故ならば、今の彼の姿はあの偉大な吸血鬼の姿ではなく、醜い虫の姿なのだから。
「おーい!何やってんだ、行くぞメイー!何かギルドで祝勝会ってのをやるってよ。俺達も行っていいって、さっき赤毛の姉ちゃんが言ってたぞー」
「・・・んー、分かったー」
ダラダラと内心で冷や汗を大量に流しているドラクロワが、必死に彼の考える虫らしい振る舞いをしていると、メイの背後から彼女を呼ぶ声がしていた。
それは彼女の事を呼ぶ、ルイスの声だ。
それに目の前のドラクロワの姿をじっと見詰めながらしばらく考え込んでいた彼女は、やがて立ち上がるとルイスの方へと駆けていく。
「・・・行ったか?行ったな・・・ふははははっ!!やはりな、所詮は下等生物よ!!このドラクロワの華麗な変装を見破る事など出来る訳がないのだ!!ふんっ!下等生物の分際で、冷や汗を掻かせおって!!身の程を知れと言うのだ!!」
去っていく足音が十分に遠ざかったのをしっかりと確認したドラクロワは、その細長い身体を仰け反らせると勝利の笑い声を響かせている。
こんな状況にあっても地面を這いずる虫に興味の視線を向ける子供など、この場にはその二人しかいないだろう。
その二人が遠ざかっていった今、もはや彼を脅かす存在などこの場にはいない。
それを確信したドラクロワは、高らかに勝利を謳っていた。
「・・・ルイス兄、それ何?」
「ん、これか?その辺で拾ったんだよ、何かの役に立つかもしんないだろ?」
「・・・無駄、ゴミ、ルイス兄センスゼロ」
そんなドラクロワの背後では、メイとルイスがのんびりとした会話を行っている。
ルイスへと駆け寄ったメイは、彼が手にしていた何やら銀色に光り輝くものを指差しては、それが何かと彼に尋ねていた。
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「ちぇー!これも駄目なのかよー!ったく、メイのお眼鏡は厳しいなー」
「・・・それいらない、捨てて」
「はいはい、分かってますよっと」
メイの厳しい指摘に悔しそうに頭を掻いたルイスは、それを捨てろと言う彼女の指示に従って、素直にそれを放り捨てている。
その適当な手つきは、彼の背後へと放物線を描き、それは偶然にもドラクロワに向かって真っ直ぐに突き進んでいた。
「はーっはっはっは・・・ん?何だあれは・・・?お、おい!?ま、まさか・・・そんな馬鹿な!!?」
勝ち誇り、その細長い身体を仰け反らせては笑い声を響かせていたドラクロワは、その姿勢にゆっくりとこちらに落ちてくるそれの姿に気づいていた。
その小さな影に始めは訝しんでいただけの彼もやがて気づくだろう、それが真っ直ぐにこちらに向かって飛んできていることに。
「ふ、ふざけるな!!こ、こんな事・・・こんな事で終わってたまるかぁぁぁ!!!」
いくら強力な再生能力を有している吸血鬼といえど、ここまで弱った状態でそんな攻撃を受けてしまえば、いよいよ止めになってしまう。
それを誰よりも理解しているドラクロワは、慌ててその場から退避しようとしていた。
彼は叫ぶ、こんなふざけた終わり方は嫌だと。
「くっ!?この身体の動きには慣れていな・・・ぐあああぁぁぁ!!!?」
しかし、どんなに必死に逃げようとしても、その虫の身体は素早く動ける訳もない。
ましてやそんな姿に変身した経験などなく、まともに動かすノウハウも知らないドラクロワに、猛スピードで落下してくるそれを避ける事など、始めから不可能であったのだ。
ドラクロワの身体は落下したそれに貫かれ、地面へと縫いつかれてしまっていた。
その彼がかつて一番太い部分だけを潰した放り捨てていた、銀の杭によって。
「ば、馬鹿な・・・私がこんな所で終わるだと?そんな事が、そんな事があってたまるかぁぁぁ!!?」
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