ボケ老人無双

斑目 ごたく

文字の大きさ
上 下
18 / 78
冒険の始まり

オーガトロルとの戦い 2

しおりを挟む
「はー・・・何だかもう、馬鹿馬鹿しくなってきちゃった。トージロー、適当にやっちゃって。ほら、これを持つの」

 死の恐怖から一転して、トージローの惚けた振る舞いを突きつけられたカレンは、そのギャップに疲れ果て深々と溜め息を吐いてしまう。
 そして全てが面倒臭くなってしまった彼女は、トージローの腰から剣を引き抜き、彼の手に無理やりそれを握らせていた。

「グルルルゥゥゥ・・・グガアアァァァ!!!」

 カレンを食い破る寸前に割り込んできたトージローの存在を警戒し、距離を取りこちらの様子を窺っていたオーガトロルも、彼が剣という明確な武器を手にすれば、もはやじっとしてもいられない。
 オーガトロルは雄叫びを上げると、その得物を振り上げてトージローの下へと一直線に突撃してくる。

「これを・・・っと、ほらちゃんとして!」
「飯か?これが終わったら飯なんか?」
「はいはい、飯よ飯。これが終わったら、ちゃんと食べさせてあげるから。ほら、頑張って」

 そんな脅威が迫っても、カレンとトージローはのんびりとしたやり取りを行っていた。
 トージローの後ろへと回り、その剣を握り締めさせた腕を無理やり振り上げようとしているカレンに対して、トージローは何度も要求している飯の話を持ち出している。
 それに適当に頷いたカレンは何とか彼の腕を振り上げさせることに成功し、それをさっそく振り下ろそうとしていた。

「それっ!!・・・あれ、何も起こらない?何でだろ、おかしいな?あの時はこんな感じで、私が苦労して倒したゴブリンを消し飛ばしたのに・・・」

 掛け声と共にトージローの腕を無理やり振り下ろしたカレンは、それによって齎される破壊を予感して目を瞑っている。
 しかし何かがおかしいと感じたカレンはすぐに目を開くと、何も起こっていない目の前の景色に首を捻っていた。

「あぁ、そっか!あの時は、くしゃみした拍子に振り下ろしたんだった!!え、何トージロー・・・あんたその力、自分でコントロール出来ないの?ちょっと、しっかりしてよ!」
「ほぁ?」

 そして疑問に首を捻っていたカレンは、今とあの時の違いを思い出すと、驚きの声を上げる。
 それは、くしゃみの有無であった。

「はー・・・これだもんなぁ。仕方ない、とりあえず鼻をくすぐってくしゃみをさせるしか・・・こら!嫌がらないの!!これしか方法がないんだから!!私だって仕方なくやってるんだからね!?」

 くしゃみという偶発的な要素に頼らなければ力のコントロールも碌に出来ない、そんな事実にカレンが頭を抱えても、トージローは呆けた表情を見せるばかり。
 カレンはそんなトージローの姿に深々と溜め息を漏らすと、服の端っこを引き千切ってはこよりを作っている。
 それを使ってトージローの鼻をくすぐり、くしゃみを出させようとするカレンに、彼は嫌だ嫌だと顔を背けてしまっていた。

「・・・ぅぁ?っ、気を失っちまってたのか?一体、どうなって・・・るん、だ?」

 オーガトロルに打ち倒され、今まで気を失っていたタックスが何とか意識を取り戻す。
 朦朧とする意識を取り戻すように軽く頭を振るっていた彼が目にしたのは、トージローを羽交い絞めにして、その鼻へとこよりを突っ込もうとしているカレンの姿だった。

「嬢ちゃん、何をやって・・・っ!?嬢ちゃん、危ねぇ!!」

 そしてその向こう側から迫る、オーガトロルの姿も。
 もはやカレン達の目の前にまで迫ったその姿に、タックスは警戒の声を上げる。
 それは彼からすれば当然の行動であったが、この状況においては悪手であった。
 何故ならば―――。

「ほぁ?誰かわしの事を呼んだかいのぅ?」
「あ、ちょっと!?そっちじゃないっての!!」

 その声に釣られて、トージローが振り向いてしまうから。
 本来の身体能力からすれば圧倒的な差のある二人に、カレンはトージローを押し留めておくことが出来ず、逆に彼に持っていかれるように身体を振り回されている。
 そうして身体ごと振り向いてしまったトージローに、その掲げたままの剣はタックス達の方へと向いていた。

「ちょ・・・そっちは不味いんだって!!っ!?こんな時に風が・・・あぁ!?こよりがぁ!!?」

 見当違いの方向へと振り向いてしまったトージローを、カレンは必死に元の方向へと戻そうとしているが、圧倒的な力の違いにそれは中々うまくいかない。
 そうこうしている間にこの森に強い風が吹き込み、周辺の木々から一斉に花粉が吹き上がり、木の葉が舞い散る。
 そしてそれに気を取られたカレンは、トージローをくしゃみさせるために必要なこよりを、風に攫われてしまっていた。

「ふぇ、ふぇ・・・」
「ちょっと、嘘でしょ!?こんなタイミングで!?」

 そして吹き上がった花粉か、それとも舞い散った木の葉がその鼻をくすぐったのか、トージローは鼻をむずむずと動かしてはくしゃみの予兆を見せ始めていた。
 しかしそれでは不味いのだ、今彼はオーガトロルの方ではなく、タックスやグルドが倒れ伏している方を向いているのだから。

「ちょ、ちょっと我慢出来ない、トージロー?お願い、少しだけ我慢して!!」
「いや、そんな場合じゃないだろ!?いいからそこから逃げるんだ!!」
「あぁもう!!ややこしいから、あんたはちょっと黙ってて!!!」

 迫りくる最悪の事態に、カレンは必死にトージローへと呼び掛けてはくしゃみを我慢させようとしている。
 そんな彼女の姿に、タックスはなにを悠長なことをしているのだと叫ぶ。
 その声にトージローの注意がまたしてもそちらに向いてしまわないかと危惧するカレンは、彼へと指を突きつけると、お前はいいから黙ってろと叫んでいた。

「ガアアァァァァッ!!!」
「ふぇ、ふぇ・・・」

 背後に迫るオーガトロルも、もはやその息遣いが感じられるほどに近づいている。
 そしてトージローのくしゃみの予兆も、もはや引き返せない所まで来ているようだった。

「あぁぁぁぁ!!もう、どうなっても知らないから!!!」

 ここまで来たらもはや止めようもないと、カレンは全身の力を振り絞って、トージローの身体を無理やり前へと、つまりオーガトロルの方へと振り向かせる。
 それが成功したかどうかを確認する暇もなく、彼女は逃げるように転がりだし、小さくなっては目を瞑る。

「ふぇぇぇっくしょん!!!」

 そしてそれは、放たれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

処理中です...