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冒険の始まり
うっかり
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「それじゃ、行ってきまーす。あ、ここの食事美味しいですよね!帰ったらまた寄るんで、その時はお勧め教えてくださいねー」
依頼の記された紙だろうか、それをひらひらと揺らしながらカレンはギルドの扉を押し開こうとしている。
「ちょ、ちょっと待ってくださいカレンさん!その依頼は駄目ですって!!」
「え、駄目って・・・何で?」
そんな彼女を、赤毛の受付嬢エステルが慌てて引き留めている。
エステルは受付のカウンターから飛び出てくると、カレンの腕を引いては何とか彼女を引き留めていた。
「その依頼はエクスプローラー級以上を対象にしたものですから、カレンさんにはまだ受けられないんです!」
「えーっと、じゃあこの依頼はもっと上の人達が受ける用ってこと?」
「そうです!ですから・・・」
「えー?これを受けちゃ駄目ー?私、これがやりたいなー。ほら、そういうのをこなした方が一気に上に上がれるんでしょ?」
エステルが何故引き留めてくるのか分からないと首を捻るカレンに、彼女はその手から依頼書を奪うと、その紙面に記されたマークのようなものを示している。
エステルによればそれがその依頼を受けられる冒険者の階級を示しているようだったが、カレンはその説明を聞いても何とかそれが受けられないかと彼女におねだりしていた。
「駄目です、規則ですから!!そういうのは、全ての冒険者に発令される特別依頼とか緊急依頼の時にでも頑張ってください!」
「えー、どうしても駄目ー?」
「駄目です!とにかく規則は守ってもらいますから・・・カレンさんが今受けられる依頼というと、これとかですね」
それをにべもなく却下したエステルは、近くの掲示板に張り出されている依頼書を眺めると、そこから一つ取ってそれをカレンへと渡していた。
「んー、仕方ないか。その、規則のお陰でトージローも冒険者に慣れたんだし・・・じゃ、私達はこの依頼に行ってくるから、後はよろしくー」
エステルから新たな依頼書を受け取ったカレンは、唇を尖らせながら不満を滲ませるものの、規則ならば仕方がないと納得を示している。
そうしてその規則によって冒険者となったトージローへと視線を向けた彼女は、彼と共にこの場を後にしていく。
その後には、トージローもふらふらとした足取りでついていっていた。
「行ってらっしゃーい・・・はぁ、どうしようこれ」
ギルドを出ていく二人に、愛想のいい笑顔を浮かべて手を振っていたエステルは、その二人が完全に立ち去ったのを確認すると深々と溜め息を吐く。
彼女の目の前、受付のカウンターの前には大男とその仲間達が折り重なるようにして倒れ伏していた。
「ただいま戻りましたー・・・うわぁ!?何ですかこれ?一体何があったんです、エステル先輩!?」
エステルが目の前の惨状に腕を組んで悩んでいると、カレン達と入れ違うようにして眼鏡を掛けた若いギルド職員がギルドへと帰ってくる。
「あー、ピーター君おかえりー。えーっと、これはねー・・・何て言うか、いつもの通過儀礼で新人側が返り討ちにしちゃったというか・・・うーん、簡単に言えばそんな感じかなー?」
その眼鏡を掛けた金髪の少年の疑問に答えようとするエステルは、そのこめかみに指を合わせると必死に頭を捻っている。
しかしそうして彼女が捻り出した答えは、酷く当たり障りのないものとなっていた。
「はぁ・・・そうなんですか。あ、これ受け取った書類です」
「あ、ありがとー。どうだった?ちゃんと受け取って貰えた?」
「普通に受け取って貰えましたよ?」
「えー、嘘だー!私の時はあんなに待たされたのにー!」
エステルの言葉に腑に落ちない様子で納得の言葉を呟いたピーターは、受付の前で倒れている男達を慎重に避けて受付まで辿り着くと、彼女に抱えていた書類を手渡している。
それを受け取ったエステルは、ピーターをお使いへとやった所に含むところがあるのか、どんな具合だったかを尋ねるが、彼はそれにあっけらかんと答えるばかり。
そんな彼の態度に、エステルは納得がいかないと唇を尖らせていた。
「先輩が何かやったんじゃないですか?」
「えー・・・そんな事ないと思うんだけどなー?ふふーん、やっぱり私が若くて可愛いから嫉妬してるのかな?」
「はいはい、冗談はそれぐらいにして。それより、その有望な新人冒険者というのは?もう依頼に向かっちゃったんですか?」
「冗談って、何さ!全く・・・え?その冒険者?その二人ならもう依頼に向かったわよ。ええと、確か・・・あったあった!ほらこれ、これに向かったの!」
エステルの不満に目蓋を下ろし、その目を半分にしたピーターはぞんざいな口調で彼女の不始末の方を疑っている。
そんなピーターの疑いの視線に、エステルは首を捻って考え込んでいたが、彼女やがて勝手に自分の可愛さが原因だと決めつけると、胸に手を当ててはむしろ誇らしそうな表情を浮かべていた。
「へー、何々・・・デカルテの森のゴブリン退治ですか。確かに新人には丁度良さそうな依頼ですけど・・・あそこって今、危険な魔物が出現したとかっていう話ありませんでしたっけ?ほら、ヒーロー級のデリックさんに調査を依頼した」
ピーターのぞんざいな扱いに対して抗議したエステルは、それでも彼の質問に答えようと棚を漁っては、カレン達が持っていったものと同じ依頼が書かれた紙を引っ張り出している。
それを受け取り、その内容へと視線を落としたピーターはその途中で顔を上げると、その依頼に何やら気になる点を見つけたと呟いていた。
「・・・あっ」
そしてそれは、どうやらエステルにも思い当たることがあるようだった。
依頼の記された紙だろうか、それをひらひらと揺らしながらカレンはギルドの扉を押し開こうとしている。
「ちょ、ちょっと待ってくださいカレンさん!その依頼は駄目ですって!!」
「え、駄目って・・・何で?」
そんな彼女を、赤毛の受付嬢エステルが慌てて引き留めている。
エステルは受付のカウンターから飛び出てくると、カレンの腕を引いては何とか彼女を引き留めていた。
「その依頼はエクスプローラー級以上を対象にしたものですから、カレンさんにはまだ受けられないんです!」
「えーっと、じゃあこの依頼はもっと上の人達が受ける用ってこと?」
「そうです!ですから・・・」
「えー?これを受けちゃ駄目ー?私、これがやりたいなー。ほら、そういうのをこなした方が一気に上に上がれるんでしょ?」
エステルが何故引き留めてくるのか分からないと首を捻るカレンに、彼女はその手から依頼書を奪うと、その紙面に記されたマークのようなものを示している。
エステルによればそれがその依頼を受けられる冒険者の階級を示しているようだったが、カレンはその説明を聞いても何とかそれが受けられないかと彼女におねだりしていた。
「駄目です、規則ですから!!そういうのは、全ての冒険者に発令される特別依頼とか緊急依頼の時にでも頑張ってください!」
「えー、どうしても駄目ー?」
「駄目です!とにかく規則は守ってもらいますから・・・カレンさんが今受けられる依頼というと、これとかですね」
それをにべもなく却下したエステルは、近くの掲示板に張り出されている依頼書を眺めると、そこから一つ取ってそれをカレンへと渡していた。
「んー、仕方ないか。その、規則のお陰でトージローも冒険者に慣れたんだし・・・じゃ、私達はこの依頼に行ってくるから、後はよろしくー」
エステルから新たな依頼書を受け取ったカレンは、唇を尖らせながら不満を滲ませるものの、規則ならば仕方がないと納得を示している。
そうしてその規則によって冒険者となったトージローへと視線を向けた彼女は、彼と共にこの場を後にしていく。
その後には、トージローもふらふらとした足取りでついていっていた。
「行ってらっしゃーい・・・はぁ、どうしようこれ」
ギルドを出ていく二人に、愛想のいい笑顔を浮かべて手を振っていたエステルは、その二人が完全に立ち去ったのを確認すると深々と溜め息を吐く。
彼女の目の前、受付のカウンターの前には大男とその仲間達が折り重なるようにして倒れ伏していた。
「ただいま戻りましたー・・・うわぁ!?何ですかこれ?一体何があったんです、エステル先輩!?」
エステルが目の前の惨状に腕を組んで悩んでいると、カレン達と入れ違うようにして眼鏡を掛けた若いギルド職員がギルドへと帰ってくる。
「あー、ピーター君おかえりー。えーっと、これはねー・・・何て言うか、いつもの通過儀礼で新人側が返り討ちにしちゃったというか・・・うーん、簡単に言えばそんな感じかなー?」
その眼鏡を掛けた金髪の少年の疑問に答えようとするエステルは、そのこめかみに指を合わせると必死に頭を捻っている。
しかしそうして彼女が捻り出した答えは、酷く当たり障りのないものとなっていた。
「はぁ・・・そうなんですか。あ、これ受け取った書類です」
「あ、ありがとー。どうだった?ちゃんと受け取って貰えた?」
「普通に受け取って貰えましたよ?」
「えー、嘘だー!私の時はあんなに待たされたのにー!」
エステルの言葉に腑に落ちない様子で納得の言葉を呟いたピーターは、受付の前で倒れている男達を慎重に避けて受付まで辿り着くと、彼女に抱えていた書類を手渡している。
それを受け取ったエステルは、ピーターをお使いへとやった所に含むところがあるのか、どんな具合だったかを尋ねるが、彼はそれにあっけらかんと答えるばかり。
そんな彼の態度に、エステルは納得がいかないと唇を尖らせていた。
「先輩が何かやったんじゃないですか?」
「えー・・・そんな事ないと思うんだけどなー?ふふーん、やっぱり私が若くて可愛いから嫉妬してるのかな?」
「はいはい、冗談はそれぐらいにして。それより、その有望な新人冒険者というのは?もう依頼に向かっちゃったんですか?」
「冗談って、何さ!全く・・・え?その冒険者?その二人ならもう依頼に向かったわよ。ええと、確か・・・あったあった!ほらこれ、これに向かったの!」
エステルの不満に目蓋を下ろし、その目を半分にしたピーターはぞんざいな口調で彼女の不始末の方を疑っている。
そんなピーターの疑いの視線に、エステルは首を捻って考え込んでいたが、彼女やがて勝手に自分の可愛さが原因だと決めつけると、胸に手を当ててはむしろ誇らしそうな表情を浮かべていた。
「へー、何々・・・デカルテの森のゴブリン退治ですか。確かに新人には丁度良さそうな依頼ですけど・・・あそこって今、危険な魔物が出現したとかっていう話ありませんでしたっけ?ほら、ヒーロー級のデリックさんに調査を依頼した」
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それを受け取り、その内容へと視線を落としたピーターはその途中で顔を上げると、その依頼に何やら気になる点を見つけたと呟いていた。
「・・・あっ」
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