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聖女と救世主
誰にも望まれないステージの上で 2
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「はははっ!いいぞー、そのまま焼き死んじまえー!!」
「そうだそうだ!!ルナ様を出さないんなら、それぐらい楽しませろー!!」
「いや、流石にそれは不味いだろ!?それより・・・ここも危ないんじゃないか?」
不満を抱えた観衆にとって、火のついた舞台は格好の対象であった。
ましてやそれに巻かれそうになっているクリスが、そこにいるのならば尚更。
彼らは笑い声を上げながら、クルスの姿を指差し煽る。
もちろん全ての観衆がそうではなかったが、多くの者はそれをあげつらっては楽しんでいるようだった。
「あぁ・・・そんなに・・・たいのか?」
度数の高いアルコールが燃える炎は、見た目は派手だがそれほど脅威ではない。
しかし木材で組まれた舞台に燃え移った炎は、いつかこの身を焼くだろう。
クルスはそんな炎に巻かれながら、ゆっくりと右手を掲げる。
「―――そんなに、奇跡が見たいのか?」
その右手からは、眩い光が溢れ始めていた。
どこかから、歓喜に濡れた声が響く。
「お、おい!?何だあれ?何か光ってないか?」
「あぁ?んな訳ねぇだろうが・・・ん?あれマジだな、何だありゃ?」
クルスの右手から放たれる眩さは、炎のそれや証明のそれとは明らかに違う。
そしてそれは日の光に紛れることなく、眩しく輝き続けている。
それはいつしか観衆の目も引き付け始め、各所でざわざわと騒ぎが起こりつつあった。
「―――そんなに見たいなら、見せてやるよ」
クルスの掲げた右手は、その眩さを最高潮にまで高めている。
それは奇跡の知らせだろう。
しかしこの場には癒すべき傷ついた人も、病に苦しむ人もいない。
ならばその奇跡の矛先は、どこに向かうのか。
クルスの身体へと纏わりついていた炎が、まるで意志を持ったかのように不自然に動き始める。
それは彼の右手へと伝い、何か別の生き物へと生まれ変わろうとしていた。
「っ!?に、逃げろーーー!!」
その時響いたその声は、危険をいち早く察した者が上げた声か。
いいや、違う。
それはもっと、別のものを指し示して叫んだ声であった。
「お、おい・・・何だあれ?こっちに来てないか?」
「っ!?や、やばい!?逃げろ・・・逃げろー!!」
それはクルスの背後、設えられた舞台の後ろから現れた巨大なシルエットであった。
それはいつか見かけたことのある巨大な姿、多くの人が組み合わさって形作られた巨人であった。
それが突如、この場に現れたからといって、ここまでに騒ぎになることはないだろう。
それが燃え盛り、今にも崩れ落ちそうな姿で現れなければ。
「あ、あれは・・・ファイヤーワークス兄弟だ!!」
「またあいつらかよ!?くそっ、こっち来るんじゃねー!!」
現れた巨人は、舞台を破壊しながら崩れて落ちる。
そこからは、中の人達が必死な形相で逃れてきていた。
しかし逃げ惑う群衆の注目は、そこにはない。
彼らは空のある一点を指差しては、そこに絶望の声を上げる。
「はははっ!!おいおい、その程度かい?兄貴よぉ!!?」
「ボルカノン!!取り消せ・・・先ほどの言葉を取り消せぇぇぇ!!!」
「はっはぁ!!俺に追いつけたらなぁ!!」
そこにはその全身に青い炎を立ち昇らせながら滑空するツンツン頭の青年と、それを両手両足を燃え盛らせながら猛烈な勢いで追いかける、真っ赤な髪を角刈りにした青年の姿があった。
「っ!?僕は・・・僕は、一体何をしていた?こんな力、使うべきじゃないのに・・・」
自らが起こしたのではない騒動に、クルスはようやく正気に戻ると、その奇跡の力を霧散させる。
それは図らずとも、彼の周囲の炎を消し去っていた。
「うわぁぁぁ!?こっちに・・・こっちに来やがったぁぁぁ!!?」
「くそっ!!こっちは駄目だ・・・向こうに、向こうに逃げろ!!」
兄と弟、どちらがやったのか分からないが、縺れ合った二つの炎は地上へと墜落していた。
それは丁度、舞台とは反対側にあたる広場の端であり、彼らから逃れたい群衆はパニック状態のまま舞台の方へと駆けこんできていた。
「えっ、うわぁ!?な、何が・・・えっ!?あれは、あの力は・・・奇跡―――」
押し寄せる群衆はやがて舞台へと駆けのぼり、その上に佇むクルスの事を突き飛ばす。
それに驚き顔を上げたクルスは、そこで始めてファイヤーワークス兄弟の姿を目にしていた。
「―――違う。あれは秘跡・・・奇跡とは、君のそれとは違う紛い物だよ」
「えっ?」
自らのそれと似た力の存在に、クルスは思わずそれを口にしている。
しかしそれを、すぐさま否定する存在がいた。
それは何か特殊な機構のついた眼鏡を嵌め、それでファイヤーワークスの事を観察していた少女であった。
「君は・・・?」
「おっと、ここももう危ないかな?それじゃ、またいつか。クルス・ジュウジー君」
訳の分からないことを一方的に口にする少女に、クルスは引き寄せられるように近づいていく。
しかしその手が届きそうな瞬間に、彼女は身を翻しどこかへと去って行ってしまう。
その最後の瞬間、眼鏡を外した彼女はその灰色の瞳を覗かせていた。
「ま、待って!もっと話を・・・う、うわぁぁぁ!!?」
去っていく謎の少女を引き留めようと声を上げたクルスはしかし、パニック状態の群衆に追いやられ、どこかへと運ばれてしまう。
「救世主様・・・?救世主様!!?一体どこに・・・どこに行ってしまわれたのですか?救世主様ーーー!!?」
クルスがどこかへと追いやられてしまった後には、ファイヤーワークス兄弟が争う激しい物音と誰がを追い求める悲し気な叫び声だけが響く。
その声は、いつまでも鳴りやむことはなかった。
「そうだそうだ!!ルナ様を出さないんなら、それぐらい楽しませろー!!」
「いや、流石にそれは不味いだろ!?それより・・・ここも危ないんじゃないか?」
不満を抱えた観衆にとって、火のついた舞台は格好の対象であった。
ましてやそれに巻かれそうになっているクリスが、そこにいるのならば尚更。
彼らは笑い声を上げながら、クルスの姿を指差し煽る。
もちろん全ての観衆がそうではなかったが、多くの者はそれをあげつらっては楽しんでいるようだった。
「あぁ・・・そんなに・・・たいのか?」
度数の高いアルコールが燃える炎は、見た目は派手だがそれほど脅威ではない。
しかし木材で組まれた舞台に燃え移った炎は、いつかこの身を焼くだろう。
クルスはそんな炎に巻かれながら、ゆっくりと右手を掲げる。
「―――そんなに、奇跡が見たいのか?」
その右手からは、眩い光が溢れ始めていた。
どこかから、歓喜に濡れた声が響く。
「お、おい!?何だあれ?何か光ってないか?」
「あぁ?んな訳ねぇだろうが・・・ん?あれマジだな、何だありゃ?」
クルスの右手から放たれる眩さは、炎のそれや証明のそれとは明らかに違う。
そしてそれは日の光に紛れることなく、眩しく輝き続けている。
それはいつしか観衆の目も引き付け始め、各所でざわざわと騒ぎが起こりつつあった。
「―――そんなに見たいなら、見せてやるよ」
クルスの掲げた右手は、その眩さを最高潮にまで高めている。
それは奇跡の知らせだろう。
しかしこの場には癒すべき傷ついた人も、病に苦しむ人もいない。
ならばその奇跡の矛先は、どこに向かうのか。
クルスの身体へと纏わりついていた炎が、まるで意志を持ったかのように不自然に動き始める。
それは彼の右手へと伝い、何か別の生き物へと生まれ変わろうとしていた。
「っ!?に、逃げろーーー!!」
その時響いたその声は、危険をいち早く察した者が上げた声か。
いいや、違う。
それはもっと、別のものを指し示して叫んだ声であった。
「お、おい・・・何だあれ?こっちに来てないか?」
「っ!?や、やばい!?逃げろ・・・逃げろー!!」
それはクルスの背後、設えられた舞台の後ろから現れた巨大なシルエットであった。
それはいつか見かけたことのある巨大な姿、多くの人が組み合わさって形作られた巨人であった。
それが突如、この場に現れたからといって、ここまでに騒ぎになることはないだろう。
それが燃え盛り、今にも崩れ落ちそうな姿で現れなければ。
「あ、あれは・・・ファイヤーワークス兄弟だ!!」
「またあいつらかよ!?くそっ、こっち来るんじゃねー!!」
現れた巨人は、舞台を破壊しながら崩れて落ちる。
そこからは、中の人達が必死な形相で逃れてきていた。
しかし逃げ惑う群衆の注目は、そこにはない。
彼らは空のある一点を指差しては、そこに絶望の声を上げる。
「はははっ!!おいおい、その程度かい?兄貴よぉ!!?」
「ボルカノン!!取り消せ・・・先ほどの言葉を取り消せぇぇぇ!!!」
「はっはぁ!!俺に追いつけたらなぁ!!」
そこにはその全身に青い炎を立ち昇らせながら滑空するツンツン頭の青年と、それを両手両足を燃え盛らせながら猛烈な勢いで追いかける、真っ赤な髪を角刈りにした青年の姿があった。
「っ!?僕は・・・僕は、一体何をしていた?こんな力、使うべきじゃないのに・・・」
自らが起こしたのではない騒動に、クルスはようやく正気に戻ると、その奇跡の力を霧散させる。
それは図らずとも、彼の周囲の炎を消し去っていた。
「うわぁぁぁ!?こっちに・・・こっちに来やがったぁぁぁ!!?」
「くそっ!!こっちは駄目だ・・・向こうに、向こうに逃げろ!!」
兄と弟、どちらがやったのか分からないが、縺れ合った二つの炎は地上へと墜落していた。
それは丁度、舞台とは反対側にあたる広場の端であり、彼らから逃れたい群衆はパニック状態のまま舞台の方へと駆けこんできていた。
「えっ、うわぁ!?な、何が・・・えっ!?あれは、あの力は・・・奇跡―――」
押し寄せる群衆はやがて舞台へと駆けのぼり、その上に佇むクルスの事を突き飛ばす。
それに驚き顔を上げたクルスは、そこで始めてファイヤーワークス兄弟の姿を目にしていた。
「―――違う。あれは秘跡・・・奇跡とは、君のそれとは違う紛い物だよ」
「えっ?」
自らのそれと似た力の存在に、クルスは思わずそれを口にしている。
しかしそれを、すぐさま否定する存在がいた。
それは何か特殊な機構のついた眼鏡を嵌め、それでファイヤーワークスの事を観察していた少女であった。
「君は・・・?」
「おっと、ここももう危ないかな?それじゃ、またいつか。クルス・ジュウジー君」
訳の分からないことを一方的に口にする少女に、クルスは引き寄せられるように近づいていく。
しかしその手が届きそうな瞬間に、彼女は身を翻しどこかへと去って行ってしまう。
その最後の瞬間、眼鏡を外した彼女はその灰色の瞳を覗かせていた。
「ま、待って!もっと話を・・・う、うわぁぁぁ!!?」
去っていく謎の少女を引き留めようと声を上げたクルスはしかし、パニック状態の群衆に追いやられ、どこかへと運ばれてしまう。
「救世主様・・・?救世主様!!?一体どこに・・・どこに行ってしまわれたのですか?救世主様ーーー!!?」
クルスがどこかへと追いやられてしまった後には、ファイヤーワークス兄弟が争う激しい物音と誰がを追い求める悲し気な叫び声だけが響く。
その声は、いつまでも鳴りやむことはなかった。
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