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始まりの村
虐殺 1
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「うぎゃぁぁぁぁっ!!?腕が、腕がぁぁぁ!!?」
「ひぃぃ!?来るな、来るなぁぁぁ!!?」
「あはっ、あははははっ。う、うまいか?お、俺の身体はうまい、ぎゃ!?」
食事の時間だと告げた彼女は、聖母のような笑顔を浮かべたまま我が子の食事を見守っている。
ただただ、それだけで彼女を取り囲んだ男達は壊滅していた。
いや、正確に言えば違う。
彼らは、食べられたのだ。
ルナ・ダークネスが使役する、何かによって。
「ほら、坊やたち。まんまがまだ残ってるわよ?きちんと最後まで、いただきましょうね?」
見えない何かに腰掛けては、ゆったりと自らの子供達の様子を見守っていたルナは、まだまだ食事は終わってはいないと彼らを嗾けている。
それは母親がぐずる子供を窘めるような優しい口調であったが、それを向けられる男達からすれば死刑宣告にも聞こえただろう。
事実、彼女の声に応えるように、まるで虫の鳴き声のような耳障りな音が辺りから鳴り響いていた。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!」
それはまるで、飢えた獣が歯を打ち鳴らす音のように聞こえる。
その奇妙な音色は根源的な恐怖を煽り、今までうまく木の陰に隠れ、戦況を見守っていた男ですらも正気を失わせていた。
恐怖のあまり正気を失い、隠れていた木の影から飛び出した男は、そのまま無我夢中でルナへと飛び掛かっていく。
「あら、そんな所にまだ隠れていたなんて・・・驚いたわね」
目に見えぬ恐怖に襲われた者達は、それから逃れようとただひたすらに遠くへと向かうだろう。
それらを追っていく恐怖達もまた、遠くへと向かっていく。
であるならば、発狂した男が向かう先には、何の備えもしていないルナが一人いるだけだ。
恐怖にかられた無謀はしかし、千載一遇のチャンスであるかもしれなかった。
「あああぁぁぁぁっ!!!」
目を血走らせ、口から泡を吹いている彼がそれに気づいている訳はない。
それでも、後は彼がその手にしたその粗末な作りの斧を振り下ろせば、終わりになる所までやってきていた。
そしてそれも今、振り下ろされ―――
「ぷぎゃ」
―――ることはない。
「あら、駄目じゃない。お行儀が悪いわよ?」
ルナ・ダークネスは相も変わらず優雅な姿勢で座っている。
見えない何かに、腰掛けて。
それは彼女がゆったりと体重を掛けてもなお余裕のある、巨大な何かであった。
その巨大な何かは、一撃の下に向かってきた男を叩き潰している。
今やもはや、彼が存在したことを証明するのは大量に撒き散らした返り血と、その足元に溜まった血溜まりだけであった。
「ふふふっ、まぁいいわ。さぁ、そろそろ済んだかしら?済んだわよね?では、早速先ほどの続きと参りましょう!!」
巨大な何かの雑な処理によって、その全身に返り血を浴びたルナはしかし、上機嫌であった。
それはこの場の処理が、それで一通り終わったからだろう。
腰を掛けた巨大な何かから立ち上がった彼女は上機嫌に両手を合わせると、飛びつくような素早さでクルスの下へとやって来る。
「お待たせいたしました、救世主様!さぁ、今度こそご覧ください!私めが貴方様にこの命を捧げるさまを!!」
返り血でその身を真っ赤に染めたルナは、恍惚で濡れる瞳でまたしても自らの胸へとナイフを突きつける。
その周りには、そんな彼女を心配するように、あるいは祝うように得体の知れない者達が集まってきていた。
それらは、クルスの身体にも這い上がってくる。
虫の歩くような指先は、ナメクジが這ったように血の跡を残していた。
「ひぃ!?」
目には見えない存在も、手に触れれば感触を残す。
自らの身体を這いまわる、小さく不快な存在にクルスは思わず悲鳴を漏らしてしまっていた。
ルナの恍惚に濡れた瞳が、一瞬の瞬きの後に冷たく色を変える。
「あぁ・・・そういえば、聞き忘れたおりました」
薄く開いた唇からは、深く沈んだ冷たい声色が聞こえる。
それに応じて騒ぎ出した得体の知れない者達は、この身体の上でさざ波のように鳴き声を上げ始めた。
血に塗れた、ルナの手の平がこの頬を濡らす。
「救世主様は、どうしてここに?彼らに誘拐されたのですか・・・それともまさか、私共からお逃げになったのでしょうか?」
可愛らしく小首を傾げ、問いかけるルナの声は優しい。
しかしその細く絞られた瞳の奥は、ぞっとするほどに冷たい輝きを放っていた。
「あぁ、申し訳ありません救世主様!そんなこと、ある訳がありませんわよね?ね、救世主様?」
無邪気なほどに真っ直ぐな信頼を向ける瞳が、確かな圧力を持って迫ってくる。
それは自らの信じる答え以外認めないという、明確な狂気であった。
「あぁ、駄目よ坊やたち。救世主様がそんなことする訳がないのだから。私共の神殿から飛び出したのだって、少し混乱してしまったから。そうなのでしょう、救世主様?」
得体の知れない者達が、一斉に歯を打ち鳴らす。
早く食べさせろと、色めき立つ。
それを窘めるルナは、願うような仕草でクルスへと手を伸ばしていた。
「さぁ、お答えください救世主様。この者達に誘拐されたと!止むを得ずここに連れてこられたのだと!!」
彼女の冷たい指先が、この喉元を汚す。
それはやがて、この喉を強く締め付けて呼吸を苦しくした。
ルナの瞳は既にクルスの姿に焦点を合わしておらず、その先の何かの姿を見ている。
待ちきれない得体の知れない何かが、クルスの身体を縛り付けていた縄を食い千切っていた。
「答えろ!!!」
食い千切られた縄に、自由になった手足はその巻き添えで肉を食まれていた。
その痛みと、打ち鳴らされる歯の音は死を予感させる。
しかしそれ以上に、この身体を持ち上げ締め付けるルナの両手に、限界はすぐそこにまで迫っていた。
「ひぃぃ!?来るな、来るなぁぁぁ!!?」
「あはっ、あははははっ。う、うまいか?お、俺の身体はうまい、ぎゃ!?」
食事の時間だと告げた彼女は、聖母のような笑顔を浮かべたまま我が子の食事を見守っている。
ただただ、それだけで彼女を取り囲んだ男達は壊滅していた。
いや、正確に言えば違う。
彼らは、食べられたのだ。
ルナ・ダークネスが使役する、何かによって。
「ほら、坊やたち。まんまがまだ残ってるわよ?きちんと最後まで、いただきましょうね?」
見えない何かに腰掛けては、ゆったりと自らの子供達の様子を見守っていたルナは、まだまだ食事は終わってはいないと彼らを嗾けている。
それは母親がぐずる子供を窘めるような優しい口調であったが、それを向けられる男達からすれば死刑宣告にも聞こえただろう。
事実、彼女の声に応えるように、まるで虫の鳴き声のような耳障りな音が辺りから鳴り響いていた。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!」
それはまるで、飢えた獣が歯を打ち鳴らす音のように聞こえる。
その奇妙な音色は根源的な恐怖を煽り、今までうまく木の陰に隠れ、戦況を見守っていた男ですらも正気を失わせていた。
恐怖のあまり正気を失い、隠れていた木の影から飛び出した男は、そのまま無我夢中でルナへと飛び掛かっていく。
「あら、そんな所にまだ隠れていたなんて・・・驚いたわね」
目に見えぬ恐怖に襲われた者達は、それから逃れようとただひたすらに遠くへと向かうだろう。
それらを追っていく恐怖達もまた、遠くへと向かっていく。
であるならば、発狂した男が向かう先には、何の備えもしていないルナが一人いるだけだ。
恐怖にかられた無謀はしかし、千載一遇のチャンスであるかもしれなかった。
「あああぁぁぁぁっ!!!」
目を血走らせ、口から泡を吹いている彼がそれに気づいている訳はない。
それでも、後は彼がその手にしたその粗末な作りの斧を振り下ろせば、終わりになる所までやってきていた。
そしてそれも今、振り下ろされ―――
「ぷぎゃ」
―――ることはない。
「あら、駄目じゃない。お行儀が悪いわよ?」
ルナ・ダークネスは相も変わらず優雅な姿勢で座っている。
見えない何かに、腰掛けて。
それは彼女がゆったりと体重を掛けてもなお余裕のある、巨大な何かであった。
その巨大な何かは、一撃の下に向かってきた男を叩き潰している。
今やもはや、彼が存在したことを証明するのは大量に撒き散らした返り血と、その足元に溜まった血溜まりだけであった。
「ふふふっ、まぁいいわ。さぁ、そろそろ済んだかしら?済んだわよね?では、早速先ほどの続きと参りましょう!!」
巨大な何かの雑な処理によって、その全身に返り血を浴びたルナはしかし、上機嫌であった。
それはこの場の処理が、それで一通り終わったからだろう。
腰を掛けた巨大な何かから立ち上がった彼女は上機嫌に両手を合わせると、飛びつくような素早さでクルスの下へとやって来る。
「お待たせいたしました、救世主様!さぁ、今度こそご覧ください!私めが貴方様にこの命を捧げるさまを!!」
返り血でその身を真っ赤に染めたルナは、恍惚で濡れる瞳でまたしても自らの胸へとナイフを突きつける。
その周りには、そんな彼女を心配するように、あるいは祝うように得体の知れない者達が集まってきていた。
それらは、クルスの身体にも這い上がってくる。
虫の歩くような指先は、ナメクジが這ったように血の跡を残していた。
「ひぃ!?」
目には見えない存在も、手に触れれば感触を残す。
自らの身体を這いまわる、小さく不快な存在にクルスは思わず悲鳴を漏らしてしまっていた。
ルナの恍惚に濡れた瞳が、一瞬の瞬きの後に冷たく色を変える。
「あぁ・・・そういえば、聞き忘れたおりました」
薄く開いた唇からは、深く沈んだ冷たい声色が聞こえる。
それに応じて騒ぎ出した得体の知れない者達は、この身体の上でさざ波のように鳴き声を上げ始めた。
血に塗れた、ルナの手の平がこの頬を濡らす。
「救世主様は、どうしてここに?彼らに誘拐されたのですか・・・それともまさか、私共からお逃げになったのでしょうか?」
可愛らしく小首を傾げ、問いかけるルナの声は優しい。
しかしその細く絞られた瞳の奥は、ぞっとするほどに冷たい輝きを放っていた。
「あぁ、申し訳ありません救世主様!そんなこと、ある訳がありませんわよね?ね、救世主様?」
無邪気なほどに真っ直ぐな信頼を向ける瞳が、確かな圧力を持って迫ってくる。
それは自らの信じる答え以外認めないという、明確な狂気であった。
「あぁ、駄目よ坊やたち。救世主様がそんなことする訳がないのだから。私共の神殿から飛び出したのだって、少し混乱してしまったから。そうなのでしょう、救世主様?」
得体の知れない者達が、一斉に歯を打ち鳴らす。
早く食べさせろと、色めき立つ。
それを窘めるルナは、願うような仕草でクルスへと手を伸ばしていた。
「さぁ、お答えください救世主様。この者達に誘拐されたと!止むを得ずここに連れてこられたのだと!!」
彼女の冷たい指先が、この喉元を汚す。
それはやがて、この喉を強く締め付けて呼吸を苦しくした。
ルナの瞳は既にクルスの姿に焦点を合わしておらず、その先の何かの姿を見ている。
待ちきれない得体の知れない何かが、クルスの身体を縛り付けていた縄を食い千切っていた。
「答えろ!!!」
食い千切られた縄に、自由になった手足はその巻き添えで肉を食まれていた。
その痛みと、打ち鳴らされる歯の音は死を予感させる。
しかしそれ以上に、この身体を持ち上げ締め付けるルナの両手に、限界はすぐそこにまで迫っていた。
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