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「きりりん、嬉しそうだね~」
隣で喜色満面の乾に、遠山千秋は間伸びした声で話しかけた。
「えっ、そうか?」
本人は無意識だったようで、指摘されてムニムニと頬を摘む。
「もしかして、あれ?かいちょーとこはちゃんが二人で祭り回ったから?」
「っ?!?!いいいいいいいやっ!?いや、ちち違くないがそうじゃなくてっ!!」
あまりにも分かりやすい反応に、遠山は苦笑した。これじゃあまりに西連寺が可哀想だ。一瞬でバレる。
「いいよ~、隠さなくて。かいちょーの様子でなんとなく察したから~」
おい統和、やっぱ分かりやすすぎてバレてるぞ。
自分のことは棚に上げて乾は心の中で嘆いた。
「普段からバチバチしてるイメージあったから一瞬違うかなって思ったんだけど~、あんなに全面から態度に出しちゃうと流石に分かっちゃうよねぇ」
普段西連寺が皆に見せている姿は俺様で自信家、そしてカリスマ性を持つ完璧超人であり、生徒達はそこに憧れたり心酔したり、嫌悪したりしているのでとても西連寺が恋愛面で苦悩しているなんて思っていない。
そもそも彼は転校生である藍野を好きという設定なので、本命が別と疑う生徒は一般生徒の中にはほぼいない。
それが吉と出るか凶と出るかは謎だったが、と溜め息を吐いた乾に、遠山はあっけらかんとした口調で続けた。
「まあ俺は分かってたけどね~、かいちょーが最初から純ちゃんのこと好きじゃないって」
「えっ、そうなのか?!」
「だってかいちょー、みんなが見てるとこではすっごく純ちゃんに構うけど俺たちしかいない時とかはめっちゃ対応が雑なんだもーん」
言われてみれば、生徒会室では基本藍野が西連寺に話しかけていて西連寺はそれに相槌を打っているだけ、というのがほとんどだった。食堂などの人目が多い場所では積極的に藍野を口説いていたというのに。
なるほど、と乾は納得しつつその意図を汲み取った。
多分統和は瑚珀の気を引きたかったんだろうな。その為に藍野を利用した。そう考えると、振り回されてるだけの藍野が少し気の毒に思えるが……まあ、トラブルメーカーみたいだしそこはプラマイゼロというやつか。
「でもざんねーん、俺こはちゃんのこと狙ってたんだけどなー。相手がかいちょーだとちょい難しいかもー?」
「………………お、俺は統和を応援するからな」
「きりりん修羅場想像してんのー?めっちゃ苦い顔してるー」
嘘なのか本当なのかよく分からないノリで笑う後輩を見ながら、でも確かにそう簡単なことではないだろうなと乾は思った。最近、龍神の態度がなんとなく軟化したというか、本当に偶にだが微笑むようになったという噂が流れていたからである。
そのため、元々信者は多かったのだが彼らに加えてさらにファンが増えたという。その増えたファンというのがまた問題で、これまで龍神の信者というのは彼の潔白さや風紀としての顔に惹かれていたのだが、今回増えたファン層は龍神の笑みというギャップにやられた者がほとんどなので、彼を恋愛対象として見る人間が増加したようだ。かっこいい、というイメージから可愛いに変化していると言っても過言ではない。
………ここだけの話、龍神セコム筆頭の風紀委員会がめちゃくちゃ目を光らせているらしい。
やれやれ、道はまだまだ長そうだ。
「……ん?」
幼馴染の恋路が茨の道のように思えて険しい顔をしていた乾の横で、遠山が首を傾げた。
「きりりん、あれ……」
つられるように遠山の指を追って、乾は目を疑った。
「…………え?」
そこにいたのは、件のトラブルメーカー藍野だった。
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