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しおりを挟む龍神side
ところで、西連寺はいつまでこの状態のままなのだろうか。そう思ってじっと見つめていると、見かねた稀吏が西連寺に声を掛け、手をつつく。
「ほら、統和。もう行くぞ」
途端、ハッとして我に返ったらしい西連寺ともろに視線がかち合った。
「っ?!…わーってる!!」
半ば叫ぶようにそう言うと、西連寺は横で一連のやり取りを傍観していた俺の手首を素早く掴んで歩き始めた。
は?
「おい?!西連寺、これはなん___」
こんな子供扱いされなくても俺は一人で歩ける、という抗議を込めて西連寺を引き留めようとして初めて、俺は気がついた。
俺の位置から見える西連寺の頬と耳が真っ赤になっている。それだけでなく、俺の手を掴む手も小刻みに震えているのが伝わった。
こいつ……怒っているんだろうか。そんなに嫌なら手なんか引かなくてもいいんだが。
途方に暮れて稀吏を振り返ると、意味ありげな微笑が返ってきた。犬みたいだと思っていたが読めないところもあるんだな。あれはどういう顔なのか。
助けは受け入れられなかったため、どうやら自分でなんとかするしかなさそうだ。空いている左手で服の袖口を引いた。
「手、無理に掴まなくていい」
ピクっ、と肩が跳ねて勢いよく西連寺が振り返った。
「無理してねぇっ!!……お前、なんか勘違いしてるだろ。俺は別に怒ってねぇよ」
じゃあなんでそんなに顔が赤いんだと思いながら西連寺を見やると、西連寺は俺からふいっと視線を外して少し小さい声で言った。
「…お前、祭り初めてなんだろ。稀吏から聞いた」
唐突な話題に戸惑いつつも頷くと、きゅっ、と手首に込められる力が少し強くなる。
「俺は一年の時からここの祭りに来てんだ。だから…………お、俺がお前を案内してやる。この手は案内しやすいようにと、あと……ここは人が多いから、迷子になんねーようにだ」
思わずまじまじと見つめる。逸らしている西連寺の横顔は耳まで真っ赤になっていて、けれど俺の手首を掴む手だけはしっかりとしていた。
口を開けば煽ってきたり嫌味を言う西連寺が、俺を気遣って手を引いてくれるなんて俄には信じられない。普段であればからかいか、変な食べ物でも食べたかと疑うだろう。
けれど、そう片付けるにはあまりにも真剣な顔をしていたものだから、そんな言葉を言うのも野暮なように思えた。代わりに、少し笑う。
「じゃあ、一方的に手を掴むのはやめないか。両者手を取らないとフェアじゃないだろう」
俺の言葉に西連寺は目を見開き、そして天を仰いだ。目元を片手で覆う。
「っは…………お前、マジで……タチ悪りぃぞ」
何だそれは。心外だな。
「性格に関してはお前よりはマシだと思うが?」
「違ぇよ……くそ、どうなっても知んねーぞ」
そう言い捨て、くしゃりと前髪を乱すと西連寺は俺の手を握った。もっと乱暴に取るのかと思っていたが、思いのほか西連寺の手は優しく、まるで大切なものをそっと触るような感じだった。
隣に立つと、西連寺が顔を背けながら言った。
「………浴衣、似合ってんじゃねーか」
いつもの西連寺からは考えられないくらい小さな声だったが、俺にはちゃんと聞こえた。驚くと同時に、笑みが溢れる。
「ありがとう」
礼を言うと、うるせぇいちいち言うな、と返ってくる。
俺は西連寺のことを誤解していたのかもしれない。こいつは案外、ちょっと不器用なだけなのかもしれないな。
それが知れただけで、来てよかったな、と思えた。
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