笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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龍神side



 俺は元々、龍神家とは全く関係を持たないただの子供だった。今俺が母上、父上と呼ぶ二人は俺とは全く血縁関係にない。


 

 本当の母の名前は、佐伯瑚登里という。




 母は美しかった。六歳やそこらの子供の頃の記憶が覚えているのだから、相当なものだったのではないかと思う。幼い頃話してくれた話だと母の両親は国際結婚だそうで、母はデンマーク人と日本人のハーフだと言っていた。


「だから瑚珀は、クォーターということになるのよ。私と同じように、デンマークの血が入っているの」



 静かに微笑んで話してくれる母の言葉を当時の俺は全て理解したわけではなかったが、俺は母と同じ髪色と青い瞳が好きだった。近所の人に「お母さんに似て綺麗な瞳ね」と言われると嬉しかったし、誇らしい気持ちになった。


 母が、大好きだったからだ。



 だが、そんな母は仕事が忙しく、一日中家にいない日がほとんどだった。経済的にもそんなに余裕がなかったようで、俺は幼稚園や保育園に行くことなく一人で家で過ごした。部屋にはあまり物がなく、やることがなかったので俺は大抵母が少しだけ持っていた文庫本を読んで、漢字を勉強したりした。おかげで読み書きはかなり上達した、と思う。




 俺には、父親と呼べる存在はいなかった。

 ……いや、正確にはいたのだろうが、母は父の存在に関しては絶対に口を割らなかった。

 だが、物心ついた時から既に父の存在がなかった俺は、父がいないことなど気にならなかった。むしろ、父親という存在すらよく知らなかった。






 ところが、ある日たまたま、外で母と懇意にしてくれている近所の女性が話している内容が俺に聞こえた。


 

「瑚登里ちゃん、何か困ったらすぐに言うのよ。瑚珀君もまだ小さいし、お父さんも居ないでしょう?何かあっても守ってくれる父親がいないんだから、気をつけないと」


「はい、ありがとうございます。十分気をつけます」





 その会話を聞いて俺は幼いながらに、「父親とは家族を守るものらしい」とぼんやり理解した。そしてどうやら、この家には守ってくれる人がいないので危険なのだそうだ。母を守ってくれる人がいないのは、当時の俺にとっては一大事だった。






 自分が、母を守らなくては。
 




 今振り返ってみると我ながら単純で拙い思考だなと思うが、あの時の俺は真剣だった。



 母を守るために俺はまず本を読み、そこに登場する『父親』を研究し口調を変えてみた。今では定着して俺の性格そのものになっているが、最初は強く見せるためだった。母は突然口調を変えた俺に驚いたが、よくある子供の成長だと思ったのか笑って相槌を打っていた。
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