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しおりを挟む「お前!ぶつかった時は謝らなきゃダメなんだぞ!!!」
「はあ!?意味わかんない、そっちがぶつかってきたんじゃん!廊下は走るなって習わなかったの??」
周囲の人間そっちのけで繰り広げられる口論を前に一瞬呆気に取られたが、気を取り直しまずは彼らを遠巻きにしている生徒たちに聞くことにした。見たところ、衝突事故のようだが……ふむ。
「少し聞きたいのだが、いいか」
「っえ?!は、はいっ!何なりと、風紀委員長様!!」
「この騒動は何が原因だ」
問えば、その生徒は狼狽えつつもきちんと答えてくれた。
「え、えーと、あの2年生の人が普通に歩いてたら、向こうから藍野が走ってきてあの人とぶつかってしまって…… それで怒った先輩と、藍野が口論になってます」
「そんな瑣末なことで……はぁ。なるほど、ありがとう。助かった」
「い、いえ!」
正論のようで暴論、それを振りかざしている藍野への憤りは最もだが、上級生らしく冷静に話しても良かったように思う。藍野は藍野で学ばなければならないことが多い。これは、どちらにも反省点ありだ。
「そこまでだ、両者落ち着け。口論はやめろ」
風紀委員として仲介しなくてはならないので、二人の間に割って入る。すると2人はそれぞれの反応を見せた。
「瑚珀!!!!」
「ふ、風紀委員長様?!」
藍野が嬉しそうに俺に飛びつきかけたので手で軽く制しておく。犬か、君は。なんとなくだが行動パターンが分かってきた気がする。
対照的に驚きとショックを顔に表しているのはぶつかられたという2年の生徒。俺が藍野の味方をしたと思われたのだろうか。
「ふ、風紀委員長様、僕を信じないのですか!?」
「俺はどちらか一方に味方をしている訳では無い。風紀としてこのような公共の場で口論をする事が好ましくないので注意に入っただけだ」
風紀委員長が誰かだけの味方になったら風紀失格だろう。誰かだけの味方になった風紀委員会なんて、無いのと同じくらい意味の無い組織だ。
「ここからは風紀の俺が対処する。関係の無い者は新入生歓迎会に戻れ」
そう呼びかけるとやっと、周囲に集まっていた生徒がざわざわしつつ三々五々散っていった。
残ったのは俺と三浦、ぶつかられた生徒とその取り巻き、そして藍野だけだ。
「さて、状況についてはあらかたそばに居た生徒から聞いたが……当事者からも聞かなくてはな。まずは2年の、君から話を聞こうか」
藍野相手だと時間がかかりそうだからな。先にぶつかられたという彼から聞いた方が効率が良さそうだ。
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「───つまり、君が友人と話しながら歩いていて、向こうから走ってきた藍野と衝突したと」
「はい……なのにあいつ、謝るどころか逆に怒ってきて、その上こっちに謝れとか言うんです!!マジ意味わかんない!!」
その時のことを思い出したのか憤慨する2年の彼を落ち着け、何となく把握した俺は次に藍野に話を聞くことにした。
「瑚珀!!やっぱり瑚珀は俺の味方だ!!です!!!」
「あいつがぶつかったのに謝ってこないんだ!」
「俺は何も悪くないのに!!!」
「瑚珀!!俺約束通り良い子に出来たから褒めてくれ!あ、下さい!!」
が、話にならないので以下にまとめる。
・藍野は廊下を走っていた。
・藍野からぶつかった。
・特に謝罪はしていない。
……聞くだけ無駄だった感はあるな。
「まず藍野、お前はぶつかった側として謝るべきだ。廊下を走るのもいただけないが、新歓中だしこれは大目に見る。2年の君は、もう少し穏やかに注意できると良かったな」
「はい……すみませんでした」
俺の言葉にしゅん、と落ち込んだ様子の彼はすっかり反省しているようで、この感じならもう大丈夫だろう。そう安堵すると、横から藍野が大声で怒鳴った。
「何でだよ!!俺は悪くないだろ?!」
「…怪我をするかもしれない状況だ、謝るのは当然のことだろう」
「でも!!!」
それでもまだ食い下がろうとする藍野に俺は先手を打つ。
「自分の非を認めない人間は、俺の中では『良い子』には入らないな」
はっ!と顔を上げた藍野はやや不満そうながらも、結局はぶつかった生徒に頭を下げ、この件は解決した。
指示を聞けるところは好印象なんだがな……如何せんまだ常識や品位が足りないようだ。改善の余地あり、としようか。
まぁでも一ついざこざが解決したことで溜息を吐く。これでこの件は、一旦解決だ。依然としてまだまだやることはたくさんある。
だが目下の課題はやはり、
「瑚珀!瑚珀!一緒に移動しよう!あ、しましょう!!」
…………藍野だな。
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