笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

文字の大きさ
上 下
22 / 112

5

しおりを挟む



 

 

 乾の温かい手が俺の手を包み込んでいる。


 




 子供体温なのだろうか。そんなところも犬そっくりだな、なんて思ってしまう。




「期待、してたんだ!!!」




 必死そうな声に我に返り、乾と向き合う。




 期待…………何にだ?




 目を見つめ返してゆっくりと続く言葉を待つ。乾が俺に何かを必死になって伝えようとしているのはよく分かる。よく分かるから、俺は急かさずに乾の言葉を最後まで聞こうとした。




「お、俺は、本当は、生徒会の皆に注意しないといけないって、仕事しないとって言わなきゃいけないって分かってた、けど…………俺が、欲張ったからっ」





 切れ切れに言葉を紡ぐ乾は、俺の両手を握った手を震わせていた。


「皆が、仕事をしなくなってまずいって思う反面、もしかしたら、俺だけ仕事をしたら龍神が俺の事を気にかけてくれるかもって、思って」



 俺が気にかける……?


 乾は、俺を気にして仕事をしていたと……?





「乾、一つ聞いていいか」


「あ、ああ」



「その、今の話を聞くと、まるで乾が俺を気にして仕事をしていたように聞こえるんだが…」



 俺の勘違いだろうか。だったら申し訳ないな。



 という思いを抱く俺に、乾はこくりと首を縦に振った。同時にかああと頬を赤くする。



「俺は、実は、ずっと龍神と話してみたかったんだ…………だが、その、俺は自分から話にいけるタイプじゃないから、今回のことで俺だけ仕事をしたら、もしかしたら………龍神の方から俺を気にとめてくれるかもしれないと、期待してしまった」



 本当に、すまない。


 二度目の謝罪でしゅんとする乾に合わせて俺の両手に込められていた力も緩くなる。




「気持ち悪いだろう…?幻滅するだろうな……」





 泣きそうな顔で乾が小さく声を震わせた。両手が離され、途端に自由になった俺の手は重力に従い自然に下りる。















────『どうしたの、瑚珀』














 気づけば俺は、乾の頭を撫でていた。






「っえ、た、つがみ…………?」







 戸惑った様子の乾にハッとする。すぐに手を離した。





「…っ悪い、ある人の癖で俺はすぐに人の頭を撫でてしまうんだ」






 最近はそれほどでもなかったんだが……同級生を撫でるなんて俺も流石にどうかしている。まして乾は俺よりもずっと身長が高くて、落ち着いた生徒なのに。





「げ、幻滅……してないのか?」





 乾が目を潤ませてこちらを見る。不安そうに瞳が揺れた。




 それに関しては断言出来る。




「してない。ついでに言うと気持ち悪くもない。……むしろ、乾が俺と関わりたくてって言うのも嬉しかった。俺と仲良くしたいと言ってくるやつはそんなにいないしな……」





 皆一定数の距離を置いて俺を遠巻きにしている。無視をされたりするわけではないが、やはり表情筋を動かさない無礼な人間にわざわざよろしくしたいと思う人は響を除けばいない。




 だから、乾が俺にそんな気持ちを抱いていて嬉しかったのは本当だ。




「ほ、本当か?!」





 目を輝かせる乾に俺が再度頷くと、乾は今までに無いくらい嬉しそうに笑った。




 その姿はまさに犬が喜んでいるようで、しっぽと耳が見えた気がするのは内緒だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

王道学園なのに会長だけなんか違くない?

ばなな
BL
※更新遅め この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも のだった。 …だが会長は違ったーー この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。 ちなみに会長総受け…になる予定?です。

僕の平凡生活が…

ポコタマ
BL
アンチ転校生によって日常が壊された主人公の話です 更新頻度はとても遅めです。誤字・脱字がある場合がございます。お気に入り、しおり、感想励みになります。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

生徒会長親衛隊長を辞めたい!

佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。 その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。 しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生 面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語! 嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。 一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。 *王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。 素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。

処理中です...