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しおりを挟む龍神side
「はっ、はぁ……っ、おかしいだろ…」
逃げ込んだ中庭で息を整えながら思わず悪態を吐く。幸いなことに、中庭には誰もいないようだった。
新入生歓迎会が始まって、一時間が経過した。
俺は異例の参加を半強制的にさせられたが、正直参加とはいえ校内の見回りをしながらでいいかと思っていた。俺を追いかけるような物好きはいないだろうと思ったし、始まる前に引いた籤で鬼側だったことで追われることは無いだろうと断定した。
なのに、何故か逃げる側の生徒達に捕まえて欲しいと意味が分からないお願いをされながら追い回され、危うく囲まれるところだった。
……これは俺の知っている鬼ごっこではないな、と思った時にはもう遅い。
「何とか撒いたな……全く、俺は鬼なのに何故追いかけられるんだ」
鬼ごっことは鬼が逃げる側の人を捕まえるものだろう。何故鬼が捕まりそうになる現象が起きるんだ。
とてもではないが見回りなんかろくに出来そうもなかった。
鬼側は捕まえた人の中から一人に可能な事を一つだけお願いができ、逆に逃げる側は逃げ切れば可能な範囲で生徒会が願いを一つ叶えてくれる、ということになっている。
そのお願いというのは例年、生徒会への個人的なものが多く、生徒にとっては生徒会に近づける数少ない機会のようだ。だから鬼は生徒会連中や人気生徒、もしくは自分の想い人を捕まえるために本気になるし、逃げる側も生徒会や人気生徒に近づくために躍起になる。
……自分の欲望のために必死になり気分が高揚し、強姦に走るような奴が発生するのはいただけないが。
さて。
「今戻ってもまた追いかけられるのが関の山だな……しばらくここに留まるか」
普段は追いかける側だから、まさか追いかけられる日が来るとは夢にも思わなかったな。
時間潰しに中庭の奥へ足を進めると、そこには見事な薔薇が中央に咲き誇っていた。
「…美しいな、これは」
赤と白の鮮やかな薔薇が、その魅力を綺麗なコントラストに引き立て合っている。紅白という在り来りな組み合わせだが、既視感や飽きを感じさせるようなことはなく、鮮烈で華やかな気品を纏っていた。
害虫などに弱いため薔薇の手入れは大変だと聞くが、この学園の事だ、ふんだんに金を掛けて腕のいい庭師を呼んでいるのだろう。
何気なしに薔薇に手を伸ばし、その花弁に指先で触れる。薔薇が少し揺れ、気高く、けれどどこか甘い香りが届いた。
意図せず頬が緩む。
────この時、おそらく俺は油断していた。
「…………龍神?」
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