上 下
15 / 20

15

しおりを挟む
「ぐっ、余を愚弄ぐりょうずるがっ、おにょれロゼッタ、ごのうりゃぎりもにょめ……!」

 しかし至極まっとうな正論に返す言葉もなく、せめて憎しみを込めてロゼッタを面罵するぐらいしかできなかったが、それすらまともな発音にはならなかった。

「裏切るもなにも最初からそのつもりでアンタに近づいてただけのことさね。第一最初に裏切ったのはルブランテ、アンタの方だろ?」
「よぎゃ、げぇっ、おえぇ! はぁっ、はぁっ、余ぎゃ、だりぇれをうりゃぎっだだどっ⁉ がっ、ごぼごぼっ」

 と、気合いでどうにかこうにか吠えたものの、もう一度大量の血を吐いてしまう。
 これでは大声を上げることは叶わないだろう。
 が、やはりロゼッタは意に介さず、涼しい顔のままとある名前を告げる。
 それはルブランテもよく見知った女性のもの。

「公爵令嬢カムシール、……馬鹿なアンタが自分から捨てたと思いこんでる元婚約者だよ。あたしに夢中になってあの娘を裏切ったくせに、よくもまあ言えたもんだ。だけどアンタも可哀想だね、本当はあの娘から見捨てられただけだってのに」

「にゃ、にゃに……?」

 とうとう視界すら霞んできたルブランテの脳裏に、カムシールの姿が思い起こされる。
 あのまま素直にへりくだっていればいずれ王太子妃になれたはずなのにそれを反故にした愚かな女、ではなかったのか。

「冥土の土産に教えてやるよ。こんな風に簡単なハニートラップに引っ掛けるような男がどうして今の今まで女に暗殺されかけなかったと思う? 答えは単純さ、これまではカムシールが陰ながらアンタを守っていたからだよ」

 王太子暗殺のため学園に潜入し、自分との交際を餌に何人かの子息からターゲットの情報を聞き出していると、必ずといっていいほどカムシールの名前が挙がった。
 曰く彼女はルブランテの婚約者かつお目付け役も担っており、その愚行を何度となく諌めてきたという。
 また、王太子妃の地位を狙って彼との略奪婚を目論むいわゆる相談女はたくさんいたようだが、これもカムシールがそれとなく裏で阻止していたとも。
 けれどもカムシールもほとほと嫌気が差したのだろう、ことロゼッタの時に限って接触どころかそもそも実際に無視されていた。
 もちろんそれ自体イジメ行為ではなかったが、相談女を装うべく利用させてもらった。

「そんなカムシールがアンタを見捨てるきっかけになったのは、そう、例の婚約破棄の一件だね。本人も言ってただろ? 暗愚ルブランテから解放されたお礼ってさ。だから婚約破棄の原因となったあたしの正体と目的に気づいていたのに、あえて見逃してくれたってわけ」

 おかげでこうやって対象に警戒されることなく懐に潜り込めた、と続ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました

コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…

婚約破棄を受け入れたはずなのに

おこめ
恋愛
王子から告げられた婚約破棄。 私に落ち度はないと言われ、他に好きな方が出来たのかと受け入れると…… ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

堕とされた悪役令嬢

芹澤©️
恋愛
「アーリア・メリル・テレネスティ。今日を持って貴様との婚約は破棄する。今迄のレイラ・コーストへの数々の嫌がらせ、脅迫はいくら公爵令嬢と言えども見過ごす事は出来ない。」 学園の恒例行事、夏の舞踏会場の真ん中で、婚約者である筈の第二王子殿下に、そう宣言されたアーリア様。私は王子の護衛に阻まれ、彼女を庇う事が出来なかった。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

【完結】前世を思い出したら価値観も運命も変わりました

暁山 からす
恋愛
完結しました。 読んでいただいてありがとうございました。 ーーーーーーーーーーーー 公爵令嬢のマリッサにはピートという婚約者がいた。 マリッサは自身の容姿に自信がなくて、美男子であるピートに引目を感じてピートの言うことはなんでも受け入れてきた。 そして学園卒業間近になったある日、マリッサの親友の男爵令嬢アンナがピートの子供を宿したのでマリッサと結婚後にアンナを第二夫人に迎えるように言ってきて‥‥。   今までのマリッサならば、そんな馬鹿げた話も受け入れただろうけど、前世を思したマリッサは‥‥?   ーーーーーーーーーーーー 設定はゆるいです ヨーロッパ風ファンタジーぽい世界 完結まで毎日更新 全13話  

私知らないから!

mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。 いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。 あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。 私、しーらないっ!!!

処理中です...