上 下
8 / 20

08

しおりを挟む
 探りを入れるかのような問いかけ。

 それまでの恭しい口調が崩れてどこか男勝りな印象の物言いになっていたが、本人がそのことに気がついた素振りは見受けられない。

 おおかた内心焦っており、それどころではないからだろう。

 つまり――私の予想は的中したということね。
 まあ元から確信はあったのだけれど。

 とりあえずこの張り詰めた雰囲気を弛緩させるためにも、彼女の問いに答えることにした。

「ええ、もちろん。ですが今の私は貴方も知っての通り殿下とはなんの関係もないただの公爵令嬢です。だから貴方の邪魔をするつもりはないのでどうぞお好きになさってください。なにがあったとしてもを貫きますから。それと、すっかり言葉遣いが乱れていますよ?」

 私の指摘にしまった! という表情を浮かべたロゼッタは慌ててそれまでのお嬢様然とした態度を取り繕う。
 まあ器用ね。人間は虚を突かれた時にこそ素が出てしまうものだけど、すぐに脱ぎ捨てた仮面を取り繕うとする姿勢は大事。

「……っ、その通告に一切の嘘はありませんわねカムシール様?」

 その様子がなんだか微笑ましいものに思えて、初めてロゼッタに人間味と親近感を覚える。
 だから不安であろう彼女を安心させるためにも改めて念を押しておこうかしら。

「誓って貴方の正体《こと》を誰かに話したりしません。これはのお守りから解放された私なりのだとでも思ってくださいな」

 だけど、ただ伝えても面白くない。
 まるで暗号のようにこれまた言葉の裏に真意を混ぜて言う。
 先ほどの意味を理解したのだから、これで相手にも伝わるはずだと。

 案の定、暗愚が果たして誰のことを指しているのかすぐに理解したロゼッタは目を細めた。

「――ああ、つまりなのですわね。でしたらわたくしも遠慮なく、そちらのご厚意に甘えさせていただきますわ」

 頷き、それから少しばかりの沈黙が流れる。
 気分はまるで共犯者のよう。
 ああなんだか、気分が高揚してきたわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※エブリスタに投稿した作品の加筆修正版です。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

もう、振り回されるのは終わりです!

こもろう
恋愛
新しい恋人のフランシスを連れた婚約者のエルドレッド王子から、婚約破棄を大々的に告げられる侯爵令嬢のアリシア。 「もう、振り回されるのはうんざりです!」 そう叫んでしまったアリシアの真実とその後の話。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

すべては、あなたの為にした事です。

cyaru
恋愛
父に道具のように扱われ、成り上がるために侯爵家に嫁がされたルシェル。 夫となるレスピナ侯爵家のオレリアンにはブリジットという恋人がいた。 婚約が決まった時から学園では【運命の2人を引き裂く恥知らず】と虐められ、初夜では屈辱を味わう。 翌朝、夫となったオレリアンの母はルシェルに部屋を移れと言う。 与えられた部屋は使用人の部屋。帰ってこない夫。 ルシェルは離縁に向けて動き出す。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。 10月1日。番外編含め完結致しました。多くの方に読んで頂き感謝いたします。 返信不要とありましたので、こちらでお礼を。「早々たる→錚々たる」訂正を致しました。 教えて頂きありがとうございました。 お名前をここに記すことは出来ませんが、感謝いたします。(*^-^*)

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

処理中です...