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「テナス商会にようこそお越しくださいました。当店はお客様の満足度優先をモットーに営業しております」

 私は受付嬢として足を運んでくれた顧客の一人一人に折り目正しく挨拶をおこないます。
 元婚約者のダズと生活をともにする前はやっていたことなので抜かりはありません。

 あれから父はダズの一件で苦労をかけた分私にしばらく自由を満喫しなさいと言ってくれましたが、どうせ他にやることもないですし、なによりなにもしないでいるのは私が落ち着かないので、こうして昔やっていた父の仕事のお手伝いに復帰させていただくことにしました。

「あれ、メリエッダちゃん? いつの間に戻ってきたの? 男爵家の貴族様のところで暮らしてるって聞いてたけど」

「ああロッシュさん、お久しぶりです。実は婚約破棄をされまして、それでこちらに戻ってきたんです」

 以前からの顔なじみの方が私の存在に気づいて挨拶してくれました。
 顧客の顔を覚えるのが受付嬢の仕事の一つでもありますが、こうして向こうにもこちらのことを覚えていただけるのは嬉しいものですね。

「そうなんだ、大変だったみたいだね。君みたいに気立てがいい美人を捨てるなんてその貴族様もずいぶんと贅沢者だな。だったら俺がメリエッダちゃんを代わりにもらってもいいかな?」

「ふふ、ロッシュさんもお上手ですね。でも私は高いですよ? そうですね、まずはお父様に話を通してもらってから――」

「あっいっけね、今月俺、ピンチなんだった! この店一番の宝石を買うのはまた今度で!」

「では、またのお越しをお待ちしております」

 おどけながら去っていくロッシュさんを静かに見送ってから、私も業務に戻ります。
 とはいってもピーク時が過ぎたこともあって人の出入りも減り、もう少しで暇になるでしょう。

「すまないが道を開けてくれ。俺はここの受付に用があってな」

 ちょうどそのタイミングで再び私を尋ねてくる影があり――。

「……やはり帰ってきたのか、メリエッダ。噂を耳にしたのだが、お前がレイドリー家の長男から婚約破棄されたというのは本当か?」
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