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しおりを挟む「うう……ん」
すごく良く寝た気がする。ん? なんだか眩しい……
明るい!! 寝坊だっ!!
ガバッと飛び起きようとして、体がびくともしないことに気がついた。背後からウィルに抱きしめられていて、僕はウィルの腕の中にすっぽりおさまっていた。
「どこに行く気だ?」
「ウィ、ウィル。あの、僕、寝坊しちゃったから、宿と食堂の手伝いに行かないと……」
「休みをもらったから寝てて大丈夫だ」
「えっ? 本当? よく父さんたちが良いって言ったね」
僕が言うと、ウィルがニヤッとした。
「初夜のあとは動けないって知ってるからだろ?」
「うっ! 動けるもん!!」
「へぇ~? 本当?」
むむっ?! そりゃあ、ちょっとお尻が痛い気がするし、体も変な所が筋肉痛みたいだけど! 親がエッチしたのを知ってるって、めちゃくちゃ恥ずかしい~! しかも、そのせいで動けないとか!!
ちょっと痛いけど、仕事はできると思ってベッドから抜け出したら、ウィルはニヤニヤしながら見ていた。歩けるもんね、と立ち上がろうとしたんだけど……膝がへにゃっとなって、ぺったりと座り込んでしまった。
「——なんで?」
「え~っと、ちょっと激しく可愛がりすぎたからかなぁ~」
ウィルがクスクス笑いながら僕を抱き上げてベッドに戻してくれた。
「エッチすると動けなくなっちゃうの……?」
「慣れれば大丈夫さ。だから、毎日エッチして練習しような?」
「ま、毎日は無理っ!!」
「俺は、毎日抱きたいんだけどな」
真剣にエッチなお願いをするなんてずるい!! だってかっこいいんだもん!!
「み、三日おき、なら……」
「我慢できない」
「じゃ、じゃあ、二日おき」
「無理」
「一日おき……」
「仕方ないか……慣れたら毎日シような?」
本気で毎日する気だ!! 僕のお尻、大丈夫かなぁ。
このあと、ウィルが僕にご飯を食べせたがって贅沢にもベッドでご飯を食べたんだ!! 病気の時しかこんなことしたことないよ~!
「あ~ん、って口を開けるの、エロいよな」
「エロくないよ! そんなこと言ったら、全部エッチになっちゃうじゃないかぁ~」
「俺にはアンディの全部がエロいからその通りだな」
「ううう……ウィルも、僕には全部カッコ良くてエッチだよ」
「ふっ……嬉しいよ」
ちゅっとおでこのキスしてくれて、動けるようになってから食堂の手伝いに向かったんだけどさ。ちょっと恥ずかしいよね。
「あら、アンディ。もう大丈夫なの?」
「か、母さん?! 大丈夫だよ! 仕事手伝うね」
「おばさん、今日は俺も手伝います」
「あら、お義母さんって呼んでくれて良いのよ~」
「おい、まだ気が早いぞ! アンディ……無理はすんな。その代わり、婿をこき使うからな!」
「はい、お義父さん」
「俺はまだお義父さんなんて許可はしねーぞ!! 式が終わってからだ!」
父さんはむっつりしてて複雑そうだった。うん、こっちが普通の反応だよね? 母さんが柔軟すぎるんじゃない?
「アンディは今日はキッチンの中にいろ。ウィル! オーダーは頼むぞ」
「了解!」
「ウィルは警備隊に仕事は行かなくて良いの?」
「休みをもらってるから心配するな」
こんな風にいつもの日常に戻ったと思ったけど、まだ片付いていない問題があったんだ。
午後になって、食堂の仕込みで閉店している時間に、馬車を飛ばしてようやく彼女の父親が迎えにきた。安心したのもつかの間で、都会の金持ちの横暴さを見せつけられた。
「はぁ? 今、なんとおっしゃったんですかね?」
僕の隣では父さんが青筋を立てて怒ってるし、ウィルは視線で殺しそうなオーラを放ってマリンさんの父親、ジムキンさんを睨めつけている。彼の隣にはマリンさんが座り、エドナさんが後ろで申し訳なさそうな表情で控えていた。
「ですからね。ウィリアム君をマリンの婿として王都にって誘っているんだよ。君も、こんな小さな町の警備隊なんてつまらないだろう? うちの婿養子になれば、贅沢三昧ができるよ」
「お断りします。俺にはアンディがいるので。そもそも、どうして娘さんだけの旅をさせたんですか? 危険でしょう」
ウィルが低い声で話すときは怒りを押し殺しているときだ。
「この先のマディーナに、芝居見物に行きたいと言いましてな。隊商に同行させて、護衛もしっかりつけていたんだが……」
お芝居を見るために、あんなことに?! もしかしたら、みんなお嬢様を助けるために犠牲になったのかも?
「軽率ですね。狙っていた男は他にも仲間を引き連れていましたよ。気になった相手を誘拐し合う、最低な連中です。そのせいで俺の恋人も危険な目にあって大迷惑です」
「あ~、そのことだけどね。本当にその子が恋人なのか? まぁ、かわいい子だとは思うが、うちの子の方が美しいし子供だって」
「うるさい!! おとなしく聞いていれば調子に乗りやがって!!」
ウィルがイスを蹴散らして立ち上がり声を荒らげると、二人はびくっと肩を震わせた。
「アンディは世界で一番かわいい俺の恋人で、プロポーズも受けてもらったんだ。さっさと王都へ帰ってくれ」
すると、マリンさんがシクシクと泣き始めて、その場は気まずい空気に満ちていた。
「ひとめぼれだったんです……あの、私、良い奥さんに」
「なれない。俺の伴侶はアンディだ。子供の頃から決めてた。君はキレイだしかわいいんだろう。でも、俺にはその辺の石ころと同じだ。しつこくしなければここまで言う気はなかったのに」
「ううっ……グスッ……」
「くそっ!! マリン、おまえにはもっとふさわしい男を探してやる! こんな田舎の警備隊員なんかさっさと忘れてしまえ」
田舎の警備隊員だって?! なんて失礼なんだ!
「ジムキンさん、謝ってください」
「はぁ? 本当のことだ」
「命を救ってもらっておきながら、無礼な発言をするのが王都の商人なんですか。みんなに教えてあげないと」
「待て! うそを言いふらす気か?!」
「うそじゃないですよね?」
たった今、ウィルを、警備隊を侮辱した。みんな町を守るために頑張ってるのに。
「ジムキンさんよ。あんたら、さっさと王都に帰った方がいいな。うちの息子も婿も一歩もひかねぇし、結婚が決まっためでたい席にあんたらがいたら縁起が悪いんでね」
「チッ!! すぐに発つぞ!! エドナ、荷物も持ってこい!!」
「えっ? パパ? 今すぐ?」
ジムキンさんは、マリンさんを引きずるように馬車へと向かった。
「ウィリアムさん、アンディさん。主人が大変失礼をいたしました。あんなにお世話になったのに……」
「あなたも大変だな」
「僕は大丈夫ですけど、エドナさんは?」
「王都に帰ったら、退職しようと思います。では」
「あ、荷物は僕が持ちますよ!」
どんなに小さな荷物でも、荷物もちは宿の人間の仕事だ。一緒に二階に上がって忘れ物がないかチェックをしてから、エドナさんは何度も頭を下げて去っていった。
ちなみに、あの二人は、もう顔も出しませんでしたよ!
「はぁ、疲れたな」
「うん。でも……ウィルがカッコ良かった!!」
「そうか?」
僕が全力でうなずくと、父さんたちも同じくうなずいた。
「うちの婿は頼りになるな。あ、婿だよな? アンディは嫁に出さんからなっ!!」
「はい。両親から許可もらってるんで大丈夫です。でも、家は別に借りていいですか?」
「えっ? なんで?」
ウィルは答えずに、僕の頭を撫でた。当然、父さんも不満そうで、文句を言う。
「なんだと? アンディの部屋で暮らせばいいじゃねぇか」
「いやぁ、それはちょっと」
「ほほほっ! いやぁねぇ~お父さんったら! 野暮言っちゃって~! 新婚よ、し、ん、こ、ん!!」
「うぐっ」
ウィルは僕の肩を抱いてにっこりした。
「朝はちゃんと俺が起こしますから。近所に空いてる部屋を探そうな?」
「うん」
それは助かる!! やっぱりさ、親がいるところでエッチは恥ずかしいもん!
「ああ……本当はもっとロマンチックにプロポーズするつもりだったのにな。俺、ちゃんとプロポーズして結婚式で初めてって思ってたのに、さ。キレておじさんたちにバレバレの初夜って……」
「?? すっごく嬉しかったよ!! 助けてくれた時、めちゃくちゃカッコ良かった!! それに、短剣を投げてくれたのウィルだったでしょ?」
「わかったのか?」
「僕がプレゼントしたんだもん。わかるよ」
「そうだ!! 取り戻してこねぇと!! 汚いやつの血で汚しちまった……ごめんな? せっかくのプレゼントだったのに」
ウィルはションボリしてるけど……わかってないなぁ。
「あれは護身用なんだからいいんだ。後で取りに行けばいいよ。それより、いつも身に付けてくれてたのが嬉しい」
「持ってるに決まってるだろ? 一番大事な人から貰ったんだから」
「——っ!」
さらっと言っちゃうのが凄いよね。僕の顔、絶対赤くなってる。
「おまえら、いちゃつくのは部屋でやれ……」
「と、父さん! まだいたの?」
「いたの? じゃねぇぞ! もうアンディも今日は休んでろ!」
父さんはプイッとそっぽを向いてキッチンへ入ってしまった。
「母さん、怒らせちゃったかな」
「気まずいだけよ。気にしないの。だって、まさか昨夜が初夜なんて思わなかったものねぇ~! そんな場面に立ち会って、父さんも複雑なのよ、ふふふ」
「おばさんは平気そうですね?」
「そうでもないわよ、びっくりしたわ! でも、それだけウィルがアンディを大事にしてたんだってわかって嬉しかったのよ。さぁ、次は結婚式の準備ね」
母さんは満面の笑みで祝ってくれた。
「幼なじみって、なかなか先へ進めないものよね」
母さんは妙に実感のこもった言い方でため息をついた。
「母さんたちも、幼なじみだっけ?」
「そう。でも、お互いを知りすぎてダメだったカップルも知ってるから心配だったのよ。私も仕込みを手伝うから、二人は休んでていいわ」
僕も珍しく疲れてしまったので部屋に戻ると、ウィルがベッドにクッションいっぱい積んで僕を押し込んだ。しかも、心配してお茶やらお菓子を山ほど用意してくれた。
「へへへ、今日は僕がお客さんみたいだ」
「大丈夫か? 昨夜は疲れさせたからな」
「ううっ、わざわざ言わないでよ~」
「その顔がかわいいから無理」
「んっ……」
ちゅっちゅっと啄むようにキスをされると、ぽわっとして力が抜けちゃう……
「あ~! かわいい!! 我慢なんて生殺しだっ」
「で、できないよ?」
「わかってる。無理はさせないから、抱きしめてていいか?」
「うん」
僕たちは抱き合ったままベッドに寝転んだ。
「仲がいい幼なじみだって、うまくいかないことがあるんだな。アンディと両思いで良かった」
「僕も。ウィルが幼なじみで良かった。あのさ、これからも、僕とずっと一緒にいてください」
「アンディ、それって」
「僕からもプロポーズだよ。ウィル——愛してます」
「アンディ!! 愛してる!!」
ただ抱き合っているだけでも幸せで。これからもずっと、僕の隣にウィルはいてくれる。
「結婚式、楽しみだな」
「きっと世界一かっこいいお婿さんだね!」
「いいや。世界一かわいいお嫁さんだな!」
幼なじみのちょっと先の未来は、きっと、世界で一番幸せな夫夫(ふうふ)だ——
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